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ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様 〜今、あなたの後ろにいるの〜  作者: 逢月 悠希
第2章『黙した傷の在処、語らぬ想い』
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32.破天荒おじさん-2

 そんなこんなでラザラスがおもちゃになっている間に、どこかに行っていたスタッフが息を切らして帰ってきた。


 様子を見る限り、お咎め無しだったらしい。

 オスカーはスタッフと目でやり取りした後、改めてラザラスに向き直る。


「それはさておき……本当ごめん。生放送中なんだけど……」


「分かっています。ユリアさんが映っていなければ大丈夫です。私は目が見えていないので、逃げ遅れてしまっただけです」


 ラザラスの言葉を聞き、オスカーは即座に「ユリアさん映ってる?」とカメラ班に確認を取った。カメラ班は即座にそれを否定した。映っているはずがない、という回答だ。


 というよりラザラスの反応と、アンジェリアに逃げることを指示したタイミングが完璧だったのだろう——そのことに、大御所オスカーが気づいていないはずが無かった。


「違うでしょ? 俺が君の話してたことに気づいてて、生放送だった場合のこと考えて、放送事故にならないように逃げずにいてくれた……そうでしょ?」


 オスカーはラザラスの頭をぐりぐりと撫で、へらへらと笑っていた。


 鬱陶しいタイプの絡み方だ。

 流石は破天荒おじさんである。


 しかし、対するラザラスは感動しているのか、若干泣きそうだった……先程の「大好きです」と「大ファンです」は社交辞令ではなく、ラザラスは本当に俳優オスカーのファンなのだろう。


 憧れの人に感謝されて、嬉しくないはずがない。


「え、ええと……ッ、う……」


「ああもう完全にキャラ崩壊だねぇ。君ね、もうこっちで売り出そうよ。この余裕の“よ”の字も無い感じ、“色んな方面”にウケそうだわ」


 ラザラスはどちらかというと冷静沈着なタイプのため、極めて珍しい姿を公に晒してしまっていることとなる。


 そんな姿を見て、ロゼッタが平常心を保てるわけがない。

 オスカーへの嫉妬心はどこかに飛び去った。

 むしろ、感謝しかなかった。


(ラズさん可愛い……っ!!!)


 ロゼッタは胸を押さえ、心の内から湧き出てくる感情を口に出さないよう、必死に耐えている。

 これだけ見ると完全に『何かの心臓発作を起こした人』でしかないのだが、残念ながら誰の目にも見えていないために通報的な意味ではセーフである。

 そして間違いなく、今の彼女はオスカーが想定した“色んな方面”のうちの1人だ。


 そんなことはつゆ知らず、ロゼッタは何かの心臓発作を起こした人状態のまま、影の外を見続ける。


「その……まあ、どちらにせよ、今の私はほとんど顔が見えていないので大丈夫ですよ。せいぜい“金髪のデカいの”って認識されるだけでしょう」


「いや、リアンくんね……君、どう見てもグランディディエ人じゃなくてアズラ人ですーって容姿だから、申し訳ないけど今後はパパラッチに気をつけて?」


 そういえば、とロゼッタは考える。


 ラザラスは国籍こそグランディディエ連邦だが、アズラ人のスピネル人のハーフだ。

 しかも外見に関してはアズラ人、よりによって竜人族の血が濃く発現してしまったタイプだ。


(ラズさんも言ってたけど……本当に変な国籍の取り方、したんだろうな……)


 そもそも、彼からまともに“家族”の話を聞いたことがない。

 誰も何も言わないが、だからこそ、触れられない——ロゼッタがそんなことを考えていると、オスカーがまじまじとラザラスの顔を覗き込んでいた。


「あー、素顔、気になるなぁ。包帯、取ってくんない?」


「それこそ放送事故だと思います。お茶の間にグロ画像が流れます」


「大丈夫大丈夫、俺の最新作もグロかったし」


「あれはそもそもR-18作品だからOKなのであって……」


「はははは、そうだなぁ……あっ、オスカー・ドレイク主演作『チェックメイト』、現在全国の映画館にて放映中でーす」


「オスカーさん演じる警部ロナウド……熱く頼りがいのある彼が、自らの執念で犯人を追い続ける姿。本当に、胸が熱くなります。

 18歳以上の方は、是非劇場へ。ディズリー先生が手掛けた原作の魅力も、全面に出ていますよ」


——誰が映画の宣伝をしろと!?


 目撃者全員が、流れるような宣伝に衝撃を受ける。

 勿論、打ち合わせは一切していない。


 当然ながら台本もない。

 綺麗に噛み合っているだけである。


「俺のファンも一押しの作品になってるみたいね。てか原作も読んでるんだ?」


「そのー……ディズリー先生の小説が好きで……」


「要は大好きな人がコラボしちゃったのね! そりゃ見てるわな!!」


「……。公開初日に行きました」


「あっはっはっは!」


 ロゼッタは振り回されっぱなしだというのに、何故か心の底から嬉しそうなラザラスを「可愛いなぁ」と眺める。


 大ファンなら仕方ない……が、少しだけ寂しくもあった。


(ラズさんがこんなにも“誰か”を純粋に慕ってるの、あんまり見たことないや……ちょっと、羨ましいな)


 影の向こう側では、相変わらずラザラスがオスカーに絡まれに絡まれていた。

 そうこうしているうちに、2人の前にいる番組スタッフが、何やらスケッチブックを必死に振り回している。


 すかさずロゼッタは識読(ルーンリード)を使い、内容を確認する。

 どうやら、撮影時間が押しているようだ。


 それを見て、オスカーはヘラリと笑った。


「ん? ああ、楽しくってね。ごめんごめん……そうだ、これ」


 オスカーはカメラ係にそっとメモを渡してから、ラザラスの頭を撫でて手を振るう。


「君さ、演じてる時より……今の方がずっと良い顔してるよ」


「~~っ!」


 もはや、ファンサービスだった。


 そろそろラザラスが倒れるんじゃないかと本気で心配になった。


「じゃーねー、リアンくん。また会おうか~」


 ラザラスは、気合と根性で穏やかな笑みを浮かべる。


「ふふ、是非お会いしたいです……それでは、お気を付けて」


 そしてオスカーは次のターゲットを探しに行った。

 破天荒おじさんは、突然嵐のようにやって来たかと思いきや、好き勝手喋って嵐のように去っていった。


「……」


 ラザラスはフラフラと近くにあった椅子に腰掛け、自身の髪をくしゃりと掴んだ。


「はああぁあ……」


 ため息が深過ぎる。流石に気疲れしたのだろう。

 相手は大御所で、しかも生放送だったのだ。


 ロゼッタは「お疲れ様でした」とテレパシーを送ろうとした……が、


「オスカーさん、かっっっこいいなあぁ……!!」


(ほんっっっと大ファンじゃないですか!!!!)


 違った。

 疲れたんじゃなくて、余韻に浸ってた。


 これまた普段は見られない、可愛いらしい姿である。

 彼がALIAのファンだったことは既に知っているが、好きな俳優がいたことは知らなかった。


 とはいえ、元々俳優志望なら好きな俳優のひとりやふたりいるだろう。ロゼッタの中のラザラス辞典が潤った。


(でも、確かにラズさんって素の方が好かれそうなんだよなぁ。この感じ、そのまま出せば良いのに……)


 確かに放送中のラザラスは、『リアンという架空の人間を演じている』と言った方がしっくりくるような振る舞いをしている。

 その喋り方の癖は、どこかオスカーに近いような気がした。


 そして彼は大好きな俳優、オスカーの役を真似ることで自分自身を隠していた……という事実が、全国区で流れてしまったわけだ。

 大事故である。


(んー……んんー……視聴者層、被ってるのかなぁ? どうなんだろ……?)


 放送を見ていて、さらにALIAの番組も見ている視聴者がどれだけいるかは分からないが、これはリアンの認識が変わりかねない出来事だということは、ロゼッタでも理解できた。


 せめて良い方向に変われば良いんだけど、と願っていると——ふいに厨房の方で、ガタンと物音がした。


「!?」


 慌ててそちらに視線を向ければ、カメラマンとオスカーの姿がそこにはあった。


 どうやら、()()()()されていたようだ。オスカーは親指を立て、満面の笑みを浮かべて叫ぶ。


「リアンくん、良いねええぇ!! 君、マジで最高だわ!! やっぱ君、キャラ作んない方が良いよー!!」


「うわあああぁぁ!?!?」


(公開処刑だあああぁああ!!!)


——オスカー・ドレイクの突撃社員食堂


 この番組は本来、俳優オスカーが食堂で暇そうにしている番組ディレクターなど、()()()方々に突撃して弄り倒し、裏事情が透けるレベルで際どい番組告知をさせるという、悪ふざけ系ぶっとび番組である。


 常に報道事故の危機に怯え、胃を溶かしているスタッフが放送中も手放さない携帯端末には、放送局関係者及び各事務所の電話番号が入っている。


 今回のように、放送中にスタッフが謝罪電話を掛けに出走するのも割と恒例行事だ。

 残念すぎることに、実際の放送には『スタッフ出走中』という事前準備されたテロップが入るくらいには、恒例行事だ——むしろ、これがこの番組の醍醐味である。


 だが本日の突撃社員食堂は「うっかり顔出しNGタレントの容姿を公開した挙句、そのタレントを公開処刑する」という、普段とはまるで方向性の違う放送事故を炸裂させてしまった。


 結果、しばらくの間はリアンに関する検索件数が異常値を叩き出した上に、動画投稿サイトにこの放送の無断転載が相次いだ。


 これにはネットに好き放題書かれた過去を持つラザラスの精神状態がかなり危ぶまれたが、顔面が事故っていたおかげで髪色と肌の色が珍しいことくらいしか分からず、身バレは一切せずに済んだ。

 本当に、ギリギリセーフだった。


 そしてラザラスの関係者は何故か、彼の顔面を事故らせたギルバートに感謝する珍事件が発生した。

 間違いなくギルバートはとんでもなく困惑したことだろう。


 さらに言えば、ビデオオンデマンドサービスでは『神託の姫君』の再生数が異常値を叩き出した。

 “隠れた名作”と名高い作品がリアンのせいで20年の時を越えてバズってしまった。“隠れてない名作”と化した。


 あと『チェックメイト』も当たり前のように観客動員数が伸びた。


 致命的な事件は、起きずに済んだ。

 何なら巡り巡って、ちょっと経済効果が出た。


 しかし後に、番組スタッフはこう語ったという——『もう胃は存在しないものだと思った』、と。


【Tips:ディズリー先生】

 フィクション、もしくはノンフィクションの推理小説を専門に手掛ける小説家、ディズリー・カーマイン。

 彼の作品は仄暗いものばかりだが、そもそも推理小説専門家な時点でそれは仕方がない。

 人間の汚い面をこれでもかと繊細に描き出し、事件に繋げていく手法は天才的であると推理小説界だけでなく、心理学者からも評判が高い。そもそもディズリーには高等研究院で犯罪心理学を研究していた時期があるため、ある意味それも当然といえる。


 基本的に評価が高い作家だが、強いて問題を挙げるとすれば『どの作品も難しすぎる』ことだろう。

 謎解き要素を求めて手を伸ばすと痛い目に遭うようなレベルの作品しかないため、読者側にある程度の頭の良さが求められる。


 ドラマ化、映画化された作品もあるが、『そもそも作品を読むだけでも大変』という事情があるせいで、俳優陣は毎回苦戦しているようである。

 そんな中で相性が良いのか、オスカー・ドレイクは彼の作品に複数回登場している。

 その結果、映画版『チェックメイト』はディズリー側が主演俳優にオスカーを指名するという愉快なことが起きた。


 上記の作品、『チェックメイト』は、過去に無差別殺人犯によって妻を殺された刑事、ロナウドの執念の話である。

 刑事仲間と協力しながらある事件の調査をしていたところ、その犯人は過去に妻を殺害した犯人と同一人物だと判明する。

 それによりロナウドは捜査から外されてしまうが、彼は職を追われることを覚悟し、たったひとりで捜査を続ける……といった話。


 なお役が役なだけに、オスカーは収録中にとんでもない迫力の熱演を披露し、刑事仲間を演じていた若手俳優および撮影スタッフを泣かせるという珍事件を起こした。

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