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ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様 〜今、あなたの後ろにいるの〜  作者: 逢月 悠希
第2章『黙した傷の在処、語らぬ想い』
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25.夜明け前の覚悟-2

 ルーシオが戻ってきた後、(問答無用でラザラスを家に送り届けてから)ロゼッタは会議室に通された。発言を促され、おもむろに口を開く。


「まずですね、返り血の量でお察しかと思いますが……戦闘員が多すぎましたね。入口付近に8人、道中で30人前後が一気に来て、その後に追加が10人、進んだ先でさらに10人ちょいって感じでしたね」


 まずトータルで60人超え、というのが恐ろしすぎる。それを実質1人で捌ききるクロウも異常だが……流石に多すぎる、と3人は困惑を隠せない様子だった。

 ヴェルシエラは「うーん……」とこめかみに手を当てながら話し始めた。


「たぶん、確実にクロウちゃんを仕留める目的だったんじゃないかしら。規模の割に、戦闘員が多過ぎるのよねぇ」


 彼は机の上に建物の見取り図を広げている。ロゼッタは曖昧な記憶ではあったものの、どこに何人の戦闘員が配置されていたかを説明していった。


「基本的には近戦でしたね。ここと、ここには狙撃兵が混ざってたのと……あ、この辺りに隠し部屋がありましたね。追加の10人はここから出てきて……全員が“なれ果て”でしたね」


 少しだけ、言葉が詰まる。人ではない()()にされてしまった彼らの様子が、その姿が、脳裏をよぎる。


 どうにかこうにか忘れようと頭を横に振るっていると、エスメライが声を上げた。


「いや、待て! なれ果てが出てきたのか!?」


 クロウの発言からして分かっていたが、やはりエスメライたちはなれ果ての存在に気づいてはいなかったようだ。あれは、ドラグゼン側の不意打ち戦法だ。


 その際のクロウの反応には触れず、ロゼッタは口を開く。


「ガッツリ出てきましたね……あ、なれ果てについては、その時に説明してもらったんで……普通に話してもらって、大丈夫ですよ」


「……」


「クロウのやらかしの1つがなれ果て案件なんですよ。どうも捕縛対象だった人、なれ果てを全く制御できてなかったみたいで……目の前で、襲われちゃいました」


 恐らく、なれ果てが暴走した段階ですぐ、男の救護に行っていれば。

 少なくとも尋問に掛けることはできる程度の負傷ですんでいただろう——それができなかった、という意味ではクロウのミスなのかもしれない。


「でも……クロウはわたしに『見るな』って、気遣ってくれてたんで……それで、捕縛対象の人を、助けるのが遅れちゃって……だから……」


 視線を落としたまま、エスメライは口を開く。


「良い、分かってる。分かってるから……あんまり、思い出すな」


 ロゼッタに「なれ果てを見せたくなかった」というのはエスメライも同意見だったらしい。彼女は額に手をあて、ゆるゆると首を横に振るった。


 そこで、ヴェルシエラが机の片隅に置いた通信機に目を向けつつ、口を開く。


「通信機オフ事件は戦闘員が30人出てきた時、でしょうね……流石に数が多すぎて、怪我するかもって、それを知られたくないって思ったんでしょうねぇ。

 まあ、回収班(レトリーバー)と会ったタイミングで思い出して電源入れ直したんでしょうけど。それじゃ遅いというか」


(流石に分が悪すぎる、とは言ってたもんね……わたしを慰める意図でそう言ってくれたのもあるだろうけど……)


 ロゼッタはそんなことを考えつつ、口を開いた。


「その回収班を放置した件に関しては、わたしが勝手に言うべき案件じゃないような気がする、とだけ。できるなら聞いて欲しくもないな、というのが本音です」


 そう言えば、ヴェルシエラは「困ったわね」とでも言いたげに首を傾げてみせる。


「そっちも、何となく予想はついてるんだけどねぇ。だからこそ、聞かないでおくわ。本人が勝手に話し出す可能性はあるけどね」


「あぁ~……確かに自分から言いそう……」


 それも「全部自分が悪い」という方向性で。

 すごく、嫌だ。嫌いだ。


 そんなことを考えていても仕方がないため、ロゼッタは気持ちを切り替えて、真面目な話をすることにした。


「たぶん、なんですけどね。ルーシオさんやエスラさんが戦闘員の人たちを選ぶ時って、何かしら判断基準があるんですよね? 良かったらそれ、教えてもらえませんか?」


 予期せぬロゼッタの問いに困惑しつつも、ルーシオは瞬時に頭を切り替え、口を開く。


「レヴィは派遣先が高層階の場合はほぼ確定だ。空飛べるだけに、屋外からの襲撃および脱出が可能だからな……だが、レヴィの問題は接近戦が苦手なことだ」


 ラザラスはヒト族で、クロウは有翼人族だが隻翼だ。必然的に空を飛べるのはレヴィだけだ。それは、妥当な判断だろう。


 そしてレヴィが接近戦に弱いことも納得できる。

 そもそもが狙撃手な上に、あの腕の傷では——腕力が、弱いことも想定される。


「接近戦を強いられる可能性があって、上空に逃げるのも困難なケースが想定される場合はクロウかラザラスをレヴィとペアにするんだが……大抵はラザラスだな。

 ラザラスの経験が浅いのも理由ではあるが、クロウは単独で行かせても大体何とかしてくれるってのが理由だ。低階層で、さらに言えば戦闘員が多い場合はほぼほぼクロウで確定だな」


「まあ、今回がまさにそれですし、何とかはしてましたしね……」


「ただしクロウは戦闘のプロな代わりに、他の2人と比べると若干やらかし率が高いのが問題ではあるんだが。

 何なら一番やらかさねぇの、多分ラザラスなんだよな……あいつ、結構周り見て動けるんだよな。グランディディエ育ちなのもあって、機械にも強いし……」


 クロウのやらかし率に関してはドラグゼン側の集中攻撃を食らいやすいのも原因な気はするのだが——こればかりは、自分が勝手に話すべきではない。そもそも、彼らもそんなことは分かっているだろう。


(うーん……難しいのは、分かってるんだけど……)


 だからこそ、ロゼッタは()()しておこうと判断した。


「クロウ、しばらくはレヴィさんと一緒に動くようにした方が良いと思いますよ。本人が嫌がるかもしれませんが、バディ戦の方が良いと思います。

 ……ほら、わたしは何となく、次の同行は許してもらえない気がしますし?」


 ピクリ、とルーシオの耳が動いた。


「……その判断の、根拠は?」


 あるには、ある。だが、言わない。

 色々と腹は立つが、クロウの矜持をむやみやたらに傷つけたくはない。


「根拠は無いです。勘です。でも何となく、次は無傷じゃ済まない気がするんですよね。

 レヴィさんは精度の高い転移(テレポート)が使えますし、ラズさんの時みたいに、クロウに何かあった時にはフォローができるかな、と」


「……」


 ルーシオが黙り込んでしまった。

 そういえば彼は風呂場でクロウと話しているはずだ。そこで、何かあったのかもしれない。


「分かった。忠告、感謝する」


 こちらが最低限しか言わないことを選択している以上、下手に踏み込むべきではない。

 そう思い、ロゼッタは引いた。


(多分ドラグゼン……次も『なれ果て作戦』か『商品に何かしらトラップを仕込む作戦』、最低でもどっちかはやってくると思うんだよね……)


 今回の件、ドラグゼン側の被害は決して“小さい”とは言えないだろう。

 どれだけ規模の大きい組織だろうと、約60人がかりでたった1人を仕留められないのは効率が悪すぎる。さぞかし腹立たしく、思っていることだろう。


 だからこそ、クロウに対して精神攻撃を仕掛けるようになったのだろうが——もしやるなら連続で来るに違いない。


(たぶん、ラズさんの負傷はバレてないんじゃないかな、とは思うんだけど……レヴィさんが選ばれる条件があまりにも分かりやすいんだよね。

 だから……レヴィさん“以外”が選ばれるタイミングは簡単にバレちゃうんだろうな)


 こちらの手が、あまりにも読まれやすい。

 これは、ステフィリオン側の戦闘員が3人しかいないからこそ発生している問題だ。

 そして、裏方であるルーシオ達も、そんなことは痛いほどに分かっているのだろう。


(無責任かもしれない。でも、それでも、わたしだって……っ)


 ロゼッタは、声を上げた。


「わたし、やれることは全力でやりますから!」


 何ができるというわけではない。

 何も、できないかもしれない。


 今回、結果的にクロウを余計に傷つけてしまったように、裏目に出てしまう場面もあるかもしれない。

 それでも、ロゼッタは思うのだ——守られてばかりなのは、嫌だ、と。

 

 その発言を聞き、エスメライは困ったように笑う。


「ありがとな、ロゼッタ……色々、引き受けてくれて。あんた、まだまだ幼いのにさ」


「……いえ」


 やはり今回の同行の件を気にしているのかもしれない。

 エスメライの表情が、暗い。

 これ以上、話を長引かせない方が良さそうだ。


「さて、わたしも帰りますね。またラズさんが脱走しててもいけないんで!」


「そうだなぁ……って、なんでストーカーに脱走の心配をされてんだよ、あいつは……」


 別にラザラスを監禁したいわけではないのだが、あの状態でむやみやたらに外に出て欲しいとは思えなかった。

 いたずらめいた笑みを浮かべ、ロゼッタはエスメライを見上げる。


「じゃあ、次はちゃんと『見つけにきて』くださいね!」


「おーおー……舐めプはやめろよな、こっちも頑張るからよ」


——朝日が、拠点を照らしている。

 それを感じながら、ロゼッタはラザラスの家を目指して飛んだ。

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