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ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様 〜今、あなたの後ろにいるの〜  作者: 逢月 悠希
第2章『黙した傷の在処、語らぬ想い』
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22.声無き号哭-1

 逆探知を避けて離れた場所に降り立つと共に、クロウは木々の間を走り抜け、あっという間に目的地に到着する。


(クロウってテレビとかそういうの無い場所で育ったって言ってたけど、間違いなく森の中とかそういうのだね。慣れすぎというか……)


 何度か、うっかり置いて行かれそうになってしまった。恐らく、この後も彼は容赦なく進んで行くだろう。

 魔術を使う時は極力詠唱をするという約束はしてくれたが、どんな使い方をするか分からないだけに、油断するとクロウが目の前から消えそうだ。


(一瞬でも油断したら、本当に置いて行かれそう)


 一応、といった様子で周囲の様子を伺うクロウの姿を見ながら、ロゼッタは「どうすれば置いて行かれないか」と思考を巡らせる。

 現状する予定はないが、本当に目をつぶろうものなら置き去り確定だ——が、クロウは本当に容赦が無かった!


「さぁて、行くかね。初手だからコイツも詠唱すっか。【空間収納(アーカイブ)】」


(もう!?)


 目立つ容姿を晒している以上、長時間物陰に隠れている方が目立つのかもしれない。


……そうは思ったが、行動が早すぎる。

 クロウは異空間からサバイバルナイフを取り出して逆手に持ち、さらに詠唱を重ねる。


「【隠影(イクリプス)】、【黙影(サイレンス)】……【感影(センス)】」


(多い多い多い!!)


 ただでさえ身体強化(エンハンス)系統を複数使っていることが確定しているのに、ここでまだ追加するのか!?

 黙影に至っては、一体何回重ね掛けしているんだ!?


 影に飛び込まれた上に綺麗に気配を消されているせいで、目視では見失ってしまいそうだ。

 とはいえロゼッタはクロウの戦い方を知らない。今は近づくべきではないと判断し、クロウを見失わないように自身に強めに視力強化(ヴィジオ)を掛け、その場で待機することを選んだ。


 少し先、錆びついた倉庫の前を、戦闘員と思しき人間が徘徊している。ざっと数えた感じだと、6人はいる。


(うーん、拠点自体もブライア拠点の時と比べたら規模大きめっぽく見えるし、入り口に立ってる人も多いなぁ……こっちは実質クロウ1人しかいないのに……)


 ロゼッタが冷静に状況判断をしていると、特に大柄な男の背後を狙ってクロウが飛び出していた。男の太い動脈を切り裂き、流れるように近くにいた人間の胸を貫いた。


 胸を貫かれた男が、悲鳴を上げる。周囲の人間がクロウの存在を認識する——が、既に遅い。

 クロウは瞬時に空間収納を発動させてサバイバルナイフを片刃の長剣に持ち替える。そして、集まった“獲物”の胴体を一気に薙ぎ払う。


 彼は戦闘員たちが崩れ落ちる姿も、長剣を放り込むために再び展開した異空間さえも見ずに、赤く光る目を、白い右手を、倉庫の天井へと向ける。


「【影撃(ノクス)】」


 小さな、黒い刃が飛ぶ。闇属性の初級攻撃術だ。

 殺傷能力はあまり無いものの、天井にいた2人の狙撃兵を落とせれば十分だったらしい。

 小さな悲鳴と共に落ちてきた彼らの首は、地面につくよりも早く胴体から離れていた。


(これ、は……)


 ラザラスとレヴィに対しても「速い」と認識していたというのに、クロウはさらにその上を行っていた。体感だと数分どころか、数十秒のレベルだったようにも思える。


 クロウはいつの間にか再び持っていた長剣を一振りし、血を払う。

 飛び散った血が、無機質なコンクリートの上に半円を描く。その隙に、ロゼッタは彼の影に移動した。


……近づいて、分かる。


 当の本人は息が切れている様子すらない。これくらいは余裕だと言わんばかりに、ただ冷静に返り血を拭っている。実際問題“余裕”なのだろう。


 ロゼッタが近くに来たことを察しているのかどうかまでは分からないが、クロウは軽く息を吐き出し、思念を送りつけてきた。


『どうだ? 初手でこれだぞ。この先、もっとエグいことになるぞ』


 彼の周囲には、多種多様な亡骸が転がっている。ただそれだけで、普通なら泣き叫び、悲鳴をあげるような状況だった。

 

 しかしクロウ本人が言うように、これはまだ、“初手”に過ぎないのだ。


 彼が事前に忠告してきた意味が、よく分かる。

 最初から意地悪でも何でもなく、心配の意味合いが大きいことは分かっていた。

 だが、ロゼッタの想像を遥かに上回る光景が、そこにあった。それでも、ロゼッタは折れなかった。


『大丈夫。怖くないかって言われたら、完全には否定できないけど……行ける』


「はっ、そうかよ。流石にもう、引き返してやれねぇからな」


『分かってるよ』


 ロゼッタに最後の意思確認をした後、クロウは男達が守っていた入口へと歩みを進める。

 本来は短めの刃物を得意としているのか、彼は長剣を異空間に放り込み、最初に持っていたサバイバルナイフに持ち替える。


 そして、間髪入れずにドアを蹴り破り、目の前にいた男の脳天を貫いた。


(!? き、気づかなかった……よくよく考えたら、クロウ、『感影』使ってたっけ……そこにいるの、見えてたんだ……)


 彼はラザラスにどうにかこうにか感影を使わせようとしていたという。


……その結果は、惨敗だったようだが。


(普段の生活のこともあるけど……確かにこれ、前衛やるなら欲しいよね。前衛はどうしても敵に見つかりやすいわけだし、

 背後取られることもあるかもだし……んー、今、ラズさんに遠隔で掛け続けられてるし、着いて行けなくても対処できそうではあるかな……)


 そんなことをぼんやりと考えていると、いつの間にかクロウがかなり先に進んでいた。


(あ゛っ!?)


 置いていかれる!

 こんな場所に置いていかないで!!


 焦ったロゼッタは、大慌てで彼の後を追った。

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