13.後方支援部隊の成り立ち-1
良い感じに話がまとまりそうだったのに、いきなり何なんだ!?
クロウの発言に、ロゼッタはついカチンと来てしまった。
「ど、ド変態ストーカー!? いきなり何!? 失礼すぎない!?」
そう返せば、クロウは右手をひらひらとさせながら鼻で笑う。
「はっ、ド変態にド変態っつって何が悪いんだ?」
——とりあえず、ものすごく下に見られていることはよく分かる。
ラザラスとは違う方向性で美しい男に馬鹿にされた。
そのせいなのかどうかは分からないが、何故か無性に腹が立った。
「確かにわたしはストーカーだけど、言い方ってものがあるじゃない!」
「あいにく、変態相手にまともな喋り方してやる義理はないんでね。
つーかストーカーの自覚持ってんじゃねぇか!? 自覚があるならとっととやめろ!」
「やだ」
「やだじゃねぇんだよ、このストーカー!
いっそ“ストーカー竜娘”って自称しろ! テメェの名前は今日からこれだ」
「勝手に変な名前付けないでくれる!?
わたしはラズさんに“ロゼッタ”って名前、付けてもらったんだから!!」
こっちはちゃんと、“ストーカーの正規雇用”を受けたというのに!
見た目と口調が微塵も合っていない男に対し、ロゼッタはひたすら怒りをぶつける——残念ながら、常識的に考えるとクロウの言い分が圧倒的に正しいのだが、それを指摘する者は誰もいなかった。
何故なら、(レヴィは若干困惑しているとはいえ)既にロゼッタのストーカー行為は正式に認められてしまっているからである。
ストーカー行為を認めた第一人者であるエスメライは苦笑しつつ、クロウの肩を叩く。
「こら、クロウ。そもそもな、頼んだのあたしだから。落ち着けって」
「嫌ですよ! ていうか正気ですか!?
ラザラスの判断力が落ちてそうなタイミングで、こんなの押し付けるとか!!」
こんなの、と言いながらクロウはまたロゼッタを指差している。
何となく返答は読めているのだが、感情を抑えきれなくなったロゼッタは噛みつきに行ってしまう。
「こんなのって酷くない!?」
「こんなのって言われるようなことやってるテメェが全面的に酷いだろうが!!」
(は、腹立つ~!! 無駄に綺麗なのが余計に腹立つ~!!)
儚げで、桜どころか粉雪に攫われそうな見た目をしているというのに、あまりにも気が強すぎる!
こんな見た目なのに、猛吹雪で凍えそうな世界の中でも仁王立ちしてそう!
(たぶん戦闘員で1番仕事できるんだろなってのも含めて腹立つ~!
わたしもわたしで、何でこんなに怒ってんのか分かんないけどぉ!!)
何故か、本当に何故か自分自身の感情が制御できなくなっているのを感じながら、ロゼッタは(クロウも同時に)エスメライに視線を向ける。
喧嘩しながらシンクロする2人を見たエスメライは吹き出し笑いをしながら、主にクロウに対して説明を開始した。
「ほら、ロゼッタは竜人族だろ? サポートにちょうど良いんだよ、ラズが魔力量ポンコツなのはあんたも知ってんだろ?
この状態じゃサポートが無いと何もできないのは分かるだろ?」
「魔力譲渡なら別にオレでもできますし、何なら毎朝『視力強化』でも『聴力強化』でもなく『感影』掛けに行ってやりますよ! わざわざこんなん付けなくても!」
「いや、あんた、イレギュラーとはいえ2週間も遠征してたわけだし……またそういうの起こらないとは限らないしさ。
そもそも今回のだって、新しい回収班候補探しに行ったヴェルさんと入れ替わったからこそ、今日帰ってこれたわけだし」
「な、なら、毎日でも『転移』使って、戻ってくれば……」
どうにかこうにか抗おうとしているようだが、エスメライの反論は止まらない。
彼女は肩をすくめながら、首を横に振るった。
「あんな、あんたも魔力枯渇させたらダメな体質じゃん?
こっちは転移なんて負担がデカい術、ぽんぽん使って欲しくないわけよ。医療従事者として認めらんない。
そもそもクロウの転移は飛距離も正確性もレヴィに劣るから、長距離で使うのは最終手段みたいなもんじゃん?」
「うぐ……っ」
「今日だって何回使って帰ってきたんだよ。良い感じに飛べたとしても、10回近くは術使ってんだろ?」
「……っ、分かりました、分かりましたよ。利点はあるんですね? ですが……」
とにかくロゼッタに頼りたくないらしいクロウが、ひたすらエスメライに論破されている。魔術的な意味では、どう足掻いても『ロゼッタを使う』に軍配が上がってしまうようだ。しかしクロウは全く折れない。
エスメライの説得は無理だと判断したクロウは、すっとラザラスに視線を向ける。
「あのなぁ、そもそも論として、ラザラスは本当に良いのか? 押し切られてんじゃねぇのか?
知られたくねぇこと、されたくねぇこと……なんかねぇのかよ」
結局のところ、クロウが心配しているのはラザラスのプライバシーと身の安全だ。
彼は「お前が自分で断れ」と言わんばかりにラザラスを見つめた。
だが、肝心のラザラスは何故かきょとんとした表情を返してくる。
「? 別に、もう良くないですか? 知られちゃ困ることは大体全部知られちゃいましたし、今更……」
「……。お前さ、今年で23だったよな? ほら……年齢的に、その、いかがわしいものとか、部屋に置いてねぇのか?」
「置いてませんね。未成年の教育に悪いようなものはありませんから、安心してください」
「ド変態の教育の心配はしてねーんだけど……」
嘘だろ、とでも言いたげにクロウは最後の頼みの綱として、レヴィに視線を向ける——レヴィは黙って首を横に振った。手遅れだ、と言わんばかりに。
一連の流れを見て、ロゼッタはおもむろに口を開く。
「なんでクロウ、そんなにストーカーが嫌いなの?」
「普通の感性してたら嫌に決まってんだろ! お前は馬鹿か!!」
苛立ちを隠せない様子で、クロウは自身の頭を掻いている。
ここで、再びエスメライが動いた。
「たぶん大丈夫だよ。今回、あんたがいない間にレヴィとラズ助けてくれたのはロゼッタだしさ。ほら、“追跡班”に近いもんって考えてくれたら」
「追跡班はそもそもが“変態集団”でしょうが!!」
聞いたことの無い単語が出てきた。
ロゼッタがエスメライに視線を向ければ、彼女は「あー、はいはい」と説明を開始する。
「ロゼッタは回収班のほうには会ったことあるよな?」
「はい、あります。あ、追跡班も後方支援部隊ですか?」
「ん、正解。回収班はヴェルさん直属の部隊で、知っての通り、違法取引の被害者や捕縛した尋問対象なんかを回収してくれる奴らだな。
中には転移使える奴もいて、今回もなんだけど、ヴェルさんの移動手段になってる……で、追跡班はルーシオの直属で、泳がせてる悪い奴追いかけてもらったり、ドラグゼンの動向を可能な限り探ってもらったりする部隊だな」
「? 追跡班のが、大変そうですけど……」
命の危険があるのは、明らかに追跡班の方だ。
それを“変態集団”呼ばわりはあまりに酷いのではないか?
……そう思っていると、エスメライはロゼッタから視線を逸らして乾いた笑い声を上げる。
「そもそもなんだけどな……回収班も追跡班も、きっかけはどっちも“クロウのファン”だ」
「クロウのファン」
エスメライは相当に不機嫌そうな男の肩に腕を回しながら、反対側の手でちょいちょいと彼の顔を指さして見せる。
「こいつさ、口はとんでもなく悪いけど、儚げで綺麗な見た目してるだろ? あと薄々感じてるだろうが、クロウはうちのエースなんだよね。
同じ前衛型ならラズの方に軍配が上がることもあるっちゃあるんだけど……まあ、めちゃくちゃ強いわけだ」
「それは、確かに、薄々……」
名前だけなら定期的に出ていたし、今回帰ってこなかった件も恐らく『そもそも一番難しい案件を託されていた』からだろうし。
(ラズさんも格好良いけどヒト族だから怖いって人もいるだろうし、レヴィさんは銃撃戦の人だから裏方寄りだもんなぁ……見たことないって人も、いそう。だったらクロウが印象に残りやすいってのも、まぁ……)
この見た目で物凄く強い、しかも有翼人族となれば、ファンが付くのも当たり前かとロゼッタは(腹立たしさを覚えつつも)納得する。
ロゼッタが微妙に違うことを考えていることに気づいたエスメライはケラケラと笑い出した。
「あ、心配すんな? ラズとレヴィのファンも普通にそこそこいる。被害を未然に防げてるだけで」
「ですよねー……って、被害?」
何かおかしなワードが出てきた。「話を戻すよ」とエスメライは口を開く。
「まあ、助けた人間の中から、『力になりたい』、『一緒に頑張りたい』って言い出す奴らが出始めてさ……それで結成したのが回収班。
今はクロウのファン以外もいるんだけど、最初は事情が事情だからクロウの直属だったんだよね。でも、それが間違いだった」
「間違い……」
「立場を利用して、何人か“やべーの”が出てきちゃってさぁ……クロウが風呂入ろうとしたら風呂にいるとか、クロウの部屋の窓に貼りついてるとか、あとは風呂にいるとか風呂にいるとか」
「うっわ、気持ち悪っ!!」
なんだ、その変態たちは——ロゼッタは思わず、条件反射で叫んだ。




