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7.続・不法侵入-1

 拠点の1階で待機していたロゼッタの目の前で、桃色の髪がふわりと揺れた。


「あ、ラズさん! 大丈夫そうですか?」


 ゆるくウェーブのかかったショートボブの少女が、紫の丸い瞳を細めて微笑む。ロゼッタ以上に小柄な彼女は、分解したライフルのパーツを喫茶店エリアの長テーブルに並べていた……彼女の容姿と場所と行動が、万物が、合わなさすぎる。

 その姿を見て、階段から降りてきたばかりのラザラスは言葉を返した。


「ん、ああ。さっきまで仮眠してたし、大丈夫だ。レヴィの方こそ大丈夫なのか?」

「ボクは全然大丈夫ですよ。どちらかと言うと、武器が物理的に壊れまくってるのに困ってます……」

「壊れたのか?」

「襲い掛かられた時に、何丁か盾として使っちゃって……整備しても、ダメっぽいです。完全に壊れちゃいました。ボクの不注意で壊したから、すごく申し訳ないんですけど、ヴェルさんにお願いして、新しいのを仕入れてもらわないと……というわけで、今日はショットガンが使えません。すみません……」


 そう言って組み立てたライフル銃を握りしめた少女——レヴィは困ったように笑った。


「いやいや、それは大丈夫。しかし、久々のバディ任務だな。最近は単独任務ばかりだったからなぁ」

「ですね。狙撃手としては前衛さんがいると、本当に助かります。今日はよろしくお願いしますね!」

「こちらこそ。フォロー、頼むよ」


 ラザラスと会話しながらぴこぴこと動いている少しだけ長い耳と、背中のわずかに紫がかった黒い翼が彼女の桃色の髪を引き立てている。

 エスメライの話から判断するに、彼女は髪型と服装にこだわりがあるようだが、今は武装状態故にシンプルにまとまっている。それでも隠しきれない可愛らしさがある……のだが。


(えっと……存在だけで情報量が多すぎるよね……?)


 可愛い。本当に、可愛い。

 あまりにも可憐な彼女の姿を改めて見て、ロゼッタは心の中で叫んだ。


(まず“レヴィ”って名前なのに、間違いなく女の子だし! 女の子っぽい男の子ってわけでもなさそうだし……そして謎のファッションリーダーと狙撃手を両立してるし! しかも“謎の種族”だし! 情報量が! 多い!!)


 謎の種族ではあるが……レヴィは有翼人族の、恐らくは“カラス種”だろう。


 有翼人種の中でも特に魔力量が多い彼らの最大の特徴は、竜人族のように尖った耳だ。

 そして彼らは髪や翼、目の色素が黒い……はずなのだが。目の前の少女、レヴィは万物がちょっと怪しい。


(間違いなく、カラス種じゃない血がガッツリ入ってるんだろな。一体何が混ざったら、あんな綺麗なピンク色が出るんだろ……?)


 奴隷として高値で取引されるのは竜人族が主なのだが、有翼人族も人気の“商品”だ。繁殖場にいた頃に、何度か見たことがある。


(……そういえば、嫌な話を聞いたことがある)


 有翼人族は、血の混ざり方で色合いや魔術師適性等、様々な部分に影響が出るという特性を持つ。そんな彼らの特性を利用し、好き放題やっているブリーダーがいるのだ。

 買い手がオーダーした色や力を求めて、該当する有翼人族を捕まえ、『それが出る』まで掛け合わせていく——思い出すだけで、背筋が冷えた。


(ほんと、嫌な話……まあ、こういう嫌な話をガッツリ知ってること自体も、相当に嫌なんだけど)


 レヴィの奇抜な容姿の出所は分からないが、彼女が繁殖場出身の人身売買被害者でなければ、と願う。


(有翼人族といえば、アンジェさんはレヴィさん以上によく分かんなかったな)


 彼女の美しい歌声のことを考えれば、カナリア種やウグイス種辺りの血が入っているのかもしれない。


(あー……そうだ。そうだった)


 ふと、どちらも()()()()として人気の種であることを思い出し、ロゼッタはおもむろに首を横に振った。

 こんなことは、あまり積極的に考えるべきではない。極めてデリケートな話であり、何より、勝手に想像すること自体が『手に職をつけて生きている』彼女に失礼だ。


「準備できたら、今回は魔術掛けるので教えてくださいね」


 レヴィの声を聞き、ロゼッタははっとして意識を外へと向ける。

 彼女もだが、ラザラスは動きやすい黒い衣服を見に纏っていた。

 光の反射さえ徹底的に押さえ込むような特殊な染料で染められた衣服は、夜の暗闇に溶け込むためのものなのだろう。


(いや……服だけ目立たないようにしても、この2人は相当目立つんじゃ……)


 光り輝く金髪をしたラザラスに、鮮やかなピンク髪のレヴィ。

 さらに言えば、真っ白だったクロウも色々とよろしくない気がする。


(わたしを助けてくれた時も、そのままの見た目だったし……)


 いくらなんでも彼らは素の容姿が目立ちすぎだろうと、ロゼッタが考えていた時のことだった。


「クロウさんは意図的に隠そうとしないんですけど、普段はボクら、髪色も目の色も変えてますよ。

 でも竜人族レスキューの時だけは、ラズさんはすぐに術が解けるように調整しているんです。

 だって、竜人さんなら……ラズさんの青い目を見たら、すぐに安心できるでしょう?」

(!?!?)


 急にレヴィがこちらに向かって話しかけてきた!

 見つかってしまったのかと狼狽えたが、自分以上に狼狽えているラザラスの姿を見て、逆に冷静になってしまった。


「れ、れ、レヴィ……?」

「ふふ、勘ですよ、勘。話を聞いた感じだと、ロゼッタさん、基本的にラズさんの近くにいる気がするんです。

 今のボクらを見ているとしたら、容姿のこと、絶対不思議がってるでしょうしね」


 そう言って、レヴィは愛らしく微笑む。

 可愛いのに、怖い!!


「でも、勘は外れているかもしれません。急に話しかけて、動揺させたかったんですけどね……。

 そしたら魔力が乱れて、ボクでも探知できるかなって……無理でした。クロウさんなら分かったかもしれないんですけど……」

(あっぶなぁああ!! 調整間に合って良かったぁ……)


 その勘は合っている。合っているし、戦略も完璧だった。

 見つからなかったのは、レヴィに探知される直前に、ロゼッタが気合いと魔力量の暴力で強引に気配を消しただけだ。


(一応、この人にも勝てるみたい……良かった……)


 レヴィの魔力量は、アンジェと同じくらいな気がする。

 油断するとバレそうだったアンジェを基準に判断すると、つまり『ロゼッタには大きく劣るが、世間一般的に考えれば決して低くはない』くらいだ。

 ロゼッタが魔術を使うことに慣れていないせいで、定期的に危うくなっている。今のところは魔力量でどうにか突破できているが、そろそろ誤魔化しきれないかもしれない。


(話聞いてる感じだと、わたしよりは下っぽいけど、クロウって人が飛び抜けて魔力持ってるっぽいしなぁ……ずっといないから、何とかなってるけど……)


 早々に対策しなければいけない場面だが、彼らは今から敵地に乗り込みに行くところだ。


 場所はナイトシェード州のアシュフォール、という場所らしい。

 事前説明をしていたルーシオの話を聞くに、どうやら、かなり治安が悪い場所のようだ。


(何か、手伝いに……いや、ここはあえて残るのも手かもしれない……)


 ラザラスとレヴィの帰還を信じて、ストーカーをやめる。

 その間はラザラスの家か、拠点内の彼の自室を漁る……アリかもしれない!


(自力でラズさんの家まで戻れる気がしないし、まずやるならここの部屋だよね。

 ラズさんの部屋は、2階の左から3つ目の部屋だったかな……魔術教本とか、置いてないかなぁ。

 手伝うにしたって、色々覚えてからじゃないと難しそう)


 少なくとも基本の魔術くらいはきちんと名前を覚えて、適切に使えるようになっておきたい。

 アンジェとレヴィにバレそうになったことを考えるに、いきなり敵地でゴリ押しをすれば、逆にラザラスたちを危険に晒しそうだ。


(……。次はちゃんと、着いていけるように頑張らなきゃ)


 最終的な終着点は犯罪(ストーカー)に落ち着きつつ、ロゼッタはラザラスの影からこっそり離脱し、彼とレヴィが旅立つのを見送った後——拠点にあるラザラスの部屋に侵入した。

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