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68.バカと異常と希望と-1

 回収班(レトリーバー)転移(テレポート)担当の3人組に連れられ、エスメライはティスルに降り立った。

 目的は、推し活(過激)に勤しんだ結果、別班結成という謎事態を引き起こした者たちの体調確認である。

 彼らは近いうちに別拠点に移されることが決まっているため、その前に念のため診察を、という話になったのだ。


「ありがと、助かったよ」


 エスメライは3人組に手を振り、追跡班(ハウンズ)に会うために扉を開いた。

 その流れで別班組を呼び出すつもりだったのだが、エスメライの姿に気づいた数名がとんでもない勢いで駆け寄ってきた。


「クロウさん、義手着け始めたって本当ですか!?」


「どうなんですか!? やっぱり動きやすそうですか!?」


「ああ、良かった……尊い……」


「両腕での戦いを見たい! ぜひ……ぜひ……エスラさん! どうかご慈悲を!」


「ご慈悲を!」


——黙って扉を閉めた。


(なーんか、なんか変なもん見えたな……気のせいかな……)


 疲れているつもりはないが、疲れているのかもしれない。

 そんな矛盾した気持ちを抱えながら、エスメライは再び扉を開く……追加メンバーが、いた。


「ラザラスさんが復帰したと聞いて!」


「レヴィちゃんが相変わらず可憐だと聞いて!」


 あまりにも酷い光景にドン引きし、エスメライはもう一度扉を閉めようとする。


 しかし、とんでもない力で阻止されてしまった。


「あの……あの! ロゼッタ様は、元気でいらっしゃいますか……!?」


(いきなり一番やべーのが出てきたんだけど……っ!!)


 ここでロゼッタで盛大に道を踏み外してしまったバカ——ギルバートが現れた!

 全員道を踏み外し気味の追跡班ではあるが、()()()()()()こいつがダントツだ。


(元気になったのは、良かったけどさぁ)


 一応、初対面ではない。

 ロゼッタほどではないが、彼は助けた時の状態が非常に悪く、落ち着いた環境についたと同時に倒れてしまったのだ。

 そのためエスメライは、彼の意識が無い時に一度診察にきている。

 だが、“彼”目線だと初対面だ。

 しかし初対面だというのに、全く遠慮がない。

 背後にあるのはロゼッタに対する強すぎる想いだ。


(大丈夫なんかな、こいつで……)


 話には聞いていたが、本当に黄金眼(おうごんがん)だった。

 文字通りキラキラと目を輝かせながら、鍛え上げられた無駄のない身体を全力で無駄なことに使っている。しかも、無駄にデカい。


「……」


 別班結成という意味不明な緊急事態を起こしてくれた問題児ことギルバートは、エスメライを無言で見下ろしている。

 バカにしているのではなく、体格的にどうしてもこうなるのだ。


……本当に、無駄のない身体を無駄なことに使っているな、とエスメライは嫌になってしまった。


「クロウは左腕生えた、ラザラスは問題なく戦えた。レヴィは可愛い。ロゼッタは元気だ。安心しろ」


 適当(すぎる)報告をすれば、色んなところから大歓声が上がる——怖い。


 そして()()を率いて成果を出しまくるルーシオを、もう心の底から、これでもかと尊敬した。


「さて、別班組。ここ出る前に診察だよ。追跡班に残留する奴らも、体調気になるのがいたら声掛けてくれ」


「あの、ルーシオさんは……?」


「最近過労が過ぎるから置いてきた」


「……。そっか。そうですよね」


「!?」


 やばい、無事だと思っていたルーシオも一定の支持を集めている!


「ルーシオさん……」


「……」


 どうやら追跡班の全員から大なり小なり好かれているらしい。

 会いたかったようで、追跡班たちは悲しげに俯いている。ひさしぶりに会える、と思っていたのかもしれない。


 その様子を見て、エスメライは顔を引きつらせた。


(た、たぶん……頼れる上司枠、とかだと思うけど……)


 万が一にでもルーシオを対象とした推し活が発生するようなら、緊急会議をしよう。

 変態もしくは変態予備軍たちを前に、エスメライは固く決意した。


 別班組が集まってくるのを待機していると、ルーシオからメールが送られてきた。

 その内容を見て、エスメライは苦笑する。


(別班の“名前”ねぇ。それは、あんたが一番最初に呼んでやるべきじゃないかな?)


 チーム推し活(過激)にちゃんとした名前がついた。

 だが、エスメライはあえて、この場ではその名前を呼ばないと決めた。


 最初に名前を呼ぶのは、自分ではなく(恐らく純粋に)彼らが慕っている人物、ルーシオにすべきだ。その方が、彼らも嬉しいだろう。


「これで全員かな? 引っ越し準備してるとこ悪いけど、別室行くよ」


……困ったことに、大体は最初に飛んできた奴らだった。

 当たり前だ、彼らは推しのために戦うことを選んだ、ありがたくも迷惑なバカの群れなのだから。当然、圧も強い。


(まあ、ヴェルさんがそれなりにやれると判断した奴らだからな。

 準備ができたら重要度低めで軽めな拠点で暴れてもらって、様子見、させてもらおうかな)


 奇行と言えば奇行ではあるが、今回は勝手に別班メンバーを選抜したギルバートのやり方が割と理に叶っていた。その発想に至っただけ、彼は優秀なのかもしれない。

 ギルバートの恐種がクロウほどではないにしろ、それなりに効果があることはレヴィとロゼッタの証言で発覚している。そのため、初手で信じてみようと考えたのだ。


 ルーシオが「ダメだと判断したら撤退しても構わない」という指示出しをすると言っていたから、そこも込みで安心できる。


 ただ、構成員がアレなだけで。

 そしてリーダーにすると決めている男が、かなりアレなだけで。


 別室に移動すると、ヴェルシエラが回収班の数人を連れて待っていた——話には聞いていたが、本当に回収班からも希望者が出ていたらしい。


 エスメライの後方にいる十数人を一瞥し、ヴェルシエラは苦笑して口を開く。


「この子たちは回収班の中では能力が高いだけで、普通だから……」


「つまり普通じゃないのが圧倒的大多数なんですよねぇ……」


 本当にルーシオは、よくこれをまとめていたと思う。

 別班結成事件により、エスメライとヴェルシエラの中でのルーシオの評価が跳ね上がっていた。


 恐らく、ルーシオの対人マネジメント能力はとんでもなく高い。

 才能レベルだと言っても過言ではないような気がする。


(そういえばルーシオの夢って聞いたことなかったな。ドラグゼンを倒したら、何かしたいことあんのかな……? 

 IT系もアリだけど、その手の才能活かせる方向に行くのもありだよね……って、そうじゃなくて)


 ルーシオの再就職先のことは一旦置いておいて、とりあえず自分の仕事をするとしよう。


 待ち時間はヴェルシエラが面倒を見てくれるとのことなので、ひとりひとりにそれなりに時間を割いても大丈夫そうだ。

 エスメライは小さな部屋に入り、メンバーを1人ずつ呼びだしていくことにした。

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