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67.嘘の海図-1

 諸々の()()()を片づけ、現場潜入組が回収してきた資料にざっと目を通し終わった。

 そうして一息ついた後、ルーシオはスマートフォンを手に、秘密のやり取りを開始した。


「宿題はまだ終わってないんだが、定期連絡だ。今、大丈夫か?」


 宿題、というのは彼から提示された「ルミナ医療財団を調べろ」という話だ。

 電話の向こうで、オスカーがケラケラ笑っている。


『あの短時間でそんな時間無いだろうし、仕方ないねぇ。しっかし君ら、派手に暴れて帰ったんだねぇ。流石流石、あっははは!』


「なんで知ってんだよ。それはともかく……さっきまで大変だったんだ。笑い事じゃない。無事に帰ってきたが、もう全員の情緒がやべぇ」


 本当に、「やべぇ」としか言えない緊急事態が発生した。


 まず、ロゼッタが初手で無理矢理クロウを連れ帰ってきてしまった。

 その後は軽く2人の間で一悶着あったが、最終的に感情が一周回ってしまったのか、揃って思考停止してしまった。


 どうしたものかと思いつつもココアを飲ませて待機させていると、時間差で帰ってきたラザラスとレヴィは静かにキレ散らかしていた——ルーシオは、ロゼッタの謎行動の意図を秒で理解した。


(珍しいこともあるもんだ、で済まなかったからな……)


 結果、全員の情緒がなかなか安定せず、何なら報告中にも(主にレヴィとラザラスが)荒れに荒れ、なかなか情報共有ができないという異常事態が発生したのだ。

 最終的に途中で会議室を追い出されたクロウとロゼッタはともかく、今回、作戦において一部終始を見ていた残り2人の情緒が安定しないのは本当に困った。


 今回の拠点、レヴィやラザラス狙いの対策も無くは無かったのだろうが、間違いなく想定はクロウの単独潜入だ。

 ゆえに、彼女らは道中の時点で相当に思うところがあったのだろうが……最後の最後にとんでもないものを見せられたせいで、感情が大爆発してしまったようだ。


(クロウを徹底的に庇う、それどころか追い出す、という判断自体は大正解だったわけだが……)


 報告中に思い出して定期的に怒り出すのはやめて欲しい。

 そのたびに宥めるこっちの身にもなってくれ。


——そんな騒動があったおかげで、資料の整理をしているうちに()()()時間になったわけだが。


 登りかけの朝日を一瞥し、ルーシオは散らかった机の上に目を落とす。

 オスカーは相変わらずケラケラと笑いながら口を開いた。


『ちょうどさっき、あちらさんから電話あったんだよね。『諸事情で今回の奴隷は用意できません』ってさ』


「おっ、今回ので何かしら潰せたのか……ん? 今回の奴隷?」


『実は『これかな?』って思う案内は来てたんだよねぇ、2週間後にナイトシェードで小さめの……“市場”って言い方はしたくないんだけど、まあ、そういうのがあってさ。

 君らが潰すことありきで、『わーい、臨時帰国して買いに行くよー! 誘ってくれて嬉しい、ありがとー!』って話、してたんだわ』


「あー、なるほど。ナイトシェード行きだったのか。つーかしれっと買いに行こうとすんな」


『いやー、めちゃくちゃ興味あったんだけどなー、残念残念―』


「棒読みが過ぎんだろ、俳優の棒読みすげぇな」


 万が一潰し損ねていた場合、もしくは関係無かった場合。

 彼は一体どうしていたのだろうか?


(放置、はしねぇだろうから……『市場自体を潰しにいけ』って言われてたんだろな。そっちだとしても、情報提供してくれそうだ)


 オスカーはふぅと息を吐き、口を開く。


『試しにさぁ? ルビーみたいに赤い輝きを持った、宝角の子が欲しいなって言ってみたんだよね。職業柄、俺は家を留守にすることが多いし、ハウスキーパー雇ってトラブルになるのも嫌だし、

 家の中に閉じ込めるけど力仕事させるかもだから、20代くらいの男の子が良いなー欲しいなーって。こんな感じで、相当ややこしい条件出してみたんだ。絶対いないだろって思って』


「確かにいなさそうだが、流れ的にいたのか? だがそんな奴、報告にあったか……?」


 パラパラと資料を捲っていると、オスカーから「いないって言われたよ」と返答があった。


『代わりに珍しい見た目の子がいるって紹介されたんだ。犬系獣人族のアルビノの男の子。身長180cm前後で、20代半ばから後半くらいって言ってたねぇ』


「ぶっ!!」


『いやー……色んな意味で、どつき回してやろうかと』


 居た。

 確かにその特徴を持つ被害者は報告書の中にあった。

 本当に()()()()()()衝撃的だったせいで、印象に残っている。


 オスカーは電話の向こうで「ふふ」と小さく笑った。


『多分、俺が提示した条件で上手いこと気に入りそうなのないかって連想ゲームさせちゃったんだと思うんだけどさぁ

……ほんとにさぁ、どつき回してやろうかと。『その子ください』って言ってみたけど』


「言ったのかよ」


『君らがちゃんと助けてくれるだろって思ってたからねぇ』


 実際問題、救出できた上に「救えなかった場合はどうなったのか」が分かったのはありがたい。

 諸々に耐えて購入する話までしてくれたオスカーには感謝しかない。


「救出済みだから、安心しろ。しかも、おかげで出荷場所の情報も手に入ったしな。感謝する」


『あはは、このアホみたいに面倒な条件で全然関係ない子だったら惨敗だけどねぇ。ま、用意できなくなってる時点で間違いなさげだけど。ちなみにこの後、その子はどうすんの?』


「軽く話聞きつつ環境整えて、スピネル王国に亡命してもらう予定だ……って、まさか欲しいのか?」


『へー、そうなんだねぇ……いらない』


「ははっ、欲しいって言われたらどうしようかと」


『いらないなぁ、平和が一番だよ。他の子と一緒に、さっさと出国してもらってねぇ』


「任せろ。そいつらが平和に暮らすための準備が終わり次第、即バイバイだ」


 ブラックジョークを交わしつつ、ルーシオは別の資料を探す。

 それを待たずに、オスカーは静かに話し始めた。


『向こうにさぁ、『申し訳ないことしたから』って、別の会場を紹介されたんだ。カイヤナイト公国での仕事も終わってる頃でしょうから、

 ちょうど良いです。あなたなら教えましょうって……VIP向けの会場だろうね。俺の“お友達”も結構な数、行くらしいよ?』


 ぴくり、と耳が動いた。

 オスカーの発言に、思い当たる節があったのだ。


 ルーシオは机の上に散らばった書類を漁る。

 そうして、紙の中から目的の紙を見つけ出した。


「オスカーさん。それの開催時期、分かるか?」


『ちょっと先だよ。9月下旬くらいだね』


「9月27日。間違いないか?」


『うん、正解。闇オークションの開始時刻は23時?』


「だな。日付跨いで、深夜2時解散予定だ」


『……よし、場所とざっくりスケジュール、言ってみようか』


 ここまで綺麗に一致するのは、同一案件でない限りはあり得ない。

 ならば、場所も一致する()()だ。


 ルーシオとオスカーは一息つき、ほぼ同時に口を開く。


「会場はナイトシェード州のアシュフォール。炭鉱奥に秘密裏に作られたイベントホールがあって、22時から遅めの食事会、23時から闇オークション開始だ」


『21時半にカメリア港を出る豪華客船があるんだってさ。22時からパーティして、23時から楽しく闇オークションするらしいよ』


 ここまで来て、まったく違う単語が並んだ。


(ナイトシェードとカメリアって……もはや真反対じゃねーか。客船の方は早めに出航してやがるし……)


 困惑するルーシオに対し、オスカーはくすくすと笑ってみせる。


『スケジュールだけは完全に一致してるねぇ。いやー、場所以外はパーフェクト!』


 そんな楽しげな様子から、一転。

 怒気の混ざった声で、オスカーは低く吐き捨てる。


『……。馬鹿にしてんね』


「ああ、やってくれたな」


 何なら、今までも全く同じことをやっていたのだろう。


 ナイトシェード州だったり、ブライア州だったり。

 掴んだ場所は、毎回違っていた。

 ゆえに毎年、違う場所に向かっていた。


 向かった先には何もなかった、とまでは言わない。

 必ず小規模な催しは行われていた。

 だが、明らかに“本命”ではないという事実を突きつけられていた。


 ステフィリオンが追い続けた、ドラグゼン主催の大規模闇オークション。


 それは恐らく、


——ずっと同じ場所(海上)で、行われていた。


「……」


 何度も、何度も何度も何度も、嘘の情報に振り回され続けていた。

 その事実が、やるせなさが、ルーシオを襲う。


 だが、悔やんでいる場合ではない。

 左手で軽く頬を叩き、前を向く。


「……オスカーさん、間違いなくあんたが掴んだ方が本命だ」


『本当に? おじさま、この界隈だと割と新参者だと思うよ?

 俺の“お友達”って結構多岐に渡るし……違う可能性、普通にあるよ?』


 確かに、そうかもしれない。

 オスカーが完全には信用されていない可能性は当然存在する。

 そのため彼がサブ会場を紹介されていることも、普通にあり得る。


『当然、根拠はあるよね?』


「元々カメリア州案件はほぼ皆無で、ノーマークに等しかったってのはある。だが、会場が陸上じゃないってのが何よりの根拠だ。

 何なら闇オークションの真っ最中は移動しまくってる可能性が高い」


『まー、そうだよねぇ。君らみたいな存在もいるわけだし、海の上でやるなら動き回るだろうねぇ。そっかそっか、陸上だと逃げ回れないのかぁ』


「あと、あんたもうちの主要メンバーの顔を見てるだろうが、正攻法で船に近づけんのはレヴィだけだ。『浮遊(アエリオン)』で近いことはできるだろうが、暗い海上を探し回るのはそう簡単なことじゃない。

 後から『転移(テレポート)』で追いかけようにも、海上じゃ座標指定が難しすぎるし、初手の目的地転移はあまりにもリスクが高い」


『なるほどねぇ。カメリア案件を取るなら出航前に潜入するか、なんとか誤魔化しつつ、すぐに小舟で追いかけていくしかないのかぁ』


「安牌を取るなら海上一択だ。ついでに……」


『俺は前々から、ドラグゼンの中には『フェリクス・ウィレットを殺害しない』、もしくはそれに準じた基本方針がある可能性を追っています』


 ラザラスが話した可能性のことを、思い出す。


(これは、もう2度と空を飛べねぇ人間に対する挑発とも、嫌がらせとも取れなくはない……)


 今まで、闇オークションは海の上で行われていた。

 そしてクロウは、表向きステフィリオンのリーダーとして振る舞っている。


 だからこそドラグゼンは、闇オークションを問題なく開催するたびに、クロウを嘲笑っていたのかもしれない——ここはお前には、絶対に辿り着けない場所だ、と。


「……」


 いくらなんでも考えすぎだろう、と首を横に振るう。だが、1mmでも可能性があるだけ、腹立たしい。


『どうしたの?』


「いや、なんでもない」


 ルーシオは握りしめた紙を机の上で伸ばしながら、深く息を吐き出した。


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