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66.静かな怒りの行方-2

(ここかぁ……レヴィさんがモニター()()()破壊した監視カメラがある部屋……)


 眼前には、重たい鉄扉で阻まれた巨大な倉庫。本来であれば戦車か何かを入れていそうな場所ではあるが、そんなものはここにはない。

 代わりに“何が”入っているのかは、当然分かっている。


 特定魔術の発動を妨害されたり、工場機械を用いて爆音を響かせ、意思疎通を妨害したり。

 戦闘員の大勢配置が発生したかと思えば、唐突に戦闘員がいない極寒の倉庫を歩く羽目になったりなど、道中には数々の妨害工作が施されていた。

 戦略的なものもあれば、正直、嫌がらせとしか思えないものもあった。


(ラズさん、流石に冷凍庫もどきは初めてだって言ってたな……)


 妨害工作に相当な金額が動いている可能性が高い、という話は聞いていたが、本当に桁違いの金額が動いていそうだ。

 そもそも、地上から見えている範囲、およびルーシオが提示した参考資料から想定できるレベルの広さではなかったらしい。

 恐らく、建物ができた当初はほどほどの大きさだったのだろう。しかし、ふたを開けてみればこれだ。地下拠点だからこそ、対外的には「防衛のため」と称した拠点拡張が可能だったのかもしれない。表から見えなければ、何も分からないからだ。


「……」


 数々の問題を突破しながらも、ひとまずロゼッタたちは被害者たちが隔離されている場所へと辿り着くことに成功した。

 ラザラスが眼前の鉄扉を開ける。外から見たところ、高級奴隷というよりは数が多い印象だ——これは、骨が折れそうだ。


(わたしも手伝った方が良いだろな……ラズさんとレヴィさんだけで回すのは大変そう)


 そんな中、当たり前のように中に入ろうしている()()()()()の存在に気づいた。


 気持ちは分かる。

 だが、それを許すわけにはいかない。


 ロゼッタはぬるりと影から上半身を出し、クロウの両足を掴む。


「クロウ」


 そしてロゼッタは、“とっておきのフレーズ”を口にした。


「今ここで『断崩霊(アナイア・ディスペル)』決められるのと、回収班(レトリーバー)さんたちの突入経路用意するの。どっちが良い?」


……クロウに対しては、もはや断崩霊の存在をチラつかせれば万物を押し切れる。


 この術絡みで悲しい思いはしたが、有益な事実にも気づいてしまった。

 視界の片隅でラザラスとレヴィが「よくやった」と言わんばかりに親指を立てている。


「……」


 それに対し、クロウは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


「オレはマジで、なんでお前にこの術を教えちまったんだろな」


 後悔している。

 本気で、後悔している。


 だが、他に影から無傷で引っ張り出す手段がなかった以上、遅かれ早かれロゼッタはこの術を覚えていただろう。


 レヴィが監視カメラの類をすべて破壊しているため、何も恐れる必要はない。

 完全に影から抜け出し、ロゼッタはクロウの顔を覗き込んだ。


「どのみち、回収班さんたちが入れるようにしなきゃでしょ? 地上に上がれる階段か何か、誰かが見つける必要あるじゃん? それをクロウがやれば良いって話でしょ?」


「それは、そうだけどよ……」


 クロウはラザラスを一瞥する。

 なれ果ての件を、相当に気にしているようだ。

 だが、ラザラス側からすれば絶対に何かしら仕込まれている場所にクロウを入れる方が嫌だろう。


 悩むまでもなく、ロゼッタはラザラスの意思を尊重した。


「分かった。行ってくる」


 数の暴力で押し切られ、クロウは渋々といった様子で回収班の突入経路を用意しにいく。


(さて、わたしはわたしでお手伝いしなきゃ)


 クロウを見送ったあと、ロゼッタはラザラスに着いて行こうとした……が、何故か両肩を優しく掴まれた。


 そして、くるりと身体を反転させられる。


「えっ、わたし……」


「君はあっち。クロウさんに着いて行って」


「手伝いますよ? 大丈夫ですよ?」


「クロウさんに着いて行って」


——話を聞いてくれる気配が、微塵もしない。


 早々に諦めたロゼッタは、少し小走りでクロウに追いついて横に並び、ぽつりと呟いた。


「さっきと同じ流れなの、やだなぁ」


「はっ、お前もやられたか。もう良い、今回ばかりはアイツらの思いやりを享受してやんよ」


 鼻で笑われてしまった。

 だが、彼に対しては相当に思うところがある。一緒にしないで欲しい。


「……クロウはずっと自分で背負ってたから、ここまで派手にやられたんだと思うけど?」


 恐らくクロウがここまで激しく摩耗したのは、今年が初めてだ。

 あまりにも、他のメンバーの動き方が露骨すぎる。


 良くも悪くも彼は組織において絶対に欠けてはならない人材だというのに、肝心の本人には周りを頼る気が一切無い。

 だからこそ、他のメンバーが勝手に動き始めてしまった。


 クロウが嫌がると分かっていても、彼の矜持を大なり小なり傷つけてると分かっていても。


 そうするしか、無かった。


「……」


 原因が自分にあることは流石に理解しているようで、軽く息を吐き出しつつ、ロゼッタと目を合わせない状態で口を開いた。


「ま、否定はできねぇな。逆にアイツらにこういう思いさせてたんだろうなって、痛いほどに気づかされたしよ」


 とはいえ、彼は自分がすべてを背負うことをやめないだろう。


 クロウはどれだけ辛くても、どれだけ逃げたくても、自分が背負うことが当たり前だと判断している。


 そんな彼の認識が完全に「間違っている」とは言い切れないことも、残念ながら事実だ。


(……間違ってはないかも、だけど……もっと、何とか……ダメだ。まとまらない。モヤモヤするだけだ)


 負の感情から目を背けながらも、ロゼッタは考える。


(やっぱり……さっさとドラグゼンに潰れてもらうしかない。それしか、ないんだよね)


 奴らを潰すには、どうすれば良いか。

 戦力を削ぐ、というよりは彼らの盤石な立ち位置を揺らがせるような動きが必要な気がする。


(国の有力者の類が、あの人たちがバックにいるから、ドラグゼンはこの国で強気に出られるわけで……その人たちが、いなくなれば……)


 ふいに、“嫌な顔”が脳裏を過った。


 目の前にいる亜人を同じ人間として見ていない、品定めするような顔。

 ギラついた、欲に満ちた下品な目。


 そういえば、確か自分を買った人間は“法務卿”という役職を持つ政府官僚だったはずだ。

 彼は何かしら手を出してくることもあったが、基本的には調教役に指示だけ出し、見ているだけだった。


 彼は、見ていた。


 買った奴隷が嫌がる姿を、命令通りにできずに酷く罵倒され、蹴られ、殴られる姿を。

 奴隷たちが怯え、どこの誰かも分からない存在に救いを求める姿を。


——苦しむ姿を眺めるのを、ただただ、楽しんでいた。


「……」


 パシンと頭を軽く叩かれ、ロゼッタは思考を“今”に戻された。


「なにすんの!?」


「ほれ、階段。上ってみて、問題なければここを経路にすんぞ」


 確かに目の前には、錆びついた鉄の螺旋階段があった。

 ぼんやりしているうちに、突入経路になり得る場所に辿り着いていたらしい。


「わ、分かった。行ってみよっか」


 カンカンと、甲高い音が響く。

 しばらく上がると、重い鉄扉があった。


 蹴破るのかと思ったが、クロウは念動(テレキネシス)を使って無理矢理こじ開けてみせる。


 周囲を見回すと、少し離れた場所で回収班を連れたヴェルシエラが待機していた。

 彼はクロウたちの存在に気づき、駆け寄ってくる。


「今回はここから入れば良いのね? みんな、こっちに来て!」


 建物の規模に合わせてか、そこそこ人数がいるような気がする。

 これだけの人数が集まると目立たないか心配になったが、幻貌(フェイクサイト)などを使って上手くやっているのだろう。騒ぎが起きる気配はない。


 回収班たちの姿を見て、クロウは口を開く。


「今回は被害者たちを連れていくだけで大丈夫です。ちょっと距離がありますし、こっちで連れてきます。というわけで、待機でお願いします」


 場合によっては途中で捕まえた人間を回収したり、情報を抜いたりする必要があるのだが、今回それは無いようだ。


 ロゼッタはクロウと一緒に、ラザラスたちの元に帰っていく。

 そこには既に、解放された人々が複数名待機していた。

 見目麗しい亜人たちは、特に暴れることなく大人しくしている。

 その近くに立っていたラザラスは、クロウの存在に気づき、勢いよく駆け寄ってきた。


「……ッ」


 かと思えば、かなり派手な音が響くほどの、もはや鉄扉を殴りつけているかと錯覚するような勢いで入り口を塞いだ。


(え……?)


 どうやら彼は、何がなんでもクロウ(とロゼッタ)を中に入れる気がないようだ。

 ロゼッタもだが、それ以上にクロウが困惑している。


「クロウさん、とりあえずこの人たちを連れてってもらえますか?」


「わ、分かった」


「で、ロゼ。君は待機で」


「? はーい」


 一体、どうしたのだろうか。

 とりあえず、ロゼッタとラザラスはクロウと亜人たちが離れていくのを見守る。


 ある程度距離が離れたのを確認し、ラザラスは「ロゼ」と優しく名前を呼んできた——が、これは分かる。何かに怒っている。


 今度は鉄扉を割りそうなほどに力を込めて、強く握りしめている。


「ら、ラズさん……?」


「……。君に、頼みが、あるんだ」


 ラザラスのいつもより低い声で、ロゼッタは万物を察した。


 これは相当に酷いものを仕込まれていたのだろう。

 ロゼッタを怯えさせないように怒りをすべて鉄扉に向けているようだが、それでも分かる。


(なんか、すごく怒ってる……)


 とんでもなく珍しい表情を見ながら、ロゼッタはラザラスの次の言葉を待つ。

 心底怒っている様子の彼は深呼吸を何度も繰り返した後、口を開いた。


「今すぐ拠点にクロウさん捨ててきてくれ。逃げたら困るから、君もそのまま拠点待機。

 クロウさんがしれっと逃げようとしたら『断崩霊』。良いね?」


 怒りのあまり、声がちょっと震えている。

 間違いなく、とんでもないものが中にあったのだろう。


(異論はないかな。レヴィさんに脱出経路教えて……後は、託しちゃおう。今回はヴェルさんもいるしね)


 とりあえず、ロゼッタはニコリと笑った。


「分かりました! でも先に脱出経路教えます。それやりながら帰り道で困らないように、レヴィさんにある程度魔力渡してから行きますね」


「助かるよ。……レヴィ! そこ落ち着いたら、こっちに来てくれ!」


「はーい!」


 レヴィの可愛らしい声が響く。


 可愛く、明るい声音の返事なのに。

 すごく、元気な返事なのに……なんか、怒りが混じっている。


 レヴィもすごく、怒っている。


(一体、何が……)


 とんでもなく気になるが、聞けない。


 もう色んな意味で、怖い。

 触れてはいけない。


 絶対に、聞けない。


 ロゼッタはレヴィに魔力を渡しつつ、脱出経路を説明しながら歩く。

 その途中ですれ違ったクロウを捕まえ、ロゼッタは問答無用で拠点まで飛んだ。

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