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62.色なき境界

 視界が、揺らぐ。


 転移(テレポート)で飛んだ先には、いくつもの倉庫が並んでいた。

 古びた倉庫ではあるが、以前訪れたブライア拠点のように見るからに放棄された様子でもなく、場所自体もサイプレス拠点のように森の中、というわけでもない。

 まだ使われていそうな倉庫群の先には、離れていても分かるほどに大きな建物が見える。


(え、これ本当に合ってる……?)


 転移場所が間違っていないか少し不安になったが、ラザラスたちの反応を見るに、ここで問題無いようだ。


(本当に結構、目立つ場所にあるんだな……それもそうだよね、国絡みの隠蔽が行われるような場所なんだし)


 今まで見つからなかった時点で、相当に上手く隠していたのだろう。

 ルーシオおよび追跡班(ハウンズ)の功績は、大きい。


 相手が目立っているとはいえ、いきなり真正面に降り立つわけにはいかない。

 そのため、今回は少し離れた場所にある人気のない倉庫エリアから屋根伝いに近づき、周囲を確認したうえで敷地内に降り立つ作戦になっていた。


(ラズさんが得意なやつだ……)


 案の定、ラザラスが先発で倉庫の屋根上に上がっている。

 置いていかれないように、ロゼッタはすかさず彼の影に潜り込んだ。


「ロゼ、着いてこれてるか?」


『大丈夫です!』


 クロウはラザラスとまったく同じ動きを、レヴィは空を飛びながら移動を開始する。


(うわ、白いな……)


……が、流石にこれはクロウがいつも以上に目立ちすぎだと感じた。


 彼があえて目立とうとしていることは分かっているのだが、今回ばかりは目立ちすぎては困る。

 ラザラスの仕事が増える。それは本当に困る。


『すみません。ちょっと気になることがあるので、動きます』


 ロゼッタはクロウの影に移動し、上半身を出す。

 そしてそのまま、彼の両足を強く掴んだ。


「んっ!?」


「このまま影の中に引き摺り込まれるのと、強制的に『幻貌(ファサード)』受けるの。どっちが良い?」


 黙り込みを決めようものなら、有無を言わさず強制的に引き摺り込んでやる。

 ひとまず、ロゼッタはクロウの反応を待った。


「わ……分かった」


「あれ? 早めに結論出してくれた」


「……遊んでる場合じゃねぇし、言いたいことは分かんだよ、流石にな」


 クロウは


「潜入までは『幻貌』掛けといてもらえるか? 中入ったら外してくれ」


「ん、りょうかーい」


 中入ったら外せ、というのは少し気に入らないが、あまり彼の方針を否定し続けるのも違うだろう。


(ヤバいって思ったら、すぐに影に引き摺り込めば良いか……)


 とりあえず、夜の闇に溶け込めるように黒くなっといてもらおう。

 そう思いながら術を発動し、クロウの髪色と翼の色を変えるために魔力を流す。


「!?」


 すると一気に色が変わってしまい、慌てて魔力の出力を止めた……危うく、クロウの全身を不自然なほどに真っ黒にするところだった。


(え、かなりあっさり行けるじゃん。びっくりした……)


 昨日の実験で、対象者が持つ属性に応じて、術者側の負担度合いが変わることは理解していた。

 それを前提に、クロウが光属性は使えないと言っていたことを踏まえて出力を強めた結果がこれだ。


(ラズさんに使った時と大差ない気がする……というか、むしろクロウの方が入りやすかったかも)


 不思議な感覚だった。

 とはいえ「何故だろう」と考えるまでもなく結論は出せた。


(あ、そっか。そもそもクロウも本当は“規格外”だった)


 ロゼッタ自身がとんでもない異常値を叩き出しているせいで忘れてしまいがちだが、クロウも世間一般的に考えると()()()()の人間だ。

 ゆえに、ラザラスどころかエスメライやレヴィよりも遥かに素の魔力量が多い。

 前提がおかしい時点で、同じように考えてはいけなかったのだろう。

 そんなことを考えながら、ロゼッタはクロウを見上げる。


(……あれ?)


 魔術が入りやすかったことも気にはなったが、それ以上に。

 クロウが黒くなった自身の髪や翼に対し、かなり露骨な反応をしていたことの方が気になった。


「……」


 髪には触れるし、翼はちらちら見ている。

 彼は何も言わなかったが、その姿を見せられたロゼッタは理由を察してしまった。


(あえて目立って敵を引き付けたい、みたいなのもあるんだろうけど、そもそも黒いのに憧れか何かがあるんだろうな。

 わたしは白いの、すごく綺麗だなって思うけど……たぶん、無いものねだりってやつだよね)


 クロウの透き通るような、雪のような白は「黒いの」と適当に扱われ続けたロゼッタからすれば、本当に羨ましいものだった。

 だが逆に、黒の色素を持って生まれるはずだった彼は、あるべき色がないせいで「骸」と呼ばれ続けた過去を持つ。


 クロウは生活に困っている気配こそあれど、自身の容姿を気にする様子は見せない。

 だが体色に対しては、本当はかなり思うところがあるのかもしれない。


(……色だけで判断されるのって、嫌だな)


 だが、今はこんなことを考えている場合ではない、と影の中でゆるゆると首を横に振るう。

 ラザラスたちに置いていかれないように、彼らの動きと周囲の様子を注視ながら、ロゼッタは先へと進んでいった。



 ◯



 しばらく進み、潜入拠点直前。


 レヴィが上空から拠点周辺を確認して戻ってきた。そして彼女は、おもむろに通信機を取り出す。


「拠点前まで来たのですが、びっくりするくらい周囲に誰もいません。場所に間違いはないでしょうか?」


 ルーシオの「何かあれば連絡しろ」という指示を守り、潜入する前に確認作業を行う。

 その間、周囲の様子を確認してみるが、狙撃兵の姿は見つからない。


 超遠隔射撃で狙われている場合は流石に分からないが、それならそれでラザラスかクロウが感影(センス)で銃弾を察知できる……つまり、本当に『誰もいない』のだ。


 ザザッと雑音が入り、ルーシオからの返答が届く。


『拠点はそこで合っている。何かしら仕掛けられていると見るのが妥当だな。しかも感影で見つけられないなら、地上階も無人と見た。

 そうなると、地下に入った瞬間を狙っている可能性が高い。とりあえず、場所に関しては心配しなくて良い。だからこそ、気をつけてくれ』


「分かりました」


 万が一、違う場所に潜入すれば大惨事だ。

 問題が無いことを確認した後、全員で裏口に降り立つ。


 ここまで来ると逆に裏口の方が危ない気もしたが、やはり地上階に人はいないようだ。


 ロゼッタは自身にも感影を使用する。

 変な機械なども、無さそうに見える……厳密にいうと機械自体はあるのだが、ラザラスとクロウが何も言わない時点で問題無いのだろう。


(わたしはそういうの、よく分かんないんだよね……)


 せめて、と感影の範囲を広げようとしてみる——が、とんでもなく頭が痛くなってしまい、慌てて術を解く。


 どうやらこの術、魔力量に関わらず()()()()()に限界があるようだ。


(んー……これじゃラズさんに掛けたのと、見える範囲はそこまで大きくは変わらない気がする……今度、『崩霊(ディスペル)』と『断崩霊(アナイア・ディスペル)』みたいな上位互換はないか調べてみよっと)


 とりあえず、潜入するらしい。

 警戒しながら中に入ると、やはり誰もいなかった。


 表向きは軍事基地というだけあって、それらしきものがたくさん並んでいる。

 やはり、地下がメインなのだろう。


 ここでロゼッタは異変に気づき、ラザラスとクロウに思念を送った。


『地下の様子、全く見えないんですけど……』


 何故か、感影が弾かれている。

 術で地下の様子を見ようにも、暗闇で閉ざされていて、全く見えない。微かな気配すら、感じられない。


 ラザラスは困惑を隠せない様子で口を開いた。


「参ったな。何故かピンポイントで感影対策が入ってる。ロゼも無理っぽいしな」


『どうも感影で見える範囲って限界があるみたいなんです。さっき試してみたんですけど、これは魔力量で押し切れないみたいで……対策されちゃうと、突破できそうにないです』


 たまたま試したものが、即座に役に立ってしまった——ただ、問題は“悪い方に”役立ったことだ。


 とりあえず怒られる前に、とクロウに描けた幻貌を解く。

 彼は色の変化を確認しつつも空間収納(アーカイブ)から長めのサバイバルナイフを出し、同時にロゼッタに思念を送った。


『お前、いくらなんでも特級魔術の無詠唱は無理だろ? 闇属性の特級に感影の上位互換があるんだ』


『え、特級!?』


『何かを目印に、かなり広範囲の探知を行える術だ。今回の指定範囲はこの建物内に限られる上に、明確に“誰か”を見つけたいわけじゃないから詳細な目印は必要ない。

 だから、今回は生体反応の類を目印にすれば良いって、思いはするんだが……その術、感影と名前が全然ちげぇし、オレは使えねぇから名前自体を忘れちまったんだよな』


『う、うーん……ちょっと無詠唱で試してみる』


『曖昧過ぎる指示して悪いな。無理はすんなよ』


 随分と便利な術を教わった。

 明確な目印があれば、一体どこまで探知できるのだろうか?


(とりあえず、試してみよう。建物内の、探知……)


 思い浮かべるだけで大体行けてしまうのがロゼッタなのだが、流石に特級魔術を詠唱せずに発動するのは厳しいらしい。

 あの手この手で発動しようともがいてみたが、何もできない。何も起きない。


『……ごめん、何も発動しない』


『それ以上は魔力暴走起こすかもしんねぇから、もうやめとけ。オレらが上手いこと突破すりゃ良いだけの話だ』


 精神感応(テレパシー)でのやり取りを終えつつ、クロウは単独特攻する気満々で階段を降りていく……ことに気づいたラザラスが、無言で彼を制止する。


「……」


 彼らは声を出さず、目線でやり取りし……最終的に『2人同時に行く』という折衷案に落ち着いたようだ。


(そういうやり取りはできるんだ……)


 無機質な金属製の冷たい階段を降りる。

 階段自体はそう長くは無く、足音を殺して降りた先には鉄扉があった。


「……」


 全員が視線を交わし、レヴィを含めた全員が自らの装備を確認する。

 声のない「行くぞ」というやり取りが、彼らの間で交わされた。

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