ほんとうのはじまり
おれから父と呼ばれたことによって涙を溜めていた王導が、やっと落ち着いたのか立ち上がると、甲概は相変わらず笑顔を向けながらそちらを向いた。
「それで、何の用でここに来たんだい?」
おれが一歩、後ずさる。
なぜなら、その甲概の問いには、笑顔の裏にひどい威圧感が見え隠れしていたからだ。
甲概は垂れ目で、困り眉。王導と年は変わらないだろうが、若々しい顔の作りをしており、笑顔を作るとえくぼができる。人に好かれそうな顔だ。
そんな完璧なはずの笑顔に、吹き荒ぶ台風のような凄味を感じた。ゆえに、おれは怖くなった。
王導は怯えもせず、こう答える。
「魔術士の育成について、文句を言いに来たんだ」
「へえ?珍しいねぇ。ずっと上からの命令にはイエスマンだった君が。言ってみなよ、その意見」
「魔術大学校での魔術試験に受かった者に、『魔術士にならない』という選択肢を与えていただきたい」
ぴり…と電撃のように研ぎ澄まされた気配が頬を掠める。空気は張り詰めている。
その中で、甲概はずっと貼り付けていた笑みを消した。
「つまり君は…『魔術士を希望制の職業にしろ』と言いたいわけだね?」
「そういうことだ」
甲概は無表情で王導を一瞥すると、こちらに鋭い視線を向ける。
「王導くんがこんな世迷言を言うとは思えない…興童くんの発言だね?これは」
「はい」
ずいぶん、想定よりも大ごとになった気がするが、ここで臆して退いてはいけない気がした。
「いいかい。世間知らずの君に、教えてあげよう。魔術大学校の試験の合格率がどれだけか知っているかな?1.7%だ。試験の合格率の低下と、優秀な魔術士の殉職により、魔術士の数はどんどん減っている。そこで魔術士を希望制にしてしまったら、どうなると思う?魔術士の数はさらに低下、そうなれば君たちが"喪服"に襲われて死ぬ可能性も限りなく高くなるだろう。魔術士は諸外国への警戒や治安維持だけではなく、"喪服"への対抗も業務内だからね。」
「でも、殉職するほど大変な職業なら、選択肢を与えてもー」
「だから、本末転倒だと言っているだろう?魔術士の数が少なくなれば、守れる人間の数も少なくなる。その場合、殉職による犠牲よりも一般人の犠牲が多く出るだろうね。」
「それでも…!」
「そんなに言うなら、君が魔術士になったらどうだい?この世の理不尽の全てから、皆を守ってみるといい。君がそんな魔術士になれば、オレも君の意見を認めてあげよう。…だが、なれるわけがない。だって君は…出来損ないの王導の息子なのだから!」
威圧魔法によって、おれたちは5メートル範囲外に吹き飛ばされる。その魔法には、なす術もなかった。
だけど、おれは、見るに耐えない着地をしたあと、擦りむいた膝を払いながら立ち上がり、威圧魔法の吹き荒れる範囲内に近づいていく。
王導は、そんなおれを信じられないとでもいうように、まるで奇跡を見たかのように目を見開く。
威圧魔法の範囲内に入った。今度は、全身に精一杯の力を込める。すると、おれの身体中から力が溢れた気分になって、甲概に一歩、もう一歩と近づく。
甲概は冷や汗をかきながらも、自嘲の滲んだ無表情を崩さない。
甲概に手を伸ばせば触れる距離になったとき、ようやくおれは口を開いた。
「なってやるさ…!全てを守れる、魔術士に!」




