燻る炎
「まず、お前の名前は興童。興じるの興に、わらべで興童。ここまではいいな?」
「はい!」
部屋に二人きりになって、まず教えられたのは自分の名前の書き方だった。
確かめるように床をなぞると、男は頷いた。
「その通り。よく書けたな」
この程度で褒められるのはむず痒いが、ともかく、言語や文字についてはおれの世界と大差ないようだ。
「次は何を聞きたい?…ああ、その前に私の話をした方がいいな。私は王導。お前の父親代わりさ」
王導の言葉に一つ疑問が生じて、訊ねる。
「父親"代わり"?」
「ああ。そうだ。お前の両親は喪服に殺されて、な…。生前のお前の父親と知り合いだった私が幼かったお前を預かることになったんだ」
知らない単語がたくさん出てきて、謎は深まるばかりだ。だが、とりあえず、興童の両親が死んでいるということはわかった。
「喪服?」
「その話をすると長くなる。こちらに来なさい」
言う通りに王導のほうに近づくと、王導はおれを抱き上げ、その胡座の上に座らせた。
「この世界では、誰もが魔法を使える。それは知っているな?」
王導の言葉に首を横に振ると、彼はため息をついた。
「そうか…前提から忘れてしまったか。では実践してみよう。お前、指は動かせるな?…よし。では、右の人差し指に全ての意識を集中させてみろ。なに、慣れれば呼吸のようなものさ」
言う通りに右の人差し指に力を込めて、意識を集中させる。すると、爆ぜるような音と同時に、指先に火が浮かび上がってきた。
「これは…!」
驚くおれと同じように、王導もまた驚いているのが見えた。
「魔術適性が変わっている…!?炎の適性ならば、伝家の小刀を使いこなすこともできるかもしれない…!いやしかし、今更適性が変わるなど一体なにが…」
なにかをぶつぶつ言い続けている王導を横目に、おれはさらに意識を込める。
すると、炎がもう一段階大きくなった。
「お前、炎が大きくなって…」
「力を込めたら込めるだけ大きくなるんですね!魔法って!」
「いや、そういうわけではないが…興童は本当は逸材だったんだ…千年に一度の、な」
楽しくなってしまって、おれは炎をどんどん大きくすると、床に燃え移ってしまい、目を丸くする。
「調子に乗りすぎたらこうなるから、気をつけろ。はぁっ!」
それを消火したのは、王導の指先から放たれた水であった。




