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刀傷の少年  作者:
11/11

エテーリャ戦

控室は、特待生やその関係者たちがごった返しになっていた。

いかにもエリート、と言ったような様相の特待生たちに少々気後れしながらも、自分の番を待つ。

指遊びをする要領で指から出る小さな炎で火遊びをしていると、こちらに近づいてくる影があった。

「てめぇが興童かぁ?」

みたところ、おれと同じくらいの年齢の、小柄な少女。華奢で可愛らしい顔をしている割には、大雑把そうだ。服を着崩し、乱雑に髪を纏めている。

口の悪さに身構えつつも返事をする。

「うん。おれが興童。君は?」

少女は一瞬癇に障ったかのように目を見開くと、大口を開けて笑い飛ばす。

「あっはっはっはぁ!君、だとぉ?誰に口を聞いてんだぃ?どうやら今年の一般枠はどうしようもねぇ阿呆ぉ、身の程知らずじゃねえか!」

「…悪かったよ、年頃の女の子への対応を間違えたようだ」

少女はさらに禍々しい笑みを深める。

「このおれをただの女と一緒にするだとぉ…?ここまで世間知らずとは笑えてくるねぃ…」

堪えきれないというように腹を抱えて笑う少女を見て、至極当然な疑問を口にする。

「それで一体、あなたは誰なんだ?」

くつくつと笑い声を響かせたあと、少女はおれを指さす。

「おれはエテーリャ。てめぇの次の対戦相手さ。魔術の使えねぇ雑魚との格の違いを教えてやんよ」


「合同魔術試験、一回戦が始まります。エウルペ連邦の先陣は、魔術特待生のエテーリャ・アルソーム氏。第15回学生総合魔術大会の優勝者であり…」

フィールドに入ったおれたちをアナウンスが紹介する声。学生総合魔術大会だのなんちゃら模試だの、よく知らない名前ばかりだが。

エテーリャは随分な実力者だそうだ。

「対するはオールト共和国一般枠の、興童氏です。」

対するおれの紹介は名前以外なし。まあ妥当か。ここで勝利を掴んで、これから功績を打ち立てればいいのだから。



「両者、魔法充填ー10、9、8…」

「待て待て待て、魔法充填ってなんだ!?」

「3、2、1…試験、始め!」


そうして構える暇もないまま始まった戦いは、観客の誰から見てもエテーリャに分があった。

エテーリャが攻撃するであろう地点は視線から予測できる。そう、元々は戦闘経験のないはずのおれだが、体のおかげだろうか、なぜか予測できた。指先から出した炎を着弾予測地点に飛ばせば、途端に黄金色の水がその全てを消し飛ばす。

「圧倒的にてめぇの不利ぃ!はやいとこ負けを認めりゃいいのによぉ?」

こちらは炎を操ることに集中して呼吸すら乱れていると言うのに、あちらは喋る余裕さえあるようだ。なんなら煽る余裕まである。

だが、言われた通りに負けを認めてはやらない。甲概に、そして王導に約束したのだから。

炎を息で強く吹き飛ばすと、エテーリャの方向に一直線に飛んでゆく。それはエテーリャの前で止まったかと思うと、あっという間にあらわれた、水流の壁になす術もなく消えてゆく。

「そんなのが攻撃かぁ?てめぇは雑魚だねぃ!一生底辺でおれたちに土下座してりゃぁいいじゃねぇかぁ!」

挑発としかとれない発言ではあったが、相手の目を見てわかる、これは本気で言っていると。

「底辺、か。ならばさらに負けるわけにはいかない」

エテーリャの明るい橙の瞳を睨んで、おれは啖呵を切る。だが打開策は見つかりそうもない。

このまま防戦一方ではいつか力に押し負ける。そう思いながらエテーリャの魔術を避けた時、腰元で鉄が揺れる音がした。

「そうか、小刀…!」

理由はわからないが、おれは本能的に小刀を肌身離さず持っていた。腰元にガサツに指してあるそれを取り、鋒を相手に向ける。

観客席から王導の声が聞こえる。「魔術以外は御法度」…だからこそ、集中して、考える。

物理的な干渉ができないなら、魔術的にこの小刀を変換すればいい。

小刀を通し、おれの記憶の中、ある日夢見た魔術を呼び起こす。


「興童、魔術ごっこか?やめておけ。お前には魔術は使えないさ。それよりも学校に早く行きなさい」

「ちょっと待ってくれよ!俺の理想の魔術が、あとちょっとで完成しそうなんだ!」

「それは妄想の中の話だろう!」

思い出の中のおれは、少し幼くて、王導に怒られては頬を膨らませていた。

いや、思い出の中の"俺"は、興童だ。これは興童の思い出であって、おれの思い出ではない。

「うーん…できたッ!!」

「やかましいぞ興童」

「ドラゴンソードだ!小刀に竜を纏わせてドーンって敵を喰うやつ!」

「お前…それ、サービスエリアのお土産みたいでダサいぞ…」

記憶の糸を辿ると、ひとつのイメージに辿り着く。

ドラゴンソード。それが"俺"の、夢見た魔術のひとつ。

意識は明確になり、止まった時間が動き出していく。


「勝てねぇと思って小道具使いやがったかぁ!雑魚の発想だねぃ!鉄なんておれの『王水』にかかればただの錆でぃ!」

エテーリャが王水と呼ばれた黄金色の水を放出した。それとともに、王水が触れた場所から小刀が溶けていく。

「あっはっは!溶けてんじゃねぇか!これで勝ちは決まったようなもんだねぃ!」

おれはずっと閉じていた目を開く。

喰らいたい相手を、じっと見据える。

「これは"俺"の幻想魔術…」

小刀の柄を持つ指先に全身の魔力を込めると、小刀の周りに浮いていた炎はみるみる形を変え、大きな龍へと変化していく。

エテーリャとの間合いは5メートル。小刀で傷つけない、ギリギリの距離だ。

おれは、最大限の力で小刀を振り下ろす。

「喰らえ!ドラゴンソード!」

小刀を取り巻く龍は、エテーリャの方向に飛び込んだかと思うと、彼女に頭から齧り付いた。

エテーリャは回避が間に合わず、そのまま龍に喰われていった。


試合前にお互いに強化魔術をかけているとはいえ、ドラゴンソードの対人火力は随分と高かったようで、龍が消えた後に残ったエテーリャは髪の毛がアフロになり、煤が至る所にこびりついていた。

呆然とするエテーリャ。唖然とする観客たち。


「勝負あり!勝者、興童氏…!」


観客席からどよめきが上がった。拍手も喝采も一切ない。

「エテーリャ、対戦ありがとう。王水、すごく強かった。ほら、握手」

どよめきがこだまするフィールドの中で、おれの声が響く。

エテーリャは何が何だかわからないというような顔をして、こちらを見ていた。

エテーリャの煤まみれの手をとって、無理やり握手すると、エテーリャの顔が見る見るうちにマグマのように赤くなっていった。

「…!!!!てめぇてめぇてめぇ!!!!ああそうだよおれの負けだよ!それは認めるよ!だがなぁ!屈辱に塗れてるおれの気持ちを考えろってぇの!!!」

握手をした手が振り払われていく。

「興童…!てめぇの名前覚えたからなぁ…!次こそはおれが勝つ!!!おれが勝って、愕然としてるお前の手を握りしめてやるぜぇ!」

そう言って走り去っていくエテーリャの背を見送ったおれは、少し反省した。

やはり女の子にいきなり握手するのは良くなかったか…。

会場は相変わらず騒めいている。おれは促されるままに控室に戻った。

お久しぶりです。長らく更新していなくてごめんなさい。またぼちぼち書いていきますぞ〜

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