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刀傷の少年  作者:
10/11

絢爛な会場

こっぴどいブレーキ音が鳴って、車が急停止する。

路肩に駐車して、どこかへの道のりを携帯端末で調べる王導の横顔を眺める。

「今のうちに聞いておきたいんですけど、合同魔術試験ってなんですか?普通の魔術試験との違いって…」

「合同魔術試験はな、国が主催している試験なんだ」

王導は指を立てる。いちから説明する様子だ。

おれも、助手席のリクライニングに身を任せて耳を傾ける。

「隣国のエウルペ連邦と我が国オールト共和国が共同開催するこの試験は、魔術大学校の教育水準を世界に知らしめるためのものだ。各国10人ずつ、それぞれの国の魔術大学校から特待生が呼ばれる。通称、魔術特待生と言って、魔術大学校の生徒の中でも特に優秀さを認められた者たちのことだな。」

「優秀なひとたちが集まるんですね…じゃあ尚更、おれには出る幕がないのでは?」

王導は首を横に振ったあと、口の端を吊り上げてニヤリと笑う。

「ここからが重要な点だ。合同魔術試験には、毎年一般枠と呼ばれる、魔術が使えない者が出場できる枠がある。」

おれにとっては都合のいい制度だが、やはり疑問が残る。

「試験なのに魔術が使えない人がいてもいいんですか?」

「一般枠の意義。それは、『魔術特待生の引き立て役』だ。魔術が使えない人間と、大魔術に匹敵するほどの魔術を駆使する特待生。その対比によって、我が国はずっと魔術大学校の成果を示してきた…」

おれは頷く。だんだんと、言いたいことがわかってきた。

「私のコネクションによって一般枠にお前が出場できるように取り持った。お前は、一般枠として実技問題を出された際に持てうる限りの魔術を行使してくれればいい。」

「なるほど、それで世界におれが魔術を使えることをアピールするんですね。とんだ裏技だ」

しかし王導は、眉間を押さえて悩ましげにこちらを見る。

「だが、魔術特待生の使う魔術は強大。かつてのお前のような半端な魔法では、民衆に嘲笑われるだけだろう。チャンスは一度きりだ」

かつての自分がどんな魔法を使ったかはわからないが、過去と現在は違う。過去から見て、未来は不定だからこそ"未"来というのだから。

「一度きりだって上等です。挑戦してやりましょう、そして見せつけてやりましょう!王導の息子、興童ここにありと!」

おれの言葉を聞きながら、王導は困り眉で笑った。涙など一粒も流れてないのに、彼が泣いているように見えたのは気のせいか。

「お前は、私をも救ってくれるつもりなのだな」


車が出発してから2時間。国境を内包するという建物に着いた頃には、日が傾きかけていた。

車のドアを勢いよく開く音がして、それと同時に王導が言葉を紡ぐ。

「ここが合同魔術試験会場だ」

「すごい豪華…!」

おれが口に出してしまった通り、合同魔術試験会場は豪華で、煌びやかなコロシアムのような作りであった。

観客席が幾重にも並び、各所スポンサーの意匠があちこちに散りばめられている。

これだけで、本来軽い気持ちで来れるはずもない大きな試験だということが見てとれた。

それにしても、いくら国家規模とはいえ、この会場は大きすぎる。その上、床も装飾も新品同然である。

「合同魔術試験って何年前からやってるんですか?」

「たしか、150年前だな。大戦が終わって、エウルペ連邦と我が国が国交を回復した年に始まったのがこの試験だ。」

150年前。随分と古い。それに大戦と聞いたが、この世界でも世界大戦が起こったのだろうか。もしそうだとしても、おれの記憶の中の世界とは、年号の辻褄が合わなさそうだが…。

「じゃあこの会場は新しく建ったもの…?」

「いや。毎年、専門学校の出の者が魔術を使って新品同然に綺麗にしているんだ」

「え?でも魔術大学校じゃなくて専門学校に行った人は魔術が使えないのでは?」

王導は途端に険しい顔つきになると、ひとつため息をつく。

「そうか。それも…忘れてしまったのか。いいか。産業革命によって、世界は魔術をより効率よく使えるようになった。その時代に発明されたのが、魔導具。魔法のレベルが低い…つまり魔術が使えない人間にも魔力はある。そして魔導具は、装着した者の魔力を吸い取ることで、代わりに高レベルの魔術を行使させることができる」

「つまり…魔術が使えない人でも、魔術が擬似的に使えるようになるってことですか?」

王導はその通りと言わんばかりに顔を顰める。

「擬似的、というと聞こえはいいがな。実際は装着者が魔力のタンクのように扱われているだけだ。こんな絢爛な装飾を新品同然にするほどの応用魔術となると、必要魔力は莫大になる。その魔力を補うためには、魔導具のバンドを何十人という人々に装着し、効率的に魔力を循環させる。魔導具が魔術を行使し終わり、たとえばこの絨毯が綺麗になった頃には、装着者は皆、昏倒状態になるはずだ。」

「昏倒、状態…」

不穏な単語に固唾を飲むと、王導はおれの手首に太い指を当てる。

「今、お前の身体は脈打っている。この身体に流れているのは、なんだと思う?」

「血液ですよね…?」

王導は緩慢とした動きで首を横に振る。

「半分不正解。正解は、血液と魔力だ。魔力は確かに対外エネルギーの面もあるが、もとは体内を循環して強化するエネルギーという一面が強い。よって、魔力を吸い尽くされた者はどうなると思う?」

「体内を流れるエネルギーが枯渇して…死ぬ…」

深刻な顔をするおれに、王導はやっと頬を緩めた。

「死にまではしない。だが、エネルギーが枯渇するのは正解だ。その場合、該当者は昏倒状態に陥る。目覚めるのは大体12から24時間後、と言ったところだな」

「それは困りますね」

「ああ。専門学校では魔導具を使わせるために、魔力の増強の仕方を学ぶんだ。専門学校出身者は、魔導具に魔力を吸い取られ昏倒するような生活をしているが薄給。それに比べて魔術大学校に通った者は、人を動かす仕事について、大抵の場合高給だ。」

王導は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「すまなかった。随分と話が逸れてしまったな。そろそろ試験が始まる。ここからは私は観客として見るから、着いていってやれないが…」

「おれに、任せてください!」

王導が、呆けたように目を見開く。

「王導さんは、そんな現状を変えたいってことでしょう?じゃあおれが代わりに、必ず立派な魔術士になって、世の中の仕組みを変えてみますから!そのためにはまず試験で力を見せなきゃですよね、絶対頑張りますから、約束しましょう!」

おれが小指を差し出すと、慣れない仕草で王導が大きな小指を差し出す。

小指をおずおずと絡める王導に、おれは笑いかけた。

コラム

魔力の強さと魔術ができるかどうかの違いって?

この2つは似てるようで異なります。魔力の強さは、いわば生命エネルギーの強さであって、魔術ができるかどうかは、魔力を使いこなす方法が上手か否かです。力が強い人が、必ず技巧派ではないように、魔力が強くなったとしても魔術は使えないことが多いです。

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