推しに百合の花束を! (見つけた編)
『じゃあね~。次の配信までちゃんと待ってるんだぞ♩』
その言葉で今日も推しのライブ配信が終了した。
時間は午前1時30分、明日の仕事には響かないはず。
「う~ん。じゃあ、私も寝ますか。」
瑠香はスマホを枕の横に置くと布団にもぐり明日の仕事の段取りを考えながら眠りについた。
山本 瑠香 26歳 地方都市に住む社会人。1年前までは会社の先輩と付き合っていたがいつの間にか自然消滅しておまけに気が付けば後輩と結婚していた。
同じ部署じゃなくて本当に良かった。
それからなんとなく新しい彼氏をつくる事もなくダラダラと過ごしていた。友達と旅行に行ったり好きなバンドのライブに行ったり充実はしていた。
その日は休日でなんとなく深夜まで動画のショートを流しながら見ていた。
色んな人が自分の好きな音楽やゲームを配信している。
可愛かったり、素敵な声だったり、本当に色んな人が色んな動画出してるよなと思いながら眺めていると、いつしかライブ配信しているチャンネルばかりが流れるようになっていた。
そんな時、あるライブが瑠香の目に留まった。
一人で雑談していたみたいでほんの一瞬だったが接続している人数がゼロになっていた。
「あ~、こうゆうライブもあるんだな~」
瑠香は思わず呟いた。
その配信者は可愛いキツネのお耳をピコピコさせながら「キャ〜。誰か反応して〜」といいながらスナックゲームをサクサクとこなしていた。
「何コレ、カワイイじゃん」
瑠香の母性本能をくすぐった瞬間だった。
瑠香は昔から推しを見つけると、頑張って沼るタイプだった。
※※※
「ルカまたその人のライブ見てるの~?」
お風呂上がりの弟が瑠香のスマホを覗き込んだ。
「うん、何かハマっちゃってねぇ~。」
「なんか、ルカが推し作るの久しぶりな気がするわ~。」
そう言って上半身裸のまま髪を拭いている弟に母親が
「ちょっと、晴樹!早く上の服着なさい!!」
と怒られていた。
「分かってるって。でも、暑いんだモン」
「大学生なのにどうしてアンタはそう子どものままなのよ!」
「男の子はいつまでも少年の心を忘れないのさっ」
「早く服着なさぁ~い」
「ちょっと、ハル。お母さんのお小言二段階に入ってるよ!」
瑠香は笑いながら晴樹に伝えた。
「やべ~、これ以上キレるとお小言が長くなる!」
と言いながら服を着るために自分の部屋へ戻った。
その後ろ姿を見ながら母親は
「まったく、いつまで高校生のつもりでいるつもりなのかしらねぇ~」
真剣に怒っているわけではない母親は瑠香に苦笑いをしながら台所を片付けていた。
「そうだね~。でも、可愛い方だからいいんじゃない?じゃあ、私も部屋に戻るね」
「は~い。おやすみ~!」
母親は明日の準備をする為にまだ台所に立っていた。
※※※
「山本さん、ちょっとこれチェックしてくれる?」
会社のデスクで作業をしているとほぼ仕事で絡むことのない佐伯が声をかけてきた。
「はい、どうしましたか?」
瑠香は心の中で舌打ちをしながら対応をする。
「ちょっと、このプロジェクトのスケジュールなんだけど、僕の所と被っているから調整して欲しいんだよね。」
佐伯は左の薬指を瑠香に見せるようにタブレットを持っている。
瑠香は無意識にその薬指を見た後、タブレットに視線を戻すと
「すみません、このスケジュール管理は私の権限では...。」
「じゃあさ、ちょっと担当の所まで一緒に行ってよ」
「えっ?マネージャーは...。」
瑠香はフロアを見渡すと
「佐伯さん、私はこちらです。その資料を共有してもらってもいいですか?」
瑠香の上司が微笑みながら佐伯に近づいた。
「小林チーフ...。すみません。ありがとうございます。」
佐伯は瑠香から離れるときにそっと肩に触れていった。
瑠香はゾゾゾと寒気を感じた為、自分の腕をさすった。
「瑠香、寒いの?空調確認する?」
同僚の早紀が瑠香に声を掛けてきた.
「あっ大丈夫、ちょっと怨霊を感じたから寒気がしただけ」
瑠香が真面目な表情で答えると
「んなわけあるかっ!それにここ12階だからいざとなったら逃げれないからやめて」
早紀はどうやら怖い話は苦手だったようだ。
「ごめん、ごめん。怨霊より怖い者が近づいてきたから」
瑠香が佐伯の方に視線をうつすと早紀も苦笑いしながら
「あ~、佐伯さんね〜。あの人結婚してるのに何かフワフワしてるよね。瑠香も気を付けなよ~」
瑠香は心の中でもう遅いんだな〜これが...。と言いながら
「そうなんだね。あまり関わった事がないから知らなかったよ」
早紀は、書類で口元を隠しながら瑠香の耳元で
「なんか、結婚した子ってこの会社の後輩なんだけど、授かり婚だったんだって。佐伯さんは同期の飲み会で『こんなはずじゃ〜』って漏らしていたみたいよ。クソだわっ」
「早紀、さすがに言葉を気を付けた方がいいよ」
気持ちは分かるけどね〜。と思いながら。
「マズイ、マズイって佐伯さんこっち見てるし。聞こえたのかな~」
と言いながら早紀は自分の席に戻っていった。
佐伯は瑠香に何か言いたそうだったが、瑠香は視線をノートパソコンの画面にもどした。
※※※
「よっ!るーちゃん。」
「お疲れ!すずちゃん!」
金曜日の終業後一人暮らしをしている高校からの友達、清水すずなのお家にお泊りをすることになっていた。夕食は近くの居酒屋で近況報告をしながら楽しく食べて飲んだ。
すずなの家に行く前にコンビニでスイーツと追加のお酒を買っていった。
すずなは甘いものが好きなので「もう気を使わなくてもいいから〜」と言いながら自分のお気に入りのスイーツを嬉しそうに選んでいた。
「すずは全然変わらないよね~」
戦利品のコンビニスイーツの袋をホクホクしながら持っているすずなを見ながら瑠香は呟いた。
「ん~?そんなことないよ~。私も大人になったよ~」
すずなは少し寂しそうに笑いながら瑠香の言葉に返した。
「そうかな〜?」
「そうだよ」
しばらく歩くとすずなの住んでいるマンションに着いた。
「ふぅ~ただいま~」
「お邪魔しま~す」
すずなの部屋は少し広めの1DKだった。
無駄なものがないシンプルなインテリアがすずなにとても良く似合っていた。
少し大き目のソファーベッドに瑠香は座るとさっそく買ってきた物を机の上に並べ始めた。
すずなは氷をいれたグラスを2つ用意している。
「はい、これにお酒入れてね」
「んーありがとー」
アルコールが低めのカクテル系を買った瑠香は缶からコップに注いだ。
淡いピンクがシュワシュワっとはじける。
ピコン
すると、瑠香のスマホから配信をお知らせする通知音が聞こえてきた。
「あっ、ね~すず、ちょっとライブ配信みていい?」
すずは部屋着に着替えた後、自分の飲み物をコップに注いでいた。
「ん?いいよ〜。久しぶりにるーちゃんは推しでも見つけたの?」
「そうそう、ちょっと気になってるんだよね」
瑠香はそういいながら動画アプリを開き始まったばかりのライブ放送を見始めた。
「まあ、今日はフリートークの日みたいだから聞き流す感じでいいだよね~」
「そっか、じゃあ、話が本格的に始まる前に乾杯しちゃおっか?」
「うんうん、じゃあ、すずちゃん乾杯!」
「お久しぶりのるーちゃんにも乾杯!」
カチンとグラスを会わせると二人はそれぞれゴクリと一口目をのんだ。
「あっ、これ美味しい〜。季節限定だからもうすぐ終わっちゃうのかな?」
机の上に置かれたままの缶をもちあげ瑠香は確認していた。
「へぇ〜そうなの?後で一口ちょうだい」
すずなも気になったのか瑠香が読んでる缶を横から覗いてきた。
そして、そのまま瑠香の方に顎を乗せる。
缶の文字を読んでいる間沈黙が流れた。
『さて、今日は珍しく僕の事を応援してくれている子からプレゼントが届きました!』
『ジャ~ン、見てみて日本酒だよ!』
配信者がリスナーから送られてきた美味しそうな日本酒の写真を画面に映し出す。
『今日はこれを頂きながら色々なお話しをしようと思いマ~ス。いや~嬉しいね。』
日本酒の写真を映し終えた画面は再びいつもの配信者の画面に戻った。
この配信者は実写ではなくキャラクターを動かしているVTuberというジャンルの人だった。
瑠香は既に缶に書かれている内容は読み終えていたのだがすずなが顎をどけてくれないのでそのままの体勢で待つしかなかった。
「るーちゃん。私に何かいう事あるでしょ?」
すずなの視線を感じる。ほぼ真横にいるから当たり前なのだが。
「ん?何かな〜?あっやっぱりこれ期間限定なんだね~」
瑠香がごまかそうとしたら、となりではぁ〜と溜息が聞こえる。
耳が近いからくすぐったい。
「始めは、確かバンドだったよね。いつもモノクロの服を着ているバンドだからるーちゃんも私服は真っ黒だった。制服でも黒いゴムとかしか付けなかったから先生に真面目な子だって思われてたよね。」
「次に好きになったのは、確かアイドルだったよね。その子のイメージカラーが青だったから...。高校生活は大変だったよね。さすがに高校生は髪を青く染める事ができないからライブの時はヴィックを通販で買って付けて言ってたよね」
すずなが瑠香の黒歴史の紐をほどいていく
「すっすずなさん、もうそんな昔の話はいいじゃないですかぁ~」
「そう、10年ぐらい前の話しだったよ」
「ほっほら氷が溶けてお酒が薄くなっちゃうよ~」
「んで、次に出来たのは推しじゃなくて彼氏。私はもうびっくりしたよ。るーちゃんは奥手だと思っていたのにいつの間にか変な男に引っかかってるしね」
すずなは瑠香の方から顎を外すとソファーのひじ掛けにもたれかかった。
「まあ、ちょっと結婚するのかな~って思っていたけど、久しぶりに聞いた話が知らない間に後輩と結婚していたって」
すずなの口調がいつの間にか瑠香を責めるように聞こえた。
「ん?あれ?すずなさん?」
そして、すずなはジト目で瑠香を見ると
「んで、次は...。次は」
すずなが何かを言おうとしたとき
『あっそうそう、この日本酒をくれたリスナーさんからのお手紙も一緒に入っていたんですよぉ〜。嬉しいよね〜。ええっと』
『少し前に、あなたのライブ配信をみて一目惚れしました!!これかも頑張ってください!!』
『ハンドルネームは』
「『ルーカちゃん!!』」
配信者とすずなの声が重なった。
「えっ?あれ?どうして、私が使っているハンドルネーム知ってるの?」
瑠香は不思議そうにすずなに尋ねると
「昔からずっと一緒に遊んでたでしょ。それこそオンラインゲームとかも。るーちゃんは面倒くさがり屋だから名前ずっと一緒なんだよね」
「やっと、あのクソ元彼と別れたからこのまま二人で一緒に遊べると思っていたのに、次は二次元って」
すずなは長めの前髪をかきあげると
「次は私の番なんだからね~。」
とニヤリと笑いながら瑠香に近づいてきた
その時、瑠香のスマホから声が聞こえる。
『ルーカ君かな?ん~でもこの感じだとルーカちゃんかな?とってもかわいい名前だよねっ』
『そうだ!今日のトークテーマは僕も皆も大好きな恋愛の話にしよっかな?』
『でも、僕はみんなの僕だから誰か一人と恋愛なんてできないし野郎の恋愛話はちょっと遠慮したいから・・・』
配信者は少し悩んでから
『女の子の恋バナが聞きたいなっ。もちろん百合でも大歓迎だよ!!』
その言葉に、瑠香とすずなが反応し思わずスマホ画面を見た後、二人はお互いを見つめた。
『コメントいっぱい待ってるよ~!ルーカちゃんも待ってるからね~』
瑠香は思った
(今は大変マズイ。何がマズイって分からないけどマズイったらマズイの~)
「ふ~ん。こうしてるーちゃんの押しも聞きたいみたいだし。軽く私とやってみる?」
いつの間にかもたれかかったソファーから起き上がりスズナに肩を持たれていた瑠香は少しパニックになり「アハハ~」と愛想笑いでごまかしてみたが
『ね~ね~、早く、僕にお話し聞かせてよ~』
すずなの部屋には配信者の声だけが響いていた。
瑠香「副題をつけるとすれは、『投げるつもりはなかったよ!』だよっ!」
配信者『面白そうだからちょっと聞いてみたかったなぁ~』
瑠香その配信者のチャンネルを解除しようとする...。
配信者『ギャ~ヤメテください。ごめんなさい』
瑠香「フンッ」
最後までお読みいただきありがとうございました。




