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『季刊 新思潮』存續の危機!?

〈元カノの頼り秋にはポストある 涙次〉



【ⅰ】


 私・私のそのまた私

 私私は何処にゐる?

 私の心は死合ひの心

 一生懸命石に齧りつき

 その日その日を生きてきた

 斃すべきなる惡漢は

 驚くなかれ刎頸の友

 それぢや惡にも馴染まうぞ

 個人の感動離れては

 詩は成り立たぬ我が詩戀しや

 惡が書く詩は怖いかえ?

 リュックサックに詰め込んだ

 石の數だけ積まにやあならぬ

 あちらの地藏さん贋物だ

 こちらの地藏さん本物だ

 菩薩を量るはばち当たり

 それが死合ひのスピリット

 精根盡きて命吐く

 それが私の死に様よ

 嗚呼如何にせん我が半生

 半分迄は到達したが

 それ續くのか血はいづれ

 今日のやうには沸き立たぬ

 今日のやうには沸點に

 到達せぬからまあ見てお行き

 坊ちやん嬢ちやん見てお行き

 私・私のそのまた私

 私私は何処にゐる

 研げば光るかなまくら庖丁

 生きとし生ける鎌倉横丁

 洒落て濟むなら

 ま、御覧じろ御覧じろ



【ⅱ】


 テオ(=谷澤景六)・じろさん(=此井晩秋)・永田の文藝同人誌『季刊 新思潮』。* ノイローゼで休みを取つてゐた永田が復帰し、やうやく再開、と思ひきや、今度は此井が拔けると云ふ。その理由。詩・散文を問はず、ポエジイを必要とする書き物は、個人の感動を離れては成り立たぬ(冒頭の阿呆陀羅經のやうな詩は此井の作)筈。ところが、谷澤と永田の作は、自身の有名作のスピンオフばかりで、『新思潮』の目指すところとしてゐた、オリジナリティを豊潤に含んだ、純文學的展開が出來てゐない。



* 当該シリーズ第1話參照。



【ⅲ】


 確かに、次號掲載豫定の谷澤の小説は『假面の告白』と云ふ中篇で、* タイムボム荒磯との漫画『着物の星』の主要登場人物、藤見愁庵の心理的葛藤を描いたもの。永田は『喪の季節』と云ふ、** 所謂「火鳥もの」の総決算となる、私小説。純文學的展開云々の點は各人に云ひ分あるものゝ、彼らの「代表作」のスピンオフ、續篇であり、オリジナリティの面では疑はしい點が散見される。彼らは余りに、『新思潮』掲載作に掛ける時間を持たずに書いてゐたのだ。



* 当該シリーズ第56話參照。

** 前シリーズ第162話參照。



【ⅲ】


 谷澤、永田は此井の意見を聴き、忸怩たる思ひを持つた。誌のスタート時に目論んでゐたもの、その約束事、が守られてゐない。だが、それで此井が會を辞めると云ふのも、極端な氣もした。此井は明らかに別の理由で苛立つてゐたからだ。


 

 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈新涼かはつと目醒める我がゐて外は雨なりまたしてやられ 平手みき〉



【ⅳ】


 永田は兎も角として、テオ(こゝから普段の人稱・テオ、じろさんに戻る)はその「理由」を知つてゐた。尾崎一蝶齋である。尾崎は何か發心するところがあつたのだらう。じろさんの「寢首を掻く」事に執心してゐたのである。現にこの話をしてゐる時も、「チェスト―!!」と氣合ひを發して、後ろから突きを入れて來た。勿論木刀なので、命賭けなければならない、と云ふ事はない。だが、突きが決まつたら大怪我を負ふ。じろさん、落ち着いて尾崎の木刀をむんづと摑み、坐つた儘體捌きのみで尾崎を蹌踉めかせ、彼の體勢を崩した。其処ら邊は流石じろさんなのだが、こんな攻撃ばかり受けてゐては、詩を書くどころか、日常の生活も儘ならない。睡眠時間も削られるだらう。



【ⅴ】


 さうして見ると、冒頭の詩は尾崎に捧げたものゝやうにも讀める。テオ「落ち着いて下さいよ、じろさん。尾崎さんの件は、僕たちに任せて下さい。じろさんに拔けられては折角の『新思潮』が續けられなくなる」。じろさんそれでもぷりぷりしてゐる。

 

 テオは尾崎に問ふた。「尾崎さん何で僕らの同人誌の邪魔するの?」‐「邪魔してゐる積もりはない。たゞ、私の先祖の靈が、じろさんを攻撃せよ、と云ふんだ」

 その時、テオは(あ、これ一味で片付けないとならない案件だな)と思つたとか。さて、『新思潮』よだうなる。次回に續く。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈捨てられる定めの茶碗秋の空 涙次〉



 PS:こゝはだうしてもカンテラの出番を待たねばなるまい。私、お役に立てさうにありません・苦笑(永田)。


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