奇跡の邂逅、運命の始まり
森での生活にも少しずつ慣れてきた頃、結衣は、いつもより強い魔力の気配を感じていた。それは、彼女がこれまでに感じたことのない、生命の力が弱っている気配だった。不安を覚えながら、その気配の元をたどっていくと、結衣は倒れている一人の男性を発見する。
彼は、まばゆいプラチナブロンドの髪を持ち、豪華な衣装は血と泥にまみれていた。その顔はひどく青ざめ、浅い呼吸を繰り返している。腹部には鋭い刃物で斬りつけられたような、おぞましい傷口が広がっていた。
「誰か……助けて……」
男は、かすれた声でそう呟いた。彼の目は閉じられ、もう意識はないようだった。
結衣は、一瞬ためらった。こんなに大きな傷を負った人間を、自分の力で本当に救えるのだろうか?もし失敗したら、彼の命を奪ってしまうかもしれない。しかし、そんな恐怖よりも、目の前の命を救いたいという思いが勝った。
「大丈夫……私が、助けますから」
結衣は、そう言って震える手で彼の傷口に触れた。その瞬間、彼女の手から、まるで銀河が流れ出すかのように、これまでにないほど強く、眩い光が放たれた。光は、彼の体を優しく包み込み、傷ついた細胞を一つ一つ癒していく。骨が再生し、肉が戻っていく。
男は、薄れゆく意識の中で、温かい光に包まれるのを感じていた。それは、母の温もりとも、父の慈愛とも違う、透明で、限りなく優しい光だった。彼は、その光が、自分を絶望から救い出してくれる「奇跡」なのだと直感した。
「どうか、死なないで……」
結衣の心からの願いが、光となって彼の体に流れ込んでいく。その光は、彼の生命を繋ぎ止めるだけでなく、彼の内に眠っていた、もう一つの力に共鳴していく。
やがて光が消えると、彼の体からは、傷跡一つ残っていなかった。男は、ゆっくりと目を開けた。彼の瞳は、深い森の色を湛えた緑色で、その視線は、結衣を真っ直ぐに見つめていた。
「君は、一体……」
かすれた声で、男はそう尋ねた。結衣は、安堵から力が抜け、その場にへたり込んだ。
「あなたを助けた、ただの通りすがりの者です」
結衣の言葉に、男は穏やかな笑みを浮かべた。彼の顔には、王族としての威厳と、一人の人間としての優しさが混在していた。
「どうか、私と一緒に、街へ行きませんか?」
男は、結衣の手を取って、そう提案した。彼の手に残る温もりと、瞳の奥に宿る孤独に、結衣は抗えなかった。二人の間に、言葉にはできない、確かな絆が生まれた瞬間だった。