不思議な光と力の覚醒
夜が明け、森は昨日とは違う表情を見せていた。冷たい朝露が草木を濡らし、木漏れ日が地面にまだらに光の模様を描いている。結衣は、一晩中身を潜めていた木の根元から這い出し、凍えた体に太陽の光を浴びた。喉はカラカラで、空腹はもう限界に近かった。
「何か、食べられるもの、ないかな…」
そう呟きながら、ふらつく足で歩き始める。彼女は、せせらぎを探して、ただひたすらに下へ下へと進んだ。その道中、彼女は倒れている一匹の狼を見つける。その狼は、腹部に大きな傷を負い、浅い息を繰り返していた。周囲には血の跡が広がっており、どうやら別の獣との争いに敗れたらしい。
「ひっ……!」
結衣は思わず悲鳴を上げて後ずさりした。元の世界なら、狼などテレビや動物園でしか見たことがない。こんな獰猛な獣に遭遇すれば、逃げるのが当然だった。しかし、弱り切った狼の瞳は、まるで助けを求めるかのように、結衣をじっと見つめていた。その瞳に、恐怖だけでなく、深い悲しみが宿っているように見えた。
その瞬間、結衣の脳裏に、あの時助けた子猫の姿が鮮明に蘇る。あの小さな命を守るために、自分は迷わず飛び出した。この場所は、もう元の世界ではない。助けを呼べる人もいない。もし、自分がこのまま見捨てれば、この狼はここで死んでしまう。
「大丈夫だよ……」
震える手で、狼の傷口にそっと触れる。指先が、生温かい血で濡れた。恐怖と嫌悪感に襲われながらも、彼女は目を閉じ、心の中で祈った。ただ、この命が助かりますように、と。
すると、彼女の手のひらから、まるで淡い光の粒子が溢れ出すように、不思議な光が放たれた。それは温かく、心地よい光だった。光は、狼の傷を優しく包み込み、まるで時間が巻き戻るかのように、傷口はみるみるうちに塞がっていく。肉が再生し、毛並みが元に戻っていくのを、結衣は呆然と見つめていた。
やがて光が消えると、狼はもう傷一つない姿で立ち上がっていた。驚いたように結衣を見つめ、感謝するように彼女の手にそっと顔をこすりつけてから、森の奥へと消えていった。
「やっぱり、これは…」
結衣は、自分の手のひらを見つめた。あの時、子鹿を治した時と同じ、温かい感覚。これは、夢ではない。現実だ。この力は、自分に備わった、この世界で生きていくための「武器」なのかもしれない。
結衣は、この不思議な力を使って、食べられる植物や、怪我をした動物を助けながら、少しずつ森での生活に慣れていった。彼女は、この力を誰かのために使う喜びを知り、同時に、これが自分を危険から守ってくれる盾になることも悟った。孤独と不安に満ちていた心に、わずかな希望の光が灯った瞬間だった。