第七話 「豪邸の晩餐」
千夏の家の門をくぐり、格式ある屋敷の玄関を踏みしめる。先ほどの仁義の挨拶も無事に終え、俺はようやく中へと案内されることになった。
「さぁ、上がりな。あんたにはたっぷり食わせてやるよ」
千夏が玄関で靴を脱ぎながら、どこか得意げに言う。
「いや、そんなに気を遣わなくても……」
「バーカ、お前が気を遣うんじゃねぇ。こっちがもてなしたいんだよ」
ぐいっと腕を引かれ、広々とした廊下を歩く。屋敷の内部はまるで時代劇のセットのようだった。床は磨き上げられた木材で作られ、壁には歴史を感じる掛け軸が飾られている。まるで城の中にでもいるかのような錯覚を覚えた。
「こっちだ」
千夏に連れられ、広間へと通された。
そこで待ち受けていたのは、豪華な食卓だった。
大きな円卓の上には、見たこともないほど豪勢な料理が並んでいる。刺身の盛り合わせ、肉じゃが、焼き魚、天ぷら、煮物、さらにはすき焼きまで用意されている。まるで高級料亭のような品揃えだ。
「……なんか、すごいな」
思わず息をのむ俺を見て、千夏の祖母——大島綾乃が微笑む。
「龍ケ崎様、お口に合うか分かりませんが、どうぞ召し上がってくださいな」
「こ、これは……もしかして全部手作りなんですか?」
「当たり前じゃ。孫の友人をもてなすのに、手抜きなどできんわい」
「はは……それは恐れ入ります」
俺は正座し、箸を手に取る。
「では、いただきます」
まずは目の前の刺身に手を伸ばす。
新鮮なマグロの赤身を口に入れると、驚くほどの旨味が広がる。
「う、うまい……!」
思わず感嘆の声が漏れる。
「そりゃそうだ。ウチはな、昔から料理にも気を遣ってんだよ」
千夏が自慢げに言う。
「それに、ばあちゃんの料理は最高なんだからな」
「おぬし、なかなかいい舌を持っとるのぉ。気に入ったなら、遠慮せず食べるがよい」
「ありがとうございます!」
俺は次々と料理を口に運ぶ。
肉じゃがは甘辛い味付けが絶妙で、ホロホロと崩れるジャガイモがたまらない。焼き魚は皮がパリッとしていて、中はふんわりとした白身の旨味が広がる。天ぷらは衣がサクサクで、噛むたびに香ばしさが広がる。
「……これ、本当に全部手作りなんですか?」
「だからそう言っとるじゃろう」
綾乃さんが楽しそうに笑う。
「ばあちゃん、昔は料理屋をやってたからな。そんじょそこらの料理とは違うぜ?」
千夏の言葉に、俺は納得するしかなかった。
「なるほど……こんなうまい飯、久々に食べました」
「そりゃよかった。存分に食べな」
夕飯を囲むうちに、場の雰囲気も和やかになっていく。
食事が進むにつれ、俺と千夏の家族との会話も弾んだ。
「龍ケ崎様、ご家族は?」
「えっ?」
突然の質問に、一瞬だけ動きが止まる。
「えーっと……まあ、それなりに」
適当に濁しながら、箸を動かす。
「ふむ、あまり話したくないことなら聞かんよ。人にはそれぞれ事情があるものじゃ」
「……ありがとうございます」
綾乃さんの気遣いに感謝しつつ、俺は食事を続けた。
やがて、夕飯も終わり、俺は深々と頭を下げた。
「ご馳走様でした。本当に美味しかったです」
「気に入ってくれたなら、また来るといい」
「ありがとうございます!」
こうして、俺は千夏の家での豪華な夕食を終えたのだった。