第四話 「助太刀無用の親王殿下」
放課後の校門前。
西日が長い影を落とす中、佐倉千夏の周りを数人のヤンキーが囲んでいた。
「おい千夏ァ、お前、最近調子乗ってんじゃねえか?」
ヤンキーの一人が不機嫌そうに言う。
千夏は鼻で笑い、腕を組んだまま肩をすくめる。
「は? 調子乗るって何の話だよ」
「テメェ、最近やたら目立ってんじゃねぇか。クラスの連中とも馴れ合っちまってよ」
「……ああ、そっちか。別に馴れ合ってねぇよ。ただのクラスメイトだろ」
「言い訳すんな。お前は俺らのグループだったはずだろ?」
「はぁ……くだらねぇ」
千夏はため息をつく。相手の言葉に全く動じる気配がない。
しかし、ヤンキーたちは明らかに戦意を持っていた。四人がかりで一人を囲む――千夏がどれだけ喧嘩慣れしていても、分が悪い。
(さて、どうするか……)
俺は遠巻きにその様子を見ていた。
千夏がどんな戦い方をするのか興味はあったが、さすがに多勢に無勢。ここは放っておくわけにはいかない。
俺はゆっくりと歩を進め、彼らの間に割って入った。
「おい、やめとけよ。ここは学校だぜ?」
俺の声にヤンキーたちは一斉にこちらを向く。
「なんだぁ? テメェ」
「ただのクラスメイトさ。でも、見逃すわけにはいかないだろ」
俺は肩をすくめて言った。
ヤンキーの一人が苛立ったように舌打ちし、腰に差していた木刀を抜いた。
「チッ、余計なことしやがって……。テメェみたいなインテリ気取りが首突っ込むと痛い目見るぜ?」
(なるほど、武器を持ってるか)
俺は微笑を浮かべる。
木刀を振るうなら、ちょうどいい。
柳生新陰流・無刀取り。
相手が木刀を振りかぶった瞬間、俺は踏み込んだ。
ヤンキーの腕の動きを見極め、最小限の動きで右手を伸ばす。
次の瞬間、木刀が俺の手の中に収まっていた。
「……は?」
ヤンキーが呆然とする。
「なっ……!? い、いつの間に!?」
俺は軽く木刀を回し、地面に突き立てた。
「これで終了だ」
静かな声で言うと、ヤンキーたちは目を丸くして後ずさった。
「くそっ……! 覚えてろよ!」
ヤンキーたちは悔しげに言い残し、そそくさと退散した。
「……お前、意外とやるじゃねぇか」
千夏が腕を組んで俺を見つめ、ふっと笑った。
「まあな」
俺は肩をすくめて答えた。
(これからも波乱が続きそうだな……)




