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第三話 「金髪ヤンキーと隣の席」

 朝の教室は、まだ静寂に包まれていた。


 昨日の入学式を終え、今日から本格的に高校生活が始まる。


 俺、龍ケ崎弘彌は窓際の席に座り、外の景色をぼんやりと眺めていた。


「殿下、油断は禁物です」


 俺の隣には、当然のように護衛兼侍従の結城楓が座っている。


「だから、その呼び方やめろって。俺はただの高校生、龍ケ崎弘彌だ」


「しかし、立場を忘れるわけにはいきません」


 頑固なやつだ。


 とはいえ、こいつは俺の正体を知る数少ない人物の一人。こうして近くにいるのは安心でもある。


 教室内は、新しいクラスメイトたちがぽつぽつと会話を始めていた。自己紹介はこれからあるらしいが、それでも周囲の人間関係は自然と形成されつつあるようだった。


「しかし、やはり浮いてしまいますね」


 楓が小声で言う。


 確かに、俺たちは周囲の生徒たちとあまり馴染んでいない。


(まあ、そりゃそうだよな……)


 俺は今まで特別な教育を受けてきたし、楓に至っては侍従兼護衛としての訓練を受けてきた身。周囲と自然に馴染めるわけがない。


「まあ、焦ることはない。これから少しずつなじんでいけばいいさ」


「そう簡単にいくでしょうか」


「やってみなきゃわからないだろ?」


 そんな会話をしていると、突然、窓の外から爆音が響いた。


「ブオオオン!」


 まるで戦場の合図のような轟音。


 教室内の全員が驚き、教師たちの怒号が外で飛び交う。


「な、なんだ!?」


「バイクか……? こんな朝っぱらから!?」


 みんながざわめく中、俺は冷静に窓の外を見る。


 校門の前、一台のバイクが停車していた。


 そこに乗っているのは——長い金髪を無造作に結び、学ランのような改造制服を身にまとった少女。


 見た目は完全にヤンキー。


 しかし、彼女はバイクをきちんと駐輪場に停め、ヘルメットをロックし、軽く一礼をしてから校舎へ入っていった。


(……妙に礼儀正しいヤンキーだな)


 俺の脳内に、「不良」と「常識人」という相反する二つの要素がせめぎ合う。


 そして数分後。


 遅刻した彼女が、俺たちのクラスに入ってきた。


「よお、遅れて悪ぃな。転んだ婆ちゃん助けてたら時間くっちまった」


 教室が一瞬静まり返る。


 彼女の発した言葉に、誰もが驚いたのだ。


 そして——


「カッケェ……」


 誰かが小さく呟いた。


 その瞬間、クラスの空気が変わった。


 今まで「ヤンキーが来た」と警戒していた空気が、「こいつ、もしかしていいやつ?」に変化する。


「まあ、しゃーねえよな!」


「それならしょうがない」


 ざわめきは好意的なものに変わる。


 ヤンキーのイメージとは裏腹に、彼女の言葉には優しさがあった。


「名前は?」


 誰かが聞いた。


「ん? 俺か? 佐倉千夏さくら ちなつ。ヨロシクな!」


 彼女はそう言って、豪快に笑った。


(佐倉千夏……こいつが、これからの俺の高校生活に関わってくるのか)


 なんとなく、そう確信する。


「おい、そこの窓際のやつ」


 不意に千夏が俺の方を見た。


「ん?」


「なんか……お前、ちょっと変わってんな?」


「……よく言われる」


 俺は苦笑する。


 千夏は俺の返答に少し考えるような仕草をしてから、ふっと笑った。


「お前、気に入ったぜ」


「……は?」


「よろしくな、龍ケ崎!」


 そう言って、千夏は俺の背中をバシッと叩いた。


(……これは、波乱の予感しかしないな)



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