第33話:警察庁長官、平身低頭
弘彌はアクアワールド大洗での裏取引を把握し、相馬財閥の陰謀を阻止するための準備を進めていた。しかし、相馬財閥はすでに裏社会の力を動員しており、警察の協力が不可欠な状況だった。
「……浅見刑事局長に連絡を入れるか。」
弘彌は静かにスマートフォンを取り出し、浅見に直接連絡を入れた。
数コールの後、電話の向こうから低く落ち着いた声が聞こえてくる。
「龍ケ崎様……これはまた、珍しいお電話ですね。」
「今回ばかりは、警察の力が必要なんだ。」
弘彌は端的に状況を説明した。相馬財閥が裏社会の勢力と手を組み、違法な買収活動や脅迫を行っていること。そして、警察が動かねば、多くの人が危険にさらされる可能性があることを伝えた。
「……なるほど。ですが、これほどの大規模な案件となると、私の一存では動けません。」
「分かっている。だから、警察庁長官に直接話を通してもらいたい。」
電話の向こうで、浅見はしばらく沈黙した。しかし次の瞬間、彼は静かに息を吐き、決意を固めたようだった。
「承知しました。すぐに警察庁長官に報告いたします。」
数時間後——。
水戸市内にある高級ホテルの一室。弘彌はソファに腰掛け、紅茶を飲みながら静かに待っていた。すると、部屋の扉がノックされ、朧が無言で扉を開ける。
そこに立っていたのは、浅見刑事局長。そして、その後ろに——
「このたびは、大変なご無礼をいたしました!!」
なんと、日本の警察の最高責任者である警察庁長官が、平身低頭で弘彌の前に立っていた。
「……おいおい、長官自ら出向くとは。大丈夫か?」
弘彌は驚いたが、長官はなおも頭を下げたまま動かない。
「龍ケ崎様のご要望とあれば、警察として全力でお応えしなければなりません。」
「お、おい、長官!? そこまでしなくても……!」
浅見すらも焦った様子で長官を見つめていた。しかし、長官は頑なだった。
「いえ、我々は龍ケ崎家に多大な恩義がございます。今回の件、警察庁としても見過ごせる問題ではありません。すでに公安部と組織犯罪対策部に指示を出し、相馬財閥とその関連組織に対する捜査を開始しております。」
「……動きが早いな。」
「当然です。」
長官は真剣な眼差しで弘彌を見つめた。
「龍ケ崎様のご意向により、日本の治安が守られるのであれば、それは警察にとっても最優先事項です。」
弘彌はその言葉を聞き、ふっと微笑んだ。
「なら、頼んだぞ。」
この瞬間、警察庁が全面協力することが確定した。相馬財閥への包囲網は、着実に狭まっていく——。




