第二十一話:動き出す復讐の歯車
放課後の教室。夕陽が窓から差し込み、長く伸びた影が教室内に静寂を生む。
「……弘彌くん、ありがとう」
静がぽつりと呟いた。
彼女の目には、うっすらと涙の膜が張っている。
「これで、私……少しは、報われるのかな」
彼女の家庭は、小さな精密機械製造業を営んでいる。だが、いじめの元凶である財閥令嬢・相馬綾乃の親会社によって、不利な契約を強いられ、じわじわと経営を追い詰められていた。
その背景を知った弘彌は、静かに決意する。
「報われるかどうかは、まだ分からない。でも、少なくともこのまま好きにやらせるつもりはないさ」
その言葉に、静の表情がわずかに揺れた。
千夏が腕を組んでふんぞり返る。
「で、弘彌。どうすんの? やるなら徹底的にやんないと意味ないよね」
「当然だ」
弘彌の目が鋭くなる。
「——相馬財閥を、潰す」
その場にいた全員が息を呑んだ。
「おいおい、本気かよ……? いくらお前でも、それはヤバくね?」
クラスメイトの一人が震えた声を出す。
「無茶だとは思ってないさ。でも、俺はこういう時に黙ってるような男じゃないんでね」
弘彌は冷静に、しかし確固たる決意を込めて言い放った。
「やるべきことは単純だ。情報を集め、弱みを握る。そして、こちらの条件で揺さぶりをかける」
「まるで池井戸潤の小説みたいな展開だな」
千夏が肩をすくめた。
「なら、私も手伝うよ。……ついでに、あの令嬢に一発お見舞いしたいし」
「頼むぜ、千夏」
「それと、弘彌様」
スッと忍び寄る影。
護衛のくノ一、朧が気配なく現れる。
「相馬家の動向について、既に裏で調査を進めております。必要な情報は近日中に揃うでしょう」
「さすがだな、朧」
弘彌は微笑んだ。
「じゃあ、始めるとしようか」
こうして、静を救うための戦いが幕を開ける。




