第十九話:裏の力
翌日、静との約束を果たすため、僕は放課後、彼女を再び呼び出した。彼女は少しでも安堵したのか、昨日よりも穏やかな表情を見せていたが、その瞳の奥には依然として冷徹なものが潜んでいた。
「今日、話したいことがある」と静は僕に告げた。
「どうした?」と僕は少し警戒しながらも、話を聞く姿勢で応じる。
静は深呼吸を一つしてから、真剣な顔をした。「あの令嬢に、どうやって仕返しをするか、考えてみたんだけど……」
彼女の目は強い決意を宿していたが、そこには冷徹さと同時に、少しの恐怖が感じられる。それでも、彼女は口を開く。
「私、もう一歩踏み出す覚悟を決めた。復讐をするためには、私だけじゃ何もできない。龍ケ崎さん、あなたの力を借りることになると思う。お願い、力を貸してほしい」
僕はしばらく静を見つめた。その言葉を聞いて、何か引っかかるものがあったが、すぐにそれを振り払った。
「いいだろう、俺も手伝う。ただし、何をするつもりだ?」
静は少し考え、そしてゆっくりと話し始めた。「あの令嬢、実は私をいじめるだけじゃなくて、私の家にも手を出している。彼女の父親が経営している大企業が、私の実家の取引先でもあって、無理に値下げさせようとしている。でも、それだけじゃない。彼女、私の家を完全に乗っ取ろうとしているんだ」
「乗っ取ろうとしている?」僕は目を見開いて、驚く。
「ええ。彼女の狙いは、私の家にある技術力。それを彼女の父親が欲しがっている。そして、私の家の持っている特許やノウハウを奪うことで、私の家を破綻させ、最終的に買収するつもりなんだ」
その言葉を聞いて、僕は少し考え込んだ。確かに、静の家の技術力は非常に高いが、経営面での弱さを突かれているのだろう。もし、その技術が企業に乗っ取られてしまえば、静の家は完全に経済的に破綻してしまう。
「だからこそ、彼女を追い詰める必要がある」と静は続けた。
「それだけじゃない。あの令嬢、実は私が学生時代から知っている人物なんだ。私が昔、いじめられていたのも彼女の仕業だ。だから、私は復讐したいだけじゃなく、彼女の父親にも何らかの手を打ちたい」
僕は静の話をじっと聞きながら、その意図を読み取ろうとした。復讐という感情だけではなく、静の家族を守りたいという強い意志が感じられた。
「つまり、君の家を守るためには、令嬢の父親の企業に圧力をかける必要があるってわけだな?」
静は頷いた。「その通り。でも、私一人ではできない。あなたの力があれば、何とかなると思う。私の家は、今はかなり危険な状態だし、どうにかしてこの状況を変えたい」
「分かった。君の家を守るために、俺も協力する」僕は静を見つめながら、答えた。「でも、復讐は冷静にやらないといけない。感情だけで動くと、後悔することになる」
静は一瞬、少しだけ顔を歪めたが、それでも頷いた。「分かっているわ。冷静に、計画的に進めたい。ただ、あなたの力が必要なんだ」
その言葉を聞いて、僕は心の中で何かが決まった。この静という少女は、単なるいじめられっ子ではない。彼女は、自分の家族を守るために戦う強い意志を持った人物だった。
「いいだろう。君の家を守るために、俺は全力で動く。そして、あの令嬢とその父親にも、報いを受けさせてやる」
その時、静の顔に僅かな笑みが浮かんだ。それは、恐怖と希望が入り混じったような、複雑な表情だった。
「ありがとう、龍ケ崎さん。あなたが味方でいてくれて、本当に嬉しい」
その言葉に、僕は頷くと同時に、心の中である決意を固めた。これから先、静とともに動き出すその計画が、どんな展開を迎えるのか、まだ予測できなかった。
だが、今はただ一つ、確信していることがある。それは、僕が手を貸すことで、彼女の未来を変える力になれるということだ。そして、僕はそのために全力を尽くすつもりだった。
——だが、僕が気づいていないことが一つあった。それは、静の内に秘めた闇の深さを、僕がまだ完全に理解していないことだった。




