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第一話 「親王、入学式に臨む」

 茨城県水戸市。


 この街に、俺——龍ケ崎弘彌は降り立った。


 生まれて十六年、皇室という特殊な環境で育ち、数え切れない制約の中で生きてきた。だが、そんな生活も今日で終わる。


「これから、俺は普通の高校生だ」


 そう自分に言い聞かせながら、俺は目の前の校門を見上げた。


 茨城県立北常陸高等学校。


 俺がこれから三年間通うことになる学校だ。


「……ご覚悟のほどを」


 背後から低い声が響く。


 振り向けば、そこには一人の少女——結城楓がいた。


 黒髪を後ろで一つに束ね、凛とした雰囲気を纏う彼女は、幼少期から俺に仕える侍従であり、そして護衛でもある。


「お前が言うと物騒だな」


「事実ですから」


 彼女は淡々と答えると、視線を周囲に巡らせた。


「これから三年間、私は殿下の身をお守りする立場です。高校生活を謳歌するのも結構ですが、決して身分を明かさぬよう……」


「分かってるよ」


 俺は苦笑しながら、もう一度校門へと目を向ける。


 今日、この学校で俺の青春が始まる。


 ——たとえ、それが普通のものにならないとしても。


 * * *


 入学式の会場である体育館は、新入生とその保護者、さらには上級生たちで賑わっていた。


 壇上ではすでに校長が演説を始めている。


「——皆さん、本日はご入学おめでとうございます。我が北常陸高校は……」


 正直なところ、話の内容はほとんど耳に入ってこない。


 俺は壇上に立つ校長を見つめながら、少し緊張していた。


(この人が、天皇陛下の御学友……)


 校長の視線が一瞬、俺に向けられる。


 その目は鋭く、だがどこか温かみがあった。


 彼は俺の正体を知る数少ない人物の一人——それを考えると、余計に気が引き締まる。


「続いて、新入生代表の挨拶です」


 壇上に呼ばれたのは、どうやら相当成績が優秀な生徒らしい。


 彼の立派な挨拶が終わると、式は滞りなく進行し、ついに閉会となった。


「殿下、予定通りに進んだようですね」


「いや、普通に入学式を終えただけなんだけど」


 俺は肩をすくめながら、体育館を後にした。


 新たな生活の幕開け——だが、これが“普通”で終わる気は、まったくしなかった。


(この先、どんな波乱が待っているのやら……)



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