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第十八話:ヤンデレの影

日が暮れ、帰りの支度をしているときだった。千夏と一緒にロッカーを整理していたとき、ふと目に留まったのは、あの地味な女子生徒、しずかだった。彼女が一人で教室の隅で座っている姿を見かけたのだ。


「静ちゃん、また一人か」と僕はつぶやいた。


千夏も目を細めて彼女を見た。彼女があまりにも目立たないからこそ、逆に気になる存在だ。


「ああ、あの子は……どこか浮いてるよな。最近、少し様子が変だって噂もあるけど」


「変って?」


「うーん、あまり言いたくないけど、彼女、あんまり話さないし、目も怖い時があるんだよ」


確かに、静の目はどこか冷徹で鋭いものがあった。いつも自分の世界に閉じこもっているようで、周りとコミュニケーションをとることが少ない。


だが、その背後にあるものを千夏が示唆するように、ただの孤立とは違う感じがする。


放課後、千夏と一緒に校門を出ようとしたその時、突如として静がこちらに向かってきた。


「……あの、龍ケ崎さん……」


その声に振り向いた瞬間、冷たい風が僕の背を撫でるような、奇妙な感覚に襲われた。


静は、普段の冷たい印象とは違い、どこか必死な眼差しを向けていた。


「どうしたんだ?」


「……お願い、少しだけ、話を聞いて欲しいの」


彼女の声には、どこか引き裂かれるような力があった。僕の心がわずかに動く。


千夏は何も言わず、少し距離を取って見守っている。


「……話って?」


「私、……その……今、すごく困っていて。龍ケ崎さん、助けてくれないか?」


「困ってるって、どういうことだ?」


その時、静の目が一瞬、歪んだ。表情が歪むと同時に、彼女の小さな手が震えていた。


「……あの子たち、また……私を……」


その言葉が途切れる前に、静の手が僕の腕を強く掴んできた。引き寄せられるように僕は彼女の目を覗き込んだ。


「いじめられてるのか?」


「……うん。でも、ただいじめられてるだけじゃない……」


静は低い声で、恐怖を感じさせる言葉を続けた。


「私は……ずっと、何かが足りなかった。周りの目も気になるし、いつも自分が疎外されてるって思ってた。でも、今、気づいたんだ。この学校の中に、私を、誰も助けてくれないって……」


彼女の目は、完全に冷たく、鋭くなっていた。まるで何かを決意したかのような、その表情。


「私が、いじめられている理由、分かるよね……?」


その問いは、ただの疑問ではなかった。


「いじめているのは、あの親会社の令嬢だろ?」


僕は思わず答えてしまった。静が言いたいことは、それだろう。


静は黙ってうなずいた。


「その親会社の令嬢は、私の実家が技術力があるけれど、経営力がないことを知っている。だから、私の家に対して、どんどん不当な要求を突きつけてくる。私、ただでさえ、家計が厳しくて、でも、そんな時に、彼女が何もかもを支配しようとしてくるんだ……」


その言葉に、僕はふと強い怒りを覚えた。確かに、静の家は技術に長けていても、経営面では困難を抱えている。親会社の令嬢は、その弱みをついて、無理な要求を押し付けているのだろう。だけど、どうして静がこんなに追い詰められているのか、その深層を理解することはできなかった。


「その令嬢に、どうにかして仕返しをしたいのか?」


静はしばらく黙っていた後、冷たい笑みを浮かべた。


「……はい。でも、私はただ復讐したいわけじゃない。今はただ、少しでも彼女を……見返してやりたいと思ってる」


その冷たい笑みの中に、どこか計り知れないものが感じられた。


僕は深く息を吸い、静の目をしっかりと見据えた。


「分かった。君がそうしたいなら、俺は手伝うよ」


静の目が一瞬揺らぎ、そこから何とも言えない気持ちが流れ込んできた。だが、その表情を深く考える暇もなく、僕は決心を固めた。


その決意を表すかのように、静は少しだけ頷き、その小さな手を僕に差し出した。


「ありがとう、龍ケ崎さん……」


その時、僕は思った。この子は、ただの孤立した少女ではない。この先、彼女が何をしようと、僕はその背中を支え、全力で守り抜くつもりだ。


そして、静の心に宿る陰鬱な闇に立ち向かう準備が、少しずつ整い始めていた。


——だが、まだその先に待ち受ける試練が、どれほどのものであるかを僕は知る由もなかった。
















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