第十六話: 深層の闇
生徒会長が机から取り出した資料を目の前に差し出し、静かな声で言った。
「君が暴露しようとしているのは、ただの序章に過ぎない」
その資料を手に取ると、表面にはいくつかの名前と数字、そして見覚えのある学校の内部構造に関する情報が列挙されていた。
「これは?」
「君の知っている限りの生徒会問題は、あくまで表面のものだ。それに比べ、こちらの問題はもっと深刻だ。生徒会が関わっているだけではなく、この学校全体の命運に関わることだ」
「そんな……」
俺は息を呑んだ。この資料が示す内容は、ただの学園内の権力争いを超えている。どうやら、今までの自分の理解は甘かったようだ。
「お前が暴露しようとしていること、学校内で大きな影響を与えるだろう。そのために、俺たちも慎重に動いているんだ」
会長は冷静に続けた。
「君が考えている通り、我々生徒会が抱えている問題は、ただの学園の不正や秩序の乱れに留まらない。君がその事実に触れることで、予想以上の波紋を呼ぶことになる」
俺は資料をじっと見つめながら、何が隠されているのかを必死に読み取ろうとしていた。その中に、驚くべき内容が含まれていることに気がついた。
「これは……」
「君が気づいたようだな。実は、この学校の運営に関わる企業や団体が、裏で大きな影響力を持っている。いわば、学校自体が一つの大きな商業ベースとして動いているんだ」
「その企業というのは?」
「お前の知っている会社だ。具体的には、君が以前関わりのあった『北常陸商事』だ」
俺は驚きのあまり、しばらく言葉を失った。あの企業が、こんなところにも影響を与えていたのか。だが、それだけではない。資料には、さらに詳細な情報が記されていた。
「君の学校の運営に関わる企業群が、あるプロジェクトを進めている。それがうまくいかない場合、この学校の存続すら危うくなる。君が暴露しようとしていることは、表向きには学校の不正を暴く行為に見えるかもしれないが、その実、大きな権力者たちの利権に関わる問題を引き起こす」
会長は言葉を切り、少し間を取った。
「君がこれを知った以上、選択は二つだ。俺たちと協力して、うまく問題を収束させるか。それとも、暴露して大きな混乱を招くか」
俺はしばらく考えた。確かに、暴露すれば学校の不正は暴かれるかもしれない。しかし、それと同時に、もっと大きな問題を引き起こしてしまうことになる。
「俺が暴露することで、逆に学校を守ることになるのか?」
会長は少しだけ微笑んだ。
「それが君の判断にかかっている。君が選ぶ道次第で、この学校の未来は決まる」
その言葉が俺の胸に重く響いた。これまでの軽い気持ちでの暴露とはわけが違う。俺の選択次第で、学校そのものが危機に瀕する可能性があるのだ。
その後、俺は生徒会室を後にし、しばらく校内を歩きながら考えた。千夏に話すべきか、どうするべきか。だが、結局俺は一人で決断を下すことを決めた。
昼休み、再び千夏と会うと、俺は彼女にすぐに伝えた。
「千夏、今すぐに行動を起こさなければならない」
「何があったの?」
「生徒会長が言っていたこと、すべてが本当だった。学校の運営に関わる企業が、裏でいろいろと動いている。もしこのまま暴露を進めれば、学校の存続すら危うくなるかもしれない」
「え……でも、それをどう解決するの?」
「今、俺が考えているのは、まずこの問題を内々に解決する方法を探ることだ。表に出すのは、それからだ」
千夏は黙って俺を見つめていたが、やがて静かに頷いた。
「分かった、でも気をつけてね。何かあったら、私も手伝うから」
「ありがとう、千夏」
その言葉を最後に、俺は再び生徒会と関わりながら、この問題に向き合っていく決意を固めた。
俺の学園生活は、思ったよりも遥かに深い闇に巻き込まれつつあった。




