第十四話: 交錯する思惑と暗闘
翌日の放課後、俺は再び生徒会室へ足を運んだ。すでに予想していた通り、会長が待っていた。
「来たか、龍ケ崎くん」
会長は机に向かって座っていた。どこか冷徹で、表情に浮かべることのない淡々とした雰囲気は、初対面から全く変わらない。
「話がある」
俺が簡潔に言うと、会長はゆっくりと手元の書類を片付け、俺に向かって視線を向けた。
「君が手に入れた情報について、だな」
「情報?」
「君が調査していたことについてだ。君の動きは確実に感じ取っている」
その一言で、俺の心は一瞬、鋭く緊張感を増した。生徒会は俺の行動を注視しているだけでなく、完全にこちらの意図を読んでいたということだ。
「どういうことだ?」
俺は冷静を装いながらも、内心は少しだけ焦りを感じていた。
「君が集めた証拠、私たちが最初に求めていた問題とは少しズレている」
会長は机の上の資料をすべて片付けてから、ゆっくりと立ち上がり、俺に向かって歩み寄った。その動きはまるで、闇の中で獲物を狙う猛獣のようだった。
「君が手に入れた証拠は、確かに私たちが抱えていた問題とも関連している。しかし、それだけでは終わらない」
「どういうことだ?」
俺が問い返すと、会長は微笑んだ。
「君、龍ケ崎くんが知っている世界は、あまりにも狭い」
その言葉が、俺の頭を強く打った。
「狭い?」
「君が思っている以上に、私たち生徒会の影響力は広い。そして、君が今集めている情報、君の行動がどれほどの反響を呼ぶか、分かっているのか?」
俺はその問いに答えようとしたが、言葉が出なかった。確かに、今の俺はまだ生徒会内の腐敗を完全には理解していない。だが、会長が言うように、もしこれを深く掘り下げていったら、自分が想像する以上の問題に突き当たることになるだろう。
「君が集めてきた情報、ひとつひとつは重要だ。しかし、私は君に選択を迫りたい」
会長が再び静かに言う。
「君がこの情報を生徒会に渡し、私たちと共に動くか。それとも、君がこの情報を自分の手で暴露し、全てをひっくり返すか」
その言葉に、俺は沈黙した。どちらを選んでも、何かを失う気がしてならなかった。
「君はどちらを選ぶ?」
会長の問いに、俺はしばらく黙って考え込む。自分の手で暴露することがどれほどの影響を与えるか、それが今後どう転がるかは分からない。しかし、もしこのまま生徒会の力に頼るなら、結局は自分が手を汚すことになる。
「俺は……」
その瞬間、俺の目の前で扉が開かれ、千夏が入ってきた。
「弘彌!」
千夏の声に、俺はハッと我に返った。
「千夏?」
「すまん、少しだけ待たせてもらった。どうしたんだ?」
「いや、ちょっとな……」
俺は会長の方を見たが、会長は冷静な表情で黙って立っていた。
「まあ、いいか。すまないが、今日はこの辺で終わりだな」
会長が言いながら、俺を見つめる。
「龍ケ崎くん、君の選択は重要だ。どうか、冷静に考えて、決断を下してくれ」
その言葉が、重く俺の胸に響いた。俺がこれからどう動くか、そして何を選ぶか。それがどれほどの影響を及ぼすか、俺には想像もつかない。
その日の夜、俺は一人で自分の部屋で考え続けていた。会長が言ったこと、そして千夏が入ってきた瞬間に感じた心の迷い。どちらを選ぶべきか、その答えはまだ出ていなかった。
千夏の顔が思い浮かぶ。彼女に話せることと、話せないこと。それを考えると、俺の心の中にもうひとつの葛藤が生まれた。
「どうするべきか?」
自問自答しながら、俺は手元の資料を何度も読み返した。生徒会の腐敗は確かにある。それを暴くことができるかもしれない。しかし、その先に待つものがどれほど大きな問題を引き起こすのか、俺にはまだ分からなかった。
「選択肢は二つか」
そして、ついに答えを出す。
「どちらに転んでも、後悔しないようにしないとな」




