第十二話: 生徒会の裏事情
次の日、教室に入ると、またしても机の上に封筒が置かれていた。
「またかよ……」
俺は呆れたようにその封筒を取り、内容を確認する。
『龍ケ崎弘彌殿、生徒会からの再度の召喚状。』
「やっぱりか……」
昨日の生徒会とのやり取りがどうも気になる。生徒会長の冷徹な視線が、俺の心に引っかかっている。だが、こうなったら一度きりじゃ終わらせないつもりだ。
「どうした、弘彌?」
千夏が肩越しに覗き込んできた。
「また生徒会からだ」
「お、ついに君も生徒会に取り込まれるのか?」
「取り込まれるも何も、昨日の話じゃ入るつもりもない」
「でも、あんた……すごく興味持たれてるみたいだな。どうするんだ?」
「まぁ、考えても仕方ない。行ってみるさ」
俺は無理に気を引き締めるように言った。
放課後。再び生徒会室へ足を運ぶ。
先程とは打って変わり、会長以外のメンバーは不在のようだ。室内には会長一人が悠然と待機していた。
「やあ、龍ケ崎くん。再びお呼び立てしてすまないね」
「どうも」
俺は軽く頭を下げながら、テーブルの向かいに座る。
会長はそのまま無言で、少しだけ視線を外した。
「今回は君にお願いがあって呼んだ」
「お願い?」
「うん。実は、我々の生徒会は、学校の秩序を守るだけでなく、全校生徒を守る責任もある」
「それで?」
会長はややため息をつきながら、机の上に並べた書類を指でなぞる。
「君が昨日、あのような行動を取ったことは非常に良かった。ただ、我々としては君が思っている以上に、君の行動が学校に影響を及ぼす可能性がある。だからこそ、君に頼みたいことがある」
「……あの、俺に頼みたいこと?」
「君のような特異な存在にお願いしたいこととは、単純だ。君の力を生徒会に貸してほしい」
「生徒会に?」
会長は少し沈黙を置いた後、慎重に言葉を続ける。
「君は、学校内でひとつの“問題”を解決できる能力がある。だからこそ、君にその問題を解決してほしい。君の力を借りれば、確実に解決するだろう」
「それだけなら、わざわざ俺を呼ぶ必要はないと思うが」
「問題の内容に関しては、君も知っての通りだろう。学校内で暗躍している不穏な勢力……君のような人物だからこそ、頼みたい」
不穏な勢力。正直、俺はその言葉だけでピンと来た。生徒会長が言っている「不穏な勢力」が何を指しているか、俺にはすぐにわかった。
「生徒会内の腐敗か?」
会長は一瞬だけ目を見開き、その後すぐに冷静な表情に戻った。
「君が思っている通りだ。実は、我々の生徒会内にも、特定のメンバーが裏で動いている。その者たちの力を利用して、私たちが持つ権限を越えた権力を握ろうとしている」
俺は少しだけ考え込んだ。この学校の生徒会が腐敗しているなんてこと、俺は全く気づかなかったが、よくよく考えれば生徒会長があれほど冷徹に振る舞う理由も納得できる。
「それで、俺にどうしろと?」
「君の影響力を使って、問題を解決してほしい。君ならきっと、いろんな方法で解決策を見つけ出せるはずだ」
会長は立ち上がり、机の上にある書類を俺の前に差し出す。
「これが、問題の詳細だ。君が思う通りに動いてくれればいい」
俺は書類を一瞥し、頷いた。
「なるほど。やらなきゃいけないことはわかった。だが、俺は君の生徒会に加わる気はない」
会長は少しだけ驚いた表情を浮かべる。
「それでいい。君が加わる必要はない。ただ、手を貸してくれるなら、それで構わない」
「わかった。お前の頼みだ。しっかりと片付けてやる」
「ありがとう。君には期待している」
会長の言葉に、俺は軽く笑みを浮かべて部屋を後にした。
生徒会からの依頼は、予想以上に面倒な問題だった。しかし、やるべきことはわかっている。俺がこの学校に来たからには、黙って見過ごすことはできない。
「千夏にでも話すか」
俺はそのまま歩きながら思った。
千夏にだけは、全てを打ち明けてもいいかもしれない。
だが、今はただ一つ、頭の中でその問題を解決する方法を練っていた。




