第十一話 「生徒会からの召喚状」
翌朝、俺が教室に入ると、机の上に一枚の封筒が置かれていた。
「……ん?」
封筒には、達筆な筆文字で『生徒会』と記されている。中を開けると、一枚の召喚状が入っていた。
『龍ケ崎弘彌殿 放課後、生徒会室までお越しください。』
「おいおい……生徒会からのお呼びかよ」
俺は苦笑しながら紙を畳んだ。
「なんだそれ?」
千夏が興味津々に覗き込んできた。
「生徒会からのお呼びだ」
「へえ……いきなり生徒会に目をつけられるとはな。さすがって感じか?」
「俺、別に目立つことした覚えはないんだけどな」
「いや、十分目立ってるだろ。初日から色々とさ」
千夏はニヤリと笑いながら、俺の肩を叩いた。
「ま、せいぜい気をつけろよ? 北常陸の生徒会は、ただの飾りじゃねえらしいぜ」
「……どういう意味だ?」
「さあな。自分で確かめてみれば?」
放課後。
生徒会室の前に立った俺は、一つ息を吸い込んだ。
ノックをすると、すぐに「どうぞ」という低く落ち着いた声が返ってきた。
扉を開けると、そこには数名の生徒が並んでいた。
中央に座るのは、知的な雰囲気を漂わせる生徒会長の青年。端正な顔立ちに鋭い目つき、そしてピシッとした制服姿。
「ようこそ、生徒会へ。龍ケ崎弘彌くん」
「……ご丁寧にどうも」
俺は軽く会釈しながら、部屋の中に入る。
「さて、単刀直入に言おう。我々は君に興味を持っている」
「ほう、それは光栄なことだな」
「君の成績、入学前からの経歴、そして……昨日の一件」
会長の目が鋭く光る。
どうやら、生徒会は俺の動向をすでに調査しているようだ。
「単なる転校生にしては、君は謎が多い。そして、何かを隠している」
「俺はただの新入生だが?」
「それならそれでいい。ただ……君には生徒会の監視下に入ってもらう」
「監視?」
「もちろん、君の立場を考慮してのことだ」
生徒会長は微笑んだが、その目は鋭いままだった。
「君の行動は我々にとっても注視すべきものだ。それに……君の実力を試させてもらいたい」
「試す?」
「生徒会が抱える、ある問題を解決してもらいたい」
「ほう、それはまた面白そうな話だな」
「詳しくは後日話そう。だが、一つだけ覚えておいてくれ。我々生徒会は、この学校の秩序を守るために存在している。君がその秩序を乱す存在でないことを願っているよ」
「秩序ねえ……」
俺はわざとらしく考え込んだ。
「それで、その“秩序”を守るために、俺に生徒会入りを勧めるわけか?」
「理解が早くて助かるよ。君ほどの人物が生徒会にいれば、学校の統制もより確固たるものになるだろう」
「なるほどな……」
俺は腕を組み、しばらく考え込むふりをした。
「それじゃあ、俺からも単刀直入に言わせてもらおう」
俺は生徒会長の目をしっかりと見据えた。
「俺は、生徒会には入らない」
「……ほう?」
生徒会長が薄く笑う。
「それは、我々の申し出を断るという意味か?」
「ああ。悪いが、俺には俺の自由な学園生活ってもんがある。それに……」
俺は懐から一枚の書類を取り出した。
「お前ら、生徒会の予算の流れ、ちょっと調べさせてもらったんだけどな」
「……!」
書類に目を通した副会長が、顔色を変えた。
「君……これはどこで……?」
「詳しくは言わねえよ。でもな、この内容が外部に漏れたらどうなるか、分かるよな?」
俺はにっこりと微笑む。
「生徒会がどれだけ力を持ってようが、俺を無理に引き込もうとすれば、それなりの代償を払うことになるぜ?」
「……脅しのつもりか?」
「まさか。俺はただ、穏便に過ごしたいだけさ」
俺は肩をすくめた。
「まあ、こんなくだらないことでお互い争うのも馬鹿らしいだろ? だから、俺を放っておいてくれ。それが一番、お前らにとっても得策だと思うぜ?」
生徒会長はしばらく俺を見つめていたが、やがて深く息を吐いた。
「……分かった。君の意思は尊重しよう」
「賢明な判断だな」
俺は軽く会釈すると、そのまま生徒会室を後にした。
「いやはや、学園生活ってのは面倒事ばかりだな……」
俺は伸びをしながら、教室へと戻る。
こうして、俺は生徒会に入ることなく、自由な学園生活を確保したのだった。




