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第〇瓶

[瓶詰めされず出されなかった最初の手紙]

飲み干した薄荷水の空き瓶を持って、ふと瓶詰めの手紙について口にした君。僕の直ぐ傍にいて、単なる世間話のようにそんなことを話した君の、ただの思いつきの一言が僕の心に火を灯した。「この瓶に手紙を入れて封をして海に流したら海の向こうの誰かが受け取るのだろうか」君の言ったこんな一言から話題は海洋の潮の流れの話や封蝋の話、砕けた瓶が水を彷徨い磨かれて打ち上げられるシーグラスの話題になったけれども、僕は瓶詰めの手紙について考え込んだ。夜、眠りを待ちながら言葉を伝え合う数多の手段の中で、その異質さを考えた。電話も郵便もそのほかの通信手段ともまるで違う。誰に届くかも分からないその手紙は同時に出した人間の素性さえ分からない。まるで互いに関わりのない人間の手に偶然にもたらされるもので、この世界で本来は接点を持ち得ない者同士の指先が触れるということだ。どうしてそんなことをしようと思うのだろう。ホモ=ロクエンス。沈黙したままではいられずに僕たちは語りたくなる。隣の人、同じ町の人、職場の人。それぞれに話すべきこと話せないことが異なり、いつか自分の中に語りたいのに語りかける相手がいないものがそのまま残っているのに気づく。もしかしたら、そんな言葉が僕にはあるのかもしれない。僕たちはこんなにいつも近く傍にいるというのに、いつだって話しもできると言うのに、僕たちはどれだけ心の奥底の素直な言葉を交わし合えているのだろうと。一緒になってから、こんな僕のために人生の大切な時間を使う君に、僕はいつだって罪悪感と悔しさとない交ぜになったもどかしい気持ちをどこかに感じつつ、そうしてそれ以上に感謝の気持ちを抱いていた。君はいつもユーモアもあって、僕に優しく自分が背負う苦労も微塵も感じさせずに僕を笑わせる。君はずっと僕に怒らない……僕はと言えば本当は君にもっと怒って欲しかったのかもしれない。僕を恨みなじることがあれば、それはそれで僕の抱くある暗い気持ちを逆に救っていたかもしれないのだけれど、君は本当にいつでも太陽のように暖かいばかりなのだ。本当に心の底からの気持ちを話せたなら。そして僕は君に伝えたいのに伝えてない大事な言葉が沢山ある……いつでも君が大切でこの先も大切な存在だと言う一言を、……今は君が読むことの出来ないこの手紙に、未来の君に向けて書き残して置きたいと思う。

初出:2023年(令和05)06月29日(木)22:56

[pixiv] https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20167995

『pixiv小説1000億字突破記念「1000字コンテスト」』テーマ「ボトルメール」( https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19909583 )内

「1000字コンワンライ」最終回「一言」( https://x.com/pixiv_shosetsu/status/1674402340479160320 )参加作品。


再録:2025年(令和07)02月15日(土)

[小説家になろう]


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