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第二瓶

こんにちは。これを読む人が既に前の手紙を読んだ人なのか、これが初めてなのか、それともこの先に書かれるかもしれない手紙を読んでいるのか、僕には分からない。けれど、僕は僕にしか分からないやり方でのこの手紙を、紙の上に書きそうして瓶詰めにして何時もの川に流すだろう。これ以前の、そしてこれからの手紙が誰の手に届くのか、そしてそれがこの文字を読み取れる人なのかも分からないけれど、むしろだからこそこれは自由に書けるもののような気がする。読みにくいだろうこの文字を懸命に解読した人たちには申し訳ないのだけれども、この手紙の文章には読む人に殆ど価値が無いし、別の瓶……これを入れたものと同じ型のガラス瓶……も同様に価値が無いだろう。びっしりと詰め込まれた文字をここまで読んで、「何か特別なものが隠されている」とか、「読んだ後に何かが残る」とか、それは一切無いだろうと思う。いや、唯一残るものが「骨折り損のくたびれ儲け」。言わば徒労なのだろうから、こればかりは仕方ない。じゃあ何故そんなものを態々こんな手間をかけて、書き出してわざわざガラス瓶に封入し、それを川っぺりまで出かけて放り出すのかというと、つまり『気分』としか言いようがない。自分には現在、家族として共に暮らす者もおり、良好な関係ではあるのでけれど、どれほど親愛のある相手であっても伝えようのない孤独というものがあるような気がする。普段は親しく間近にいながら、だからこそ伝え切れない、会話に出来ない感情というものがあり、それを心の中に抱え込んでいるのだろうか、とも思う。多分、そのようなものをこの世界の人の中には日記という形にして密やかに書き綴り残しているのだろうけれども、自分の奥底にある素顔を、僕が誰なのか、名前も顔も声も知らない人、出来るだけ遠くにいる人、生きているうちには絶対に出会いも別れもしない、交差する場所の無い筈の人に向けてならば書き残すことが出来るような気がしたのだ。その「一切無関係の他人」であるならばこそ、何の気兼ねもなく根底の感情を書き綴る自由があるような気がして、このやり方で手紙を出そうという気になった。そもそも世の郵便物の中にはトラブルで遅れてしまったり事故で失われ宛先に届かないものもあるだろうけれど、この手紙もそうして誰にも読まれずに川や海の底に沈んでしまっていいのだ、とも思って書いたものだ。またいずれ……

初出:2023年(令和05)06月13日(火)23:08

[pixiv] https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20071407

『pixiv小説1000億字突破記念「1000字コンテスト」』テーマ「ボトルメール」( https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19909583 )内

「1000字コンワンライ」第4回「気分」( https://x.com/pixiv_shosetsu/status/1668604131886395392 )参加作品



再録:2025年(令和07)02月15日(土)

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