筋肉勇者
変わり者。
街の人に聞けば誰もが彼のことをそう言うだろう。
彼は異世界から召喚された勇者だ。
そんな勇者の容姿を街の人に聞くと誰もがこう言う。
とにかくデカい。
そんな彼の二つ名は筋肉勇者である。
◇
王の間
魔法陣が光を伴い、空間を彩る。
それは術者の願いを叶えるため。
王の間では勇者召喚の儀が行われていた。
それを行うための術者達は1人や2人ではなかった。数十人の術者が魔法を行使していた。
やがて
魔法陣が今までよりも激しく輝き、閃光を放った。
魔法陣の中央の誰もいなかった場所に男が現れた。
男はデカかった。
そして何より⋯
「おぉ、遂に召喚に成功したか!!」
王の声が広間に響き渡る。
他にも魔法使い達の間でも達成感と感動で感極まったような表情で肩を抱き合っていた。
みんなこの召喚の成功を心から願っていた。
「勇者殿には魔王の手から世界を救って頂きたい!!」
王が男に呼びかける。
男がゆっくりと体を動かしやがてポーズを構えながら答えた。
「マッスルゥーーーーー(いいよ!!)」
王と魔法使い達は後に語った。
意味不明だ⋯
なんであんなのを召喚したんだ⋯
神はいなかった⋯
◇
「勇者殿には魔王討伐のための仲間をご紹介させて頂きます。」
「マッスル。」
最近勇者と接する人達は謎言語を理解していた。
いや、正確には分からないのだが何となくの雰囲気で察してなんとかしていた。
「1人目は魔法使い連盟のうら若き魔女殿。」
「歳のことは聞くなよ坊主。」
「マッスル。」
勇者の筋肉がピクっと動いた。
「2人目はこの国の王女にして国一番の美女の聖女様。」
「よろしくお願い致します勇者様。」
「マッスル。」
勇者の筋肉がピクっと動いた。
「3人目は人類最強との二つ名をお持ちの女戦士。」
「ふん、勇者がどんなものか知らねえけど俺こそが最強だ。」
「マッスルゥーーーーー。」
勇者が全身の筋肉に力を込めてポージングした。
「ふ、ふん。あんたの背中も羽がついて空も飛べそうなくらいなかなかに素敵じゃないか。」
「マッスルゥーーーーー。」
「私の上腕二頭筋もキレてるって?褒めてもプロテインしか出ないぞ。」
「マッスルゥーーーーー。」
「プロテインはこの世界にあるのかって?そりゃ世界中を巡りながら探したらあったのさ。」
「マッスルゥーーーーー。」
女戦士と勇者の幸せな世界⋯。
「って坊主。ワシらを置いて話を進めるな。」
勇者って魔法の素材になったりせんかのぅ。
「そうですよ。私達も会話に混ぜてください。」
勇者の子供を身篭れば我が国は安泰です。
「マッスル。」
「露骨にテンションを下げるな!?小僧。」
「露骨にテンション下げましたね!?勇者様。」
筋肉勇者の冒険が今始まる!?たぶん。