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虹色の光と綿津美の山

伊那美濱駅前商店街 14時24分


シーズン後半でもあり、商店街のアウトドア専門店には大柄な翔と聡史が履けるサイズの長靴はなく、自然公園の山道という事でスポーツサンダルを購入する。

レインコートは高額なものしかなかった為、釣具屋で使い捨てのビニールポンチョを購入して無料休憩所に入った。

上着とパンツをバッグに仕舞い、バッグをゴミ袋で覆って防水する。

翔のバッグには余裕がなかったので、二人分の脱いだ靴は聡史のバッグに入れる事にした。

嵐の中の強行なので、濡れる事を前提として明日から履く予定で持参した膝丈のサーフパンツに着替えた。

「よし。これで準備は万全だな。夏で良かったぜーこの格好でも丁度いいしな。スポサンなら海でも使えるし持って来たビーサンで山は無いしな。それじゃ行こうぜ。」

聡史はバッグを肩に掛けてニックスのキャップを被りアーケードを市街地方向へ歩き出す。

翔も後を追うが後ろから声を掛けた。

「なあ、やっぱりもう少し待ってみないか。基本的には高気圧が張り出しているみたいだから局地的豪雨ってやつだろ。このパターン何か嫌な予感するんだけど・・・っておい。人の話し聞けよ。」

言われた聡史が振り返る。

「何だよ。ただの雨だろ。山の時と違って備えた上で進むんだから何とかなるだろ。躊躇せずにささっと乗り越えて別荘行かないと徹夜になるぞ。」

「ならないよ。叔父さんの会社で運営している別荘地にあるうちの一棟なんだから管理人さんが準備してくれているって言ってたよ。せいぜい部屋ごとのベッドメイキング程度だし何なら会社の保養所の方も使って良いって言ってくれてるんだ。哲さん達も来るし、かなり自由に出来るんだよ。」

聡史は立ち止まり真剣な表情で翔を見る。

「お前な、人として考えろよ。ご好意で利用させて頂く施設を他人頼りに使用するのは社長クラスや殿様にでもなってからやる事だ。管理人の皆さんに対して嫌味になる様な掃除をしたらいかんが、今回は青嵐三女神様と忍さんを加えた美女カルテットをお迎えするんだ・・・まあ美鈴も。それに会った事無いけど哲也さんの妹の美幸さんも雫さんと同い年なんだろ?この前、お前んとこの御親戚方に助けて貰ったんだけどさ、神崎一族って当然史隆さんも含めて皆イケメンだったからその美幸さんもかなりのお方と推察する。そんなフランス料理の最高級フルコースみたいな集まりをご招待するのに、並みの準備で許される訳ないだろうが。最高級には最高級のおもてなしが必要なんだよ。管理人さんだってこっちの都合で夜遅く挨拶に行ったら迷惑だろ?あちらだって仕事でやっているんだからさ。」

中盤を除き前後はまさしく正論であった。翔は一度納得するがあえて言い返す。

「その通りなんだけど・・・先に言っとくと、美幸さんは綺麗な人だぞ。叔母の美里さんが美人で、そっくりな親子って評判なんだ。あの叔父さんが頭上がらなくってペコペコ謝っていたの見ただろ。そういう力関係だと言えば納得するか?まあ、ちょっと天然なところもあるけど・・・それから、前回の事があってお前も『嵐の山は二度と御免だ』って言ったばかりだろ。今回の豪雨も何かおかしい現象だと思わないか?』

聡史は前を向いて歩き出し、後ろの翔に言い放った。

「ド天然理系オタクのお前がよく他人(ヒト)の天然を言うな・・・そうかそうか今回のお泊りは最高級プラスワンなのか・・・であれば、翔よ。男はな、危険と感じても愛する人達の為にあえて進まなければならない時があるんだ。例えそれで命を落としてもやらねばならぬ事がな。」

言うだけ言って聡史は力強く歩いて行く。

ビニールポンチョを右手にボーダーのTシャツを着てグレーのサーフパンツを履き黒いスポーツサンダル履きで、ゴミ袋で覆ったバッグを持った聡史を見送りながら翔は呟く。

「その恰好で言われてもな・・・何かの漫画に影響されているだろ・・・プラスワンってなんだよ。哲さんにシメて貰おう。」


アーケードの市街地側出口は駅と同じく暴風雨が続いている。

出口に面した道路は狭く、居酒屋や蕎麦屋が並ぶ飲食街になっていて、そのひとつ先のブロックに広い県道が横切るのが見えた。

道に人影は無く、店はどこも戸を閉ざし、外に出られなくなった客達が店員と一緒に外を眺めていた。

ポンチョを被り、意を決して一歩出る。左側、海から噴き上げる風が全身を襲い目の前にポリバケツの青い蓋がフリスビーの様に飛んで行った。

二人は慌ててアーケードに戻る。

「マジか・・・激しさ増してるじゃねーか。こんなポンチョで大丈夫かな。」

聡史が前屈みになって頭の雨粒を振り落としながら言う。

「命を賭してやり遂げないといけない事なんだろ。頑張れよ。」

「ああそうだよ。この前の嵐に比べりゃ大したこと・・・同じくらいだけど、一度経験済みだ。経験値がある以上大丈夫な筈だから、先ずは翔から行け。」

翔は聡史を見もせず、目の前の暴風雨の正体を見定めようと空を見上げる。

「・・・あのな、やっぱりこの嵐おかしいぞ。確かに厚い雲に覆われているけどこれ、積乱雲じゃない。レーダーにも映らないし、台風が発生している訳でもないのに危険半円内の風みたいに東からの反時計回りの風がこの地域を中心にぶつかって来ている。分かるか?この地域が台風の目になっているっていう事なんだ。そうだとすれば、アイウォールが見える筈だろ?大体、台風が日本のしかも本州で急激に発生する事はいくら何でも無い。これだけの雨量をもたらすスパイラルバンドも無い。良く見てみろよ、これだけの風が有るのに上空の雲に変化は無いんだ。分かるか?変化していないって事は線状降水帯ですら無いんだ。目視可能な水平線までの距離、約4キロメートル以内は固定した雲から雨が降り続いて暴風が舞っている。これは気象現象じゃないよ。あの時の大木周りで起こった旋風の巨大バージョンだな。迂闊に跳び出すと、また巳葺山みたいな所に導かれるぞ。戻ってバスの運行開始を待とうぜ。」

翔の説明を聞きながら聡史が素朴な疑問を口にする。

「・・・なあ、巳葺山に迷い込んだ時、俺達は脊山さんに助けられて小屋に入れたよな。あの後ピタッと嵐が止んだんだ。しかも、理論上通行不能なルートで迷い込んだ。楓さんも仰っていたけど・・・あれさ、俺達をあの場所に招いたんじゃないかな。今回も似ていないか?予定していた進路を妨害されたんだとしたら、また何か起こるのかな。もしそうなら俺達が進まない限りこの嵐は止まないんじゃないのか?」

聡史の疑問は翔の頭の中に最初からあった。

空を見上げている聡史を一瞥し、尻のポケットに入れたスマホを取り出す。

「誰に聞いたらいいのかな・・・まあ、一発解答を求めるなら楓さんだな。」

言うとスマホを動かして『楓さん』を検索して呼び出しのマークを押す。何度目かの着信音の後で応答があった。

『はいは~い。翔君。まだ無事みたいね~』

「え?また楓さんの仕業ですか?・・・嵐に遭って立ち往生しています。」

『またってなによ~私は何もしてないよ。人聞き悪いな~それでなあに?また嵐なの・・・今は伊豆だっけ、横浜は~快晴よ・・・翔君、耳鳴りとか倦怠感はある?幻覚や幻聴とか・・・今の君には無いか。』

「はい。自分自身には何も無いんですが、駅に着いた時は晴天だったのに食事して店を出たら突然嵐が始まったんです。1時間くらい前、13時半くらいからです。」

腕時計を見ると14時34分を指している。

『そう・・・こっちが最終治療始めた頃ね。それでどうしたらいいかを聞きたかったって事ね。』

「はい、伊那美濱の駅から下田に抜ける国道沿いのバス通りが冠水して動けないので、聡史と自然公園の山を回って海に向かおうとしているんですが、この嵐が巳葺山の時に遭った嵐に似ているんです。これ、自然現象とは思えません。それで、聡史も自分達が動かないと嵐止まないんじゃないかって。自分も同じ事を考えています。最終治療って何ですか?」

『うん、朝9時頃から特殊症例で倦怠感や幻覚見る人が沢山出たんで青嵐大病院で治療してたのよ。関東南部から君達がいる伊豆半島で同じ症例が起こっているわ。多分そっちも病院は大変な事になっていると思うの。その原因を調べにこれから大学側に向かうところよ。翔君。そこに着いてから海に何か感じる事ある?』

「いえ、海自体には何も・・・これから向かう山には・・・」

言いかけて居酒屋の屋根の先に見える山を見る。一か所だけ光が差し込んでいる所があるのが目に入った。

「楓さん。山に光が射し込んでいる所が一か所だけあります。槍穂神社で楓さんと宮司さんが祈祷していた時に本殿に射しこんでいた様な虹色の光がスポットライトみたいに射しています。これから行こうとしている山だと思います。」

『ふふふ、呼ばれたね~聡史君の勘通りよ。君達が進まないと何時までも嵐のままだわ。諦めて行って来なさい。おぼりんもいるから大丈夫よ・・・たださあ、山ごと吹き飛ばさないように君は抑えていなさいね。何か起こったらおぼりんに任せるのよ。この後で何か分かったら教えてね。あ、お母さんや雫ちゃんは大丈夫だから安心してね~』

「はい・・・じゃあ諦めて進みます。ありがとうございました。」

翔は苦笑してスマホをポケットに戻す。


聡史がやり取りを見ていた。

「楓さんが諦めて進めって。やっぱり俺達が動かないとこの嵐止まないみたいだぜ。横浜は快晴だそうだ。」

何故か聡史の目が輝いている。

「そうかそうか、楓さんのお墨付きが出たか。んじゃ~安心して進もうぜ。」

言って翔の肩を叩く。

「お前・・・確信犯だろ。横浜で特殊症例続発していて楓さんはこれから大学で原因を調べるらしいからこの前みたいに助けに来てくれないぞ。楽しそうにするなよ。」

「別に楽しんではいないよ。早く付いて準備したいのは事実だろ。それに今回は何かあってもお前の守護精霊様がお守りくださるんだろ?罠にはめられるんならまだしも招かれているとしたら行くしかないだろ。ちゃちゃっと済ましてとっとと進もうぜ。」

ブラックキャップを一振りして被り直しポンチョを伸ばして前を向いた。

翔も諦めて雨粒を払い聡史に続く。

『海に何か感じる?』

楓の言葉を思い出し、海側に意識を集中してみるが海上に落ちる稲妻と呼応する雷鳴、暴風の激しい音以外には何も感じる事は出来なかった。

アーケードを出ると雨脚は変わらず、沖には稲妻が何度も走っているが風だけが止んだ。

「行く事決めたから少し歩きやすくしてくれてるのか・・・な?」

聡史が言うが豪雨には変わらないので聞き取り辛く、翔は手で合図して前へ進んで行く。

居酒屋を越えると四車線の県道が横切る。左手に海が見え、海沿いの国道とのT字路を警察官と道路公団の職員がバリケードを造り車両の進入を規制していた。

道路上には職員達以外には人影はなく通行する車も全く無かった。

『俺達のせいかな・・・』

翔は豪雨の中でも務めを果たす大人達に頭が下がった。

もう一度海に神経を集中する。

何か大きな白い塊と黒い集団・・・イメージとしてぼんやりと翔の頭の中を過ぎる。

聡史が何かを叫ぶ声がイメージを掻き消した。

振り向くと聡史が海と反対側を指差している。

四車線の県道には広い歩道が整備され両側に戸建て住宅が並び、車道は川の様に水が流れて歩道からの水も合わさりながら海へ向かっている。

目線の先、傾斜のある道路の先に二股に分かれる三叉路が見えた。

右は県道のまま峠へ、国道の天城峠方面への道と青看板に書かれていて真っ直ぐに緩い登り坂が延びている、左側は傾斜がきつい登りになっていて、分岐の歩道には背の高い街路樹がある。その先に小高い山が見えて『綿津美山自然公園入口(わたつみやましぜんこうえんいりぐち)』と案内板が架かっていた。

「この公園だろ。巳葺山とは比べるまでも無いな。安心したぜ。」

聡史が叫び、豪雨の中分岐点まで進み左側の登り坂を行く。

翔は歩きながら振り返り、もう一度海を見るが何のイメージも浮かばなくなっていた。


二軒の大きな住宅を越えると様々な種類の果樹園があり、オレンジの果樹園を越えたところに駐車場が見え小さな公衆トイレの横に手摺のあるコンクリートの階段があった。

一旦、屋根のあるトイレに入り雨水を払う。

「よーしこれから行くけどよ翔、覚悟出来ているよな。今回は自然公園だから巳葺小屋みたいな所は無い筈だけど、何が待っているのかなー」

「やっぱり楽しんでるじゃないか。今回は山の中で嵐に遭っている訳じゃないからここがゴールの筈だろ?それでも雨が止まないのは登って国道まで行かないといけないって事だろうな。お前の言う『何か』に出会うまで人払いの嵐が続くんだろぜ。」

「だから楽しんでないって。兎に角さ、これを越しちゃえば別荘が待っているんだろ。一時間後には雫さん達女神様の為に準備出来ると思うとテンション上がるぜ。それはそうとさ、晩飯喰う処くらいあるんだよな。今更自炊は勘弁だぜ。」

聡史がスマホで公園のマップを探しながら言う。

「ああ、海岸周辺は観光地だからな。この嵐で閉めていなければいろいろあるよ。最悪ファミレスは開いてると思うし・・・折角観光地に来たから昼飯の時みたいに土地のもの食べたいけどな。」

翔もマップを探すが、地図アプリ以外には掲載が見つからない。

「ローカル過ぎて情報無いか・・・駐車場の所に公園の案内看板あったよな?翔君!とっとと行って見て来なさいよー」

聡史の無茶振りに呆れながら翔は豪雨が続く駐車場へ走った。日焼けして所々塗装が剥げている看板を撮影してトイレに戻る。

二人で映像を覗き込む。トイレの横にある階段を登ると二股に分かれる道があり右に進むとハイキングコースになっていて山を迂回して河津町方面へ抜けられるらしい。翔達が向かうのは左側、松並木の崖脇を通り南に旋回すると海沿いの国道に抜ける階段があるようだった。

「案内板を見る限りじゃ、全然大した事無さそうだな。たださ、迂回路に入り込んで河津や山頂に連れ込まれるのだけは御免だよな。まあ最初の二股さえ間違わなければ、ほぼ一本道じゃないか。何処で招かれるんだろうな。」

聡史が拍子抜けた言い方をする。

「何でがっかりするんだよ。アーケードの出口で楓さんと話ししていた時に光が射していた所があっただろ。多分この松並木の上辺りだったと思うぜ。」

翔が応えて、スマホの写真を拡大させて指差す。

「え・・・光なんか射して無かっただろ。この嵐だぜ・・・お前だけに見えたのか?」

顔を見合わせると短い沈黙が訪れる。翔が口を開いた。

「そうか・・・呼ばれているのは俺だな。俺だけ行くから聡史は別荘に進めよ。」

翔が言った瞬間、聡史は翔の肩を掴んで顔を覗き込む。

「馬鹿か翔、お前は馬鹿なのか。前にも言っただろ、俺はお前の事を兄弟の様に思っているんだ。危険が有るか無いかは分からないが、お前一人で行かせる訳ないだろ。」

聡史の真剣な顔に翔の胸に熱いものがこみ上げてくる。

「聡史・・・悪かった。これからもよ・・・」

感動した翔が話し始めるのを聞きもせず聡史は片手で肩を掴んだまま横を向き、話しを続ける。

「大体な、お前一人で行かせて万が一、雫さんがいらっしゃるまでに戻らなかったら俺の立場ないだろ。当然忍さんや寛美さんも悲しむ。美鈴が泣き出したりでもしてみろ~麗香さんからも軽蔑されかねない。それじゃ~本末転倒なんだよ。将来俺の弟になるお前はこの俺様が守ってやるからよ。だから俺には決して何も起こらない様に、何かあった時は必ずお前が全力で俺の事をきっちり助けろよ。」

支離滅裂な聡史の言葉をいちいち聞いてた自分自身に深く反省しながら翔が口を開く。

「分かった分かった。じゃ一緒に行くんだな。目的が一致したんだ。進むぞ。」

キャップを被り、もはや必要性が疑わしいポンチョを着直してトイレを出る。

依然として豪雨が続き果樹園の先にある筈の暗い海に稲光が何本も見える。翔の目にはその稲光は移動しながら何かを追っているように映った。


豪雨は階段を段瀑の様に変え足元をすくって行く。手摺を力強く掴み一歩一歩登り、水が溜まり、滝壺のようになった踊り場を何か所か越えて更に登って行く。

暫くの間、二人は豪雨の階段を無言で登り続けた。

十分程度登ると最初の分岐が現れる。

分岐には案内看板があり、駐車場にあったものと同じ内容だった。

予定通り左の松並木に入ると傾斜は緩くなりウッドチップの舗装が雨を吸い込み歩き易くなっている。

「何かさ、雨のお陰で大変ではあったけど普通に登って来れちゃったな。分岐であり得ない道とか駐車場の看板と違う内容が現れるのかなって思っていたけど何も無いのな。これを道なりに進んだら海が見える・・・左側崖になっているからここからも見えるじゃんか。こうやって見ると結構上って来たんだな。しかしあの雷すげえな。何かを狙って移動しながら落ちてるみたいに見える。」

階段を登り切り、余裕が出て来た聡史が口を開く。

「聡史もそう思うか?あんなに間隔短く近接地に落ちる事自体あり得ないんだよ。そもそも海上への落雷何て稀な筈なんだ。楓さんから海に何か異変を感じないかって聞かれたんだけど、海中を移動する『何か』を狙って稲妻を落としているとしか思えないよな。」

何年か前、海洋エアゾルの影響で海上への落雷頻度が落ちるといった内容の論文を読んだ事があった。

翔は言いながらスマホの動画撮影を起動する。後で楓に送るつもりで撮影し始めた。

「まあいいや。翔が見たって言う『光』ってのが、この先の右側、崖の上に現れる筈なんだろ。この嵐で誰も近付いてこないし、もうそろそろこの雨も何とかならないかなー」

聡史が天に向かって訴えるように言う。雨は強く降り続き上を向いた顔に突き刺さる。

諦めた聡史が歩き始めるので翔は撮影を切り上げ、後を追った。

稲妻はなおも続く。

歩きながらもう一度海に、今度は海中に絞って感覚を研ぎ澄ます。

一瞬だけだったが県道で見た『白く大きな塊とそれを取り囲む黒い集団』のようなものが今度は少し鮮明なビジョンとして見えた。

翔の頭に『海中から空に雷撃を飛ばしているのか?』とも浮かぶが、上空には厚い雲しか見えず、空には何の気配も感じる事は出来なかった。

『ねーちゃんか忍さんだったらもっと詳しく分かるんだろうけど・・・』

それ以上は考えない様にして聡史を追った。

依然として豪雨は続き、木々に当たる大粒の雨がバタバタと音を立てている。

遠く、沖には連続して落ちる(いかづち)が雷鳴を轟かせていた。


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