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小世界の創世

正午を過ぎ、海面に浮かんだ陽炎が輪郭をぼやけさせている。

停泊中の護衛艦『安房』から小型のボートが下ろされ、白い制服を着た三人の護衛官が梯子を降り接岸用ボートに乗る姿が印象派の油彩画や、ターナーの風景画の様に刈谷の瞳には映し出される。

輝く水面を白い波が分かち、より一層辺りを煌めかせながら湾中央の海中観測所へ近付いて来た。

男性二人、女性一人が乗船しているのが次第にはっきりと視界に入ると刈谷の脳は夢の世界から覚醒する。

濃紺のポロシャツを着た海中観測所の職員が桟橋の係留ポイントを示している姿を見て、自分も出迎えようとボートが接岸する浮桟橋に歩くと同時にボートは寸分違わずポイントに吸い込まれるように入って来た。

職員がロープを受け取りアンカーに巻き付ける。

後部のシートに座っていた一番背の高い男性護衛官が職員に礼を伝え下船する。

刈谷が近付いて来ると立ち止まり敬礼をした。

「本作戦の指揮をします。久坂(くさか)です。静岡県警の刈谷監理官ですね。宜しくお願い致します。」

先に挨拶されて恐縮しながら久坂を見上げて敬礼をする。

「はい。県警の刈谷です。前例の無いご協力、感謝に耐えません。こちらこそ宜しくお願い致します。」

肩の階級章を見た刈谷は更に恐縮して話しかける。

「今回の差し出がましいリクエストは自分が警察庁内の上層部に行いまして、まさかこんな大部隊で御協力願えるとは思いもしませんでした。指揮官ですから当然とはいえ一等海佐の方が出て来られるとは本当に恐縮です。国防省には『特殊事例』についての調査という事は通達されていましたでしょうか。」

身長は190センチくらいで、爽やかな白い夏服からも鍛え抜かれた細身の身体は極限まで絞り込まれたアスリートといった印象だった。後から下船して来た部下であろう若い男女よりも実戦向きの体躯からは階級以上の重量感を受け取れた。

刈谷の言葉に久坂は制帽を取り、脇に抱えると笑顔になり応える。

「刈谷さんも警視正と伺っていますよ。組織は違えども、同等の職務階級と思います。実は国防省内にも特殊事例対策を専門に扱っている部署はあるんです。目的が異なりますから中々警察庁とは相容れませんが我々が対処しなければならない事案の中にはどうしても科学で答えが出ない案件はあります。今回ご一緒出来て嬉しく思います。恐らくお互いに組織内では胡散臭がられている仲ですからね。」

刈谷は右手を汗ばんだ後頭部に付けて苦笑いをしながら何度か頷いた。

久坂の後ろに係留の手続きを済ませ、機材を台車に固定した二人の隊員が並ぶ。

久坂は半身反らし部下を紹介する。

「この二人が調査本部に常勤します。見ての通り二人共階級は三等海尉です。」

久坂の紹介に女性自衛官が一歩前に出て敬礼する。

「第17特殊護衛隊横須賀司令部所属宮前です。」

続いて男性自衛官が台車を固定してから敬礼した。

「同じく第17特殊護衛隊横須賀基地システム通信隊に所属しております。津村です。」

二人の微動だにしない姿勢に感心しながら久坂に行ったように自身も姿勢を正して挨拶をする。

刈谷は津村が押している台車を見ながら話しかける。

「現在、調査本部の仕切り作業を行っています。電子機器の接続配置はその後になりますが事務室の使用許可は頂いております。精密器具の為、工事終了までそこでお待ちいただけますか?」

刈谷の言葉に久坂が頷き近寄る人影に目線をずらし敬礼する。

気付いた刈谷が振り返ると小佐田所長が歩いて来た。

「刈谷さん。そちらの方達が国防省の自衛官ですか?工事はもう一時間程かかりそうです。その後室内クリーニングで粉塵の除去を行ってから機器の配置となります。よろしかったら会議室を提供しますから仮本部としてお使いください。出来れば今後の方針もお聞かせ願えると助かりますが。」

刈谷は小佐田を紹介し、所長の申し入れの応えを久坂に促す。

久坂が頷き話し出す。

「国防省海上幕僚監部特殊護衛隊指令本部の久坂と申します。我々も今回の作戦に関して県警や民間の方々との意思疎通を円滑に進めたいと考えております。本作戦についてはこちらの刈谷警視正の指示に従う事を前提に配置しています。是非皆さんとのお打合せをお願いいたします。」

久坂の発言に刈谷の背筋に冷たいものが流れ落ちた。高揚していた気持ちが消失し、改めて事の重大さを痛感した。

「ご同意頂けましたのでお時間いただけましたら所長もご一緒にお願い致します。あと、三元組合長もお呼びした方がよろしいですかね。」



8月18日 金曜日 14時55分 『スペイン風料理 El Mar Hermoso』


ランチタイムも落ち着き始め、空席が見え始めていた。

この炎天下、階下で待ち続けていた最後の家族が空いた窓際の席に招かれている。

沙紀が首を伸ばし接客中の店員に合図すると、指示を受けた店員が待たせたお詫びとしてジェラートをプレゼントする。

おしぼりで汗を拭きながら歓声を上げる子供達を見て沙紀はOKサインを店員に送った。

食事と話に夢中だった翔達は周りのテーブルを見回す。

どのテーブルにも同じようにジェラートが並べられていた。

「待たせていたお客さん皆にジェラートプレゼントして大丈夫なんですか?」

沙紀の隣に座る翔が囁く。

「うん。この暑さで待っていてくれるお客さんだからね。今年は間に合わなかったけど来年までにミストシャワ―を付けられるように相談中なの。折角付けてもお客さんが並んでくれないと意味ないでしょ。リピート狙いの下心よ・・・なんてね。本当なら私達の料理に待ってまで食べてくれる方達には全部プレゼントしたいくらいだけどそれやったら潰れちゃうでしょ。せめてもの感謝の気持ちよ。それにね、原材料の牛乳やオレンジは哲也君の御両親・・・多分奥様が特別に分けてくれたものだから儲け出したら罰当たるのよ。」

翔達は哲也に注目するが「俺は知らないぜ」と言って美幸に微笑んでいた。


「さて、長居しちゃったな。沙紀さん御馳走様。お会計にしてください。」

哲也が言うのを遮って沙紀が言う。

「翔君のお姉さん達も引き連れて来てくれた時にいただきます。」

笑顔の沙紀に誰も返す言葉を無くした。

美恵子が微笑んで「それじゃ今回はごちそうになります。御主人にもお礼を伝えて下さい。あとね。その子も楽しそうに笑っているよ。」と言い美幸と笑い合った。


最後までシェフは厨房から出て来れず挨拶出来なかったが沙紀が見送り翔達は灼熱の空の下、階段を降り別荘へ戻る。

前を歩く美恵子に小走りで駆け寄り、美幸が話しかける。

「美恵子さん、公務員の能力者っているんですね。」

「うん。あの人達って目的が違うからね~刈谷君がはしゃいでたけど本当の所、出汁に使われているのはこちら側かも知れないね。」

二人の会話を聞いた翔が尋ねる。

「何の話ですか?」

尋ねて来た翔に妖艶な笑みを見せ美恵子が応える。

「お部屋戻ったらお姉さまとお話ししましょ~」

言葉は返さず翔は哲也を見る。

含み笑いの哲也と八田を見て立ち止まるが後ろを歩いていた聡史に背中を押され再び歩いてシマトネリコが茂る石畳の道に入った。


ほんの五分も歩かなかったが熱せられた身体は汗ばんでいた。

玄関に入るとエアコンの効いた室内は肌から熱を奪ってくれる。

ハンカチで汗を拭おうと周りを見ると哲也達からは発汗の跡がない事に気付く。

「翔君も練習すれば出来るようになるよ。お兄ちゃん程じゃないけど私も出来るんだからね。」

美幸に声を掛けられ哲也を見る。

「術者の修行は身体機能の調整を自在にこなす事から始めるんだ。これが出来ないと継続的に力を発揮出来なくなる。巳葺山でお前が馬鹿みたいに大きな力を出した後で立てなくなっただろ。規格外の力を出したってのもあるけど能力を制御しないと何時か暴走する場合があるんだ。その逆もな・・・ま、俺は見た事無いけどさ。何故か術者でもない八田さんが出来てるのも凄いんだけどさ。武術の鍛錬にも似たところがあるのかもしれないな。丁度いいから基礎は教えてやるよ。聡史君達もな。」

聡史と慎也は顔を合わせると笑顔で返事をする。


テーブルに着くと厨房から美幸と曽野川が氷の入ったタンブラーグラスとオレンジジュースの瓶を持ってくる。

翔がそれぞれ配り、曽野川がグラスに注いでいく。

「慎也~今度は何だよ。お前ガラスのコップにまで喰らい付くのか?もう、それは不審者の姿だぞ。」

目の前のタンブラーに触れもせず左右から覗き込む慎也に聡史が絡んだ。

「・・・あの・・・美幸さん・・・これ、もしかして・・・」

「うん。ロブマイヤーって書いてあったよね。」

美幸が言うと曽野川が笑って頷いた。

失神しそうな慎也に笑いながら、今度は翔が応える。

「慎也。俺も気にしていなかったけど今回はハプスブルク繋がりだな。確か1823年、ウィーンで小さなガラス細工店を開いたヨーゼフ・ロブマイヤ―が開業後間も無くハプスブルク家の御用達になって高級ブランドに成長したんだよな。慎也の言うところの芸術品で、世界各地の美術館にも収蔵されている・・・で、これは何て言う芸術品なんだ?」

翔を一瞥して応える。

「名前は知らないけどさ、これ某ウイスキー会社のプレミアムハイボールの広告で見た事ある。写真家の人が素晴らしくて黒いバックに氷とウイスキーの光がグラスの刻みから放射状に輝いて、俺は飲んだ事も無い高級ウイスキーの琥珀色の輝きを際立たせているんだ。その時のグラスがロブマイヤーだって知った。まだ未成年だし、高級ウイスキーなんて親父も飲んでいるの見た事無いけどちょっと憧れたんだよ。ガラスの透明感とか授業通りの品物だなって思ったんだ。」

「お前等の授業ってそんな事までやるのか?なんの授業だよ。」

完全に珍獣を見る目で哲也が聞く。

『世界史ですけど。』

当たり前のように青嵐の三人が応え、聡史が補足する。

「世界史の中の欧州史で地域産業についての授業です。産業革命期の工業や労働条件の変化は1830年代にはイギリス国内でほぼ完成されて他国にも影響を及ぼし始めるんですけど、貴族を中心に工芸技術も発展していてハプスブルク家は産業界にも大きな影響を与えていたんです。その当時から現在に至るまでの産業史で各種ブランドの名前とその特徴について出題されるんで、うちの生徒は学ばざるを得ないんです。まあ、慎也のヲタク度は翔と双璧を成す程のいかれ具合なんですけどね。」

哲也達は顔を合わせ一瞬思考が停止する。

「それって国の学習指導要領を超えていますよね・・・第二外国語の件についても。そこまで詰め込んだ学習に皆付いて行けているんですか?」

素子が心のまま発言する。

高校生三人はそれぞれ顔を合わせるが慎也が応える。

「まあ・・・自分と翔は小学生から、聡史は中学からですけど他校の生徒とはそれ程交流を持たないので当たり前の内容だと思っていましたし、私学なので独自の教育なんだな~くらいしか考えていませんでした。高校に入ってからは落第する生徒は毎年何人かいますけど、他校も同じようなものと聞いています。大学附属校ですけど進学資格を取るのはシビアなので三年生の一学期で進学見込みの無い生徒は分けられて他の大学への受験対策が取られます。その人達も全員他の大学に合格しますから、そういう学習の仕方なんだと理解していました。カリキュラムについては正直あまり考えていなかったんです・・・詰め込みとも思わないというか、やっぱり変わっていますか?」

素子は逆に質問され「い・・・いや~」としか答えられなかった。


達観している美恵子に翔が尋ねる。

「美恵子さん、さっきの件なんですが・・・」

「うん。翔君、幽世(かくりよ)の操作出来るって言ってたよね。この部屋、無理ならテーブル周辺を覆う事出来そう?」

翔は美恵子の言葉の真意が分からず哲也を見るが、美幸が応えた。

「まず、やるだけやってみようか。どのくらいの大きさまで出来るの?出来れば球体で覆うようなイメージでね。」

何時もの様に明るく言う美幸に促され翔は空間の(ひずみ)を探す。

「部屋の壁とかどうなるか分からないので建物全体を覆うって事でいいですか?心配な点が幾つかありますけど・・・」

翔の発言に術者三人は顔を合わせて哲也が言う。

「建物全体って、そんなサイズの幽世創り出せるのかよ。」

哲也の発言を許可と捉え翔はイメージした通り別荘の建物全体を球体で覆う。

一瞬、照明の光が歪んだが正常に戻る。

会話の内容から何か得体のしれない現象が起こると期待した聡史達は何も変わらない部屋をキョロキョロと見回した。

「凄いね。ここまでとは・・・楓さんに教わった訳じゃないのよね。」

感嘆の声を出した美幸は美恵子に向って手を翳した。

「うん。やってみて分かったでしょ?ライフラインは直結していないけど別の次元に一度転送してからこの幽世に供給されている。君は頭で考え過ぎる所があるわね。上手く出来たじゃない。」

「ああ、そういう理屈なんですね。切断したらどうしようって考えて、何ていうかフィルターみたいに濾せばいいかなって感じでやってみました。」

会話を聞き聡史と慎也も光の揺らめきの理由に納得する。

もう一度周りを見回すと窓の外、月桂樹の林から見える海の景色は変わっていない。

照明やエアコンも変わらず作動している。

聡史達の挙動に対して美恵子が語り掛ける。

「ここはね、私達の言葉で『幽世(かくりよ)』と呼ぶ世界になったの。電気は翔君の言うフィルターを通して供給されているけど、水道とガスは微妙に変化している。水は一度電解されて若干アルカリ性に傾いているけど中性の範囲内の筈。ただね、ガスに関しては圧縮されているからこの空間で火を使っちゃダメよ。空間の歪みも補正出来ているし・・・ここまで完璧に出来る人間は楓さん以外には聞かないわね。上位の物怪や神の域に達している。聡史君は巳葺山で体験しているね。目視は出来なかったと思うけど、雷落とす時にこの幽世完成出来ていなかったら放電現象で皆死んでいたわよ。これを利用して核融合って・・・もう翔君は危険人物よ。聡史君のビジョンを覘かせて貰ったけど、想像以上の出来事だったのね。哲也君がへなちょこにやられるところ、ライブで見たかったわ~琴乃の運の良さも・・・まあ、皆無事で良かった。流石は楓さんね、やる事のスケールが違うわ。」

美恵子が言葉を止めるのを見て美幸がスマホを一度チェックする。

「私は幽世の中に入った経験が無いから慎也君達と同じような不安はあったけど知識は有ったから冷静に観察出来たの。それでね、皆もスマホ見て。圏外になっているでしょ。今、この空間は外界から遮断されているのよ。巳葺山に楓さんが到着して、お兄ちゃん達が集結してからは楓さんが許可した時以外、携帯は使えなかったでしょ?楓さんはあの山の神達を使って山全体を幽世で覆っていたという事になるのね。猿猴(えんこう)(むくろ)の幽世は楓さんに指示されて山の要所にいる神々の創り出した大きな幽世の中に納まっていたと言える。今、はじめて分った事だけど、その仕組みを完成させていたから楓さんは冷静に対処していたんだと思うな。それでね『幽世』をパラレルワールドって言うと、それっぽい?あ・・・翔君、量子力学云々や超弦理論の解説はしないでいいよ。」

美幸の言葉に前のめりになって今にも話し出そうとしていた翔は目が泳ぎ、哲也と聡史達は冷たい眼差しを注ぎ込む。

聡史は立ち上がって窓の外を覗きに行く。風に揺られる月桂樹の葉と茂みの先には、砂浜で遊ぶ子供達が見えた。振り返って疑問を語る。

「外に映る景色は何も変わっていない様に見えますが、外界と遮断されているっていうことは、この建物には誰も入れないし出る事も出来ないっていう事になりますか?」

美幸が美恵子に首を傾ける。

「う~ん、当然の疑問よね。翔君が好きな科学的考察は置いておいて、美幸ちゃんの説明通りに『幽世(かくりよ)』と『現世(うつしよ)』は平行の世界なのよ。私達は現世の住人だから窓の外に映る景色は変わらない。そこから翔君が切り抜いて幽世を生み出したって言うと理解しやすいかな?それで~ここまで完成度の高い空間になると翔君が幽世解くかお亡くなりになるまでは誰も・・・楓さんとかじゃなければ侵入も脱出も不可能よ~」

美恵子の言葉に聡史と慎也は翔を見る。

二人の反応に美恵子は続ける。

「私がリクエストしたのはここでの思念が伝播されない様に囲って貰おうと思っていただけなんだけど、想像以上の世界を創り出しちゃったわね~私は以前、楓さんの幽世の中で活動した事があったんだけど~その時に教わったのよ。不完全な空間の場合は翔君が心配した通りにライフラインの供給は途絶えるの。電気も水道も使えない、薄暗い空間になってしまう・・・猿猴という名の狒狒が造った幽世は正にそんな感じだったんじゃない?私達も含めて術を使う時はその術者の特性・・・本質が現れて来る事が多いわね。この幽世は隅々まで正確に再現出来ている。翔君の性格そのものね。継続して能力を注がなくてもいいように歪を閉じているのは凄い事よ。巳葺山での実戦でここまで熟練されているなんて、楓さんが一目置くだけの事はあるわ。」

『・・・再現?』

話しを聞いていた聡史と慎也は同時に声を上げた。

的を射た反応に美恵子は妖艶に微笑み話を続ける。

「そうよ。この空間は翔君が元の建物をそのまま再現している。さっき、世界を切り抜いて幽世を生み出したって言ったでしょ。ここは、ある程度の能力者が外から見たら輪郭が薄くぼやけた建物になっている筈よ。現世と幽世二つの世界が重複しているからね。幽世を生み出せるのは上位の物怪か神様。世界を生み出す能力は神の領域よ。術者の中には小さな幽世を使って盾の様に防御壁を造ったり、それを相手にぶつけて後退させたり、プリズムを利用して姿が見えなくなる様に応用する人もいるけど、ここまで本格的な世界を生み出せる人間は楓さん以外にはいない・・・まあ、楓さんが人間であると定義した場合だけどね~」

聡史が元の席に戻って再び疑問を口にする。

「今、外から事情を知らない人が訪ねて来たらどうなるんですか?」

今度は対面に座っていた哲也が口を開いた。

「誰もいない建物になっているんだ。例えば、俺達が返って来たのを見ていた矢崎さんが何かを伝えに玄関を開けても誰もいない。翔が幽世を生み出す直前の状態になっている。玄関には履物が、テーブルの上にはグラスと飲みかけのジュースがあるのに誰もいない。超常現象や都市伝説であるだろ?村人が一人もいなくなったのに、直前まで食事をしていた跡があるとか、幽霊船の話しとかな。」

「その例えで、自分達は入って来た矢崎さんを見る事は出来るんですか?外の景色の様に。」

聡史が更に聞き、首を傾げた哲也に代わって美幸が応える。

「それはね、そうなってみないと分からないのよ。私達も経験そのものは薄いから知識としてしか語れない。ただ、現世からは幽世の中を覗く事は出来ない。その逆はあるとされているのよ・・・あ、翔君!実験はまたの機会にね。」

聡史の問いに応えていた美幸が翔の思考をキャッチして制する。

聡史達は再び翔に冷たい視線を送る。


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