雫の朝当番
「雫さん。おはようございます。そろそろ時間ですよ・・・起きられますか?」
先に目覚め、雫の母親の弥生に挨拶をして浴室を借り、シャワーを浴びてから身支度を整え、昨晩一緒に寝た雫の部屋に戻るとまだ熟睡している雫にそっと囁く。
雫の顔を覗き込む・・・全く反応が無い。
『忍ちゃん、大丈夫?雫の朝当番は大変よ。夏だからね~冬だったら布団引っぺがすっていう技もあるけど。氷でも胸元に落とす位の事をしないとその時間には起きないよ。』
青嵐大病院の会議で県警との連携が確定すると、伊豆に向うメンバーに浅井と涼子の部下の担当官が加わる事が決まり、朝七時に青嵐学院大学に集合する事となった。
森澤姉妹の家には神谷が泊り、寛美は連泊していた研究室の私物を片付けて自宅に戻る事になる。
「忍ちゃん。今夜から家に来ない?その時間だと起きられないかもしれないからさ~私のベッドで一緒に寝て貰って、朝起こしてくれると安心出来るんだけどな。ゆっくりとピロートークでもしてさあ。」
雫が忍に提案すると「はい。」と即答した忍に麗香が言った言葉だった。
横で笑いながら寛美が何度も頷く。
ムッとした雫が口を開く。
「分かっていますよ。だから信頼出来る人にお願いしているんでしょ。あなた達に頼んだら何されるか分かったもんじゃないし~」
二人で目を合わせ笑い出し、麗香が言う。
「雫はさあ、起きるのは苦手だけど何処でも寝られるから、今日の内に県警の人に頼んで移動予定の車で寝れば大丈夫じゃないの?そうすれば起きた時には伊豆に到着するよ。」
「なっ!人を馬鹿にして~でもまあ・・・それもありっちゃありかな。」
二人の会話に忍が割り込む。
「大丈夫です。雫さんは私が責任を持ってお連れしますから。」
忍の宣言に寛美が笑い出して会話に混ざる。
「この新姉妹、もうどっちがお姉さんなのかしらね。あとね、忍ちゃん。雫とのピロートークは無いよ。二呼吸目には熟睡しちゃうから。その代わり寝相は異常にいいから雫のシングルベッドでも十分一緒に寝られるけどね。呼吸が浅くて身動きしないからって死んだとか思わないでね。」
「う~寛美までも・・・でも、私って寝相良いんだ。じゃあ忍ちゃん一緒に寝ようよ。寛美が言うんなら大丈夫よ・・・っていうか寛美って私の寝ているところずっと見てたって事?」
雫の発言に麗香と寛美は顔を合わせると肩を落として呆れ顔の麗香が応える。
「雫ってポジティブになったよね。あのさ、気にしているみたいだから言わなかったんだけど、私達で旅行行っても布団に入った途端に瞬睡するでしょ。修学旅行とかで同室だった人達もこの事は常識として知れ渡っているのよ。その代わり雫の幸せそうな寝顔は皆から愛されているんだけどね。今日の寛美じゃないけど天使のうたた寝・・・子猫の寝顔みたいだもん。」
「・・・何か下げからの上げなのかな・・・まあ、ありがとう。寝相に続いて寝顔が不細工じゃないのは分かったわ。それでね、今の問題はそこじゃなくって、あのお馬鹿さん達にきちんと何が起こっていてどうしなければいけないかを私達が考えて静岡県警の人と連携する為にもスタートに遅れる訳にはいかないって事よ。麗香が『電子機器への入力禁止があるから明日、静岡と神奈川の情報が全て出揃ってから皆で共有しよう。』って言うから今起こっている事を伝えていないけど。何も知らないのを良い事に、どうせあのボンクラ共、リゾートのサマーバケーションに現を抜かしているんだからさ。きっと地元の食べ物に舌鼓鳴らして、朝から浜焼き食べに行くに違いないわ。事件らしい事があったみたいだけど、まだ災害とかの情報が無いから翔が暴れてはいないようですけどね・・・という訳で、忍ちゃん頼んだよ。」
横で三人の会話を楽しく見ていた忍に雫が言う。
「はい。任せて下さい。それでは後ほど伺います。」
四人の会話を楽し気に見ていた深山夫妻の下に忍が駆け寄る。
三人は忍達に手を振って見送ると、寛美の私物を取りに水橋考古学研究室へ向い荷物を纏めると、楓を駅まで送ってから大学に戻って来た浅井がそれぞれの自宅へ送ってくれたのだった。
『氷はいくら何でも・・・』忍は起きない雫の顔を覗き込む。
・・・幸せそうな寝顔は皆から愛されているけどね・・・
麗香の言葉を思い出し本当に幸せそうな雫の寝顔を無衣に見詰める。
『本当に可愛い~子猫の寝顔だ~』
自然に笑顔になる自分に気付き改めて気を静める。
カーテンを手繰り、窓を開ける。
外はすっかり明るくなっていた。エアコンの効いた部屋に夏の大気が入り込む。
「雫さん。では、起きて頂きますよ。」
忍は笑顔のまま、ベッドで安眠する雫に近付き膝を付いて横に座ると両手を雫の耳裏に差し込む。
忍が微笑むと雫はゆっくりと瞼を開いた。
「お姫様、お目覚めですか?」
忍はふざけて言うと、雫が「王子様の口づけを頂いておりません。」とふざけ返す。
二人で抱き合うと笑いながらベッドの上で転がり回った。
開け放たれた窓から熱風が入り込み、二人は立ち上がる。
雫は支度をしに一階に降りて行った。
「嘘~本当に雫起こして来たの?忍ちゃん凄~い。時間通りじゃない。」
県警の担当官が運転して来た中型バスに荷物を入れていた麗香が正門から手を振る二人を見て声を上げた。まだ眠たげな美鈴と神谷由衣以外はハキハキと動いている。
「ちょっとちょっと~森澤の麗香さんよ。凄いのは忍ちゃんだけじゃないでしょ。」
雫が冗談で反抗する。
「はいはい。神崎の雫さん、何処も怪我していないの?忍ちゃんの弓って薙刀みたいに刃物差し込める仕様になっているんでしょ。優しく起こされて良かったね~」
「ええ、王子様のキスで目覚める横浜のスリーピングビューティーとは私の事よ。」
雫の応えに、寛美と麗香、忍を含めた三人が腕を組み冷めた視線を送った。
「あ、すみません。朝から調子乗りました・・・でもさ、忍ちゃんの起こし方って凄く爽やかって言えばいいのかな、スッキリ目が覚めたのよ。流石、楓さんの愛弟子って思ったわ。これから事ある毎に家に泊って欲しいわね。」
寛美が微笑み麗香と目を合わせる。
「姉弟子になりそうな、妹分を目覚まし時計みたいに言うのはどうかと思うよ。でも雫をこの時間に起こすとは・・・忍ちゃんは勿論だけど、ご指導した楓さんって思った通り凄い師匠なのね。」
麗香の言葉に忍が微笑み「はい。尊敬する凄い師匠ですよ。」と返事をした。
バスのトランクルームの荷物を積み直し、固定バンドを閉めている担当官に雫と忍が駆け寄る。
「風丘さん、おはようございます。今回も宜しくお願いします。」
雫が声を掛け、忍も頭を下げる。
「おはようございます。二人共須藤の葬儀に出席して頂きありがとうございました。宗麟住職のお陰で地元の英雄と並べて祀って頂き感謝しています。」
風丘を見上げ、二人は微笑む。
「当たり前ですけど、相変わらず背高いですね。聡史君より高いのかな。県警の担当官が送迎してくれるって聞いた時、もしかしてとは思ったんですけど、知っている人で良かったです。涼子さんは本部待機ですか?」
風丘は微笑むと頷きながら応える。
「佐々木監理官は今まで事件が起こると率先して危険な現場に乗り込んでいたんだけど、巳葺山の件が片付いて秋月先生に報告と身体のメンテナンスを施して頂いた時に今後の事を話し合って、先ずは自分が情報収集をするという方針が決まったんだよ。とは言え、今回も真っ先に伊豆に入るつもりでいたから自分が先に行くって言ってね・・・かなり不満そうだったんだけど、静岡の刈谷監理官から宿題貰って今も本部内で資料を取り纏めているんだ。」
風丘の解答に三人で顔を合わすと笑い出した。
「涼子さんって私達の先輩なんですよね。うちの大学出て公務員目指す人ってまずいないんですけど・・・馬鹿にしているとかではなく、何か余程の目的が無いと国家公務員試験何てほとんどの人が無視していますから。涼子さんの目的って知っています?」
雫が聞く。寛美と麗香も近付いて来た。
「いや、プライベートな事ってほとんど話さないからね。お互いに。でも何か探っている時はある。元々超が付くほど優秀で研究熱心な人だから多くのケースを頭に入れて咄嗟の判断を誤らない様にしているのかもしれないけどね。」
「そうなんですか。涼子さんって体育会系の人かと思っていましたけど、流石は先輩。やっぱり優秀なんですね。」
雫が言うのを後ろで聞いていた麗香が突っ込む。
「いい加減にしなさい。私は会った事無いけど、佐々木涼子先輩って法学部主席卒業の秀才よ。Y.PACの法務部や顧問弁護士事務所が好待遇でスカウトしていたんだけど国家公務員試験受けてやっぱりトップの成績だったらしいけど何故か警察庁にさっさと入っちゃったっていう異色の人物として割と有名よ。まあ、うちの大学出て国家公務員試験なんか受けても軒並み最高点取っちゃうからね、エリート気取って財務省とかって格下・・・考え方が違い過ぎて入ろうと思う人はいないよ。」
「いい加減にするのは麗香よ。テストの点数くらいしかステータスの無い、決まりきった答えだけを必死に覚えて自分がエリートだと勝手に勘違いしている視野の狭い国家公務員の人達に失礼よ。」
寛美が麗香の発言に突っ込む。
『いや・・・寛美の方が確実に失礼な気が・・・』雫は語らず忍を見ると目が合い笑い合った。
風丘は雫達の荷物を受け取りトランクルームに並べ固定バンドを締めると浅井に手を振って合図する。浅井側のトランクルームが閉まり、再度確認すると風丘もドアを閉めた。
「それでは皆さん、出発します。」
風丘が言い運転席に納まる。
まだ眠そうな美鈴と神谷は一番後ろに座り、麗香と寛美、雫と忍がそれぞれ席に付き、浅井が先頭の席に座るとドアが閉まった。
雫は翔に電話を入れようとスマホを取り出すが、LINEにメッセージを入力して動き出す車窓を眺めた。
『これから向かうよ。哲っちゃんやユッキーの方が先に着くと思うけど、誰もいないうちに暴れない様にしてね。海は見た?皆集まってから情報を合わせるから今は単独で動かないように。』
早朝の横浜の道路は行き交う車両もまばらでストレスなく横須賀横浜道路『綾南』に来た。そのままゲートを潜り保土ヶ谷バイパスまでもスムーズに進行、東名高速『横浜町田IC』から合流すると混雑し始めるが渋滞とまではいかなかった。
厚木から小田原厚木道路に入り『平塚』まで来ると風丘が声を掛ける。
「ここまでスムーズに進んで来れたんで一度休憩入れますよ。」
売店で軽食を買い、外のテラス席で朝食を摂る女性陣を眺めながら浅井と風丘はコーヒーを片手に今後のルートを話し合う。
「朝、家を出る時に楓さんから連絡が来て箱根を通るルートにしてって言われました。それでここまで来たんですけど、後で佐々木さんに連絡入れるって言ってました。何か聞いていますか?」
浅井が言うと、風丘のスマホが震える。他の班にも聞こえる無線は使用せず携帯回線を利用すると言われていた風丘は手に取ると通話ボタンをスライドする。
『風丘君、楓さんから箱根芦ノ湖湖畔の月読神社に寄る様に指示が来たけどこれから動ける?』
「はい。今は平塚です。朝、浅井さんに秋月先生から箱根ルートで向かうよう指示がありましたからそのつもりでした。湖畔の月読神社・・・了解しました。神社に付いたら宮司の方に声を掛ければ宜しいという事でしょうか?」
『う~ん。多分ね。楓さんも何か他の事やっているみたいで行けば分かる様にしておいたからって言われたわ。まだ問題は起きていないわね。刈谷さんから静岡側も神崎哲也君の他に凄い術者が加わったから安心していいよって言われたのよ。競い合う訳じゃないけど九鬼の本家にも協力要請しているからかなり大掛かりになりそうよ。風丘君の方は今回も学生ばかりだから皆の身の安全を最優先に、危険と感じたら即時撤退よ。九鬼の統領直志さんの意見を聞いて、用意出来たら私も向かうからそれまで宜しくお願いね。』
「畏まりました。彼女達の安全は必ず守ります。」
会話を終えると浅井に内容を話す。
「月読神社・・・ありました。箱根町の県道沿いにあります。箱根新道を芦ノ湖大観で降りて東海道を芦ノ湖に向って左折、最初の信号を右折して県道を進むと何軒かの住宅を過ぎた左側、山の斜面にあるみたいです。」
浅井が検索し、風丘に伝えると「分かりました」と応え腕時計を見る。八時半を少し過ぎていた。
「食事、トイレ休憩が済みましたら箱根芦ノ湖に向います。秋月先生から指示が来ました。月読神社に何かがあるようです。」
テラス席の女性陣に声を掛けると浅井と共にバスへ向かう。
「忍ちゃん、何か聞いてる?月読神社に何かあるの?」
麗香が食事を終え、コーヒーを飲みながら忍に尋ねる。雫や寛美も顔を向ける。
「いえ、何も聞いていません。でも楓さんが思い付きで何かを指示する事はありません。何か意図がある筈です。」
忍の発言に雫は麗香と寛美に悪戯っぽい笑顔を見せてから声を出す。
「ほらね~始まったよ。絶対楓さんは何か企んでいるに違いないわ。前回は文字通り踊らされる事になったんだけど、今回は巫女舞程度じゃ済まない何かをさせられるのよ・・・もう回避出来ないけどね。でもさ、翔が鏃受け取って今度は月読神社の月読尊・・・弓でも賜るのかな。」
黙って聞いていた美鈴が話しに割り込む。
「お姉ちゃんから何も言わず黙って付いて来るのが条件で私達も参加を許して貰ったんだけどさ。雫さん、月読神社と弓って繋がりが見えないんだけど。」
テーブルの上でサンドウィッチを頬張っていたしゃもじが美鈴の肩に飛び乗って『チチチ』と鳴く。
雫と忍は微笑んで雫が応える。
「日本神話の三貴子、『みはしらのうずこのみこ』は天照大御神、月読尊、素戔嗚尊と言うのは知っているよね。月読尊は『月弓尊』と表記される事もあるの。つまり弓に携わる神様。メジャーな神様は天照大御神や武御雷神、経津主神が弓を持つお姿で描かれていたりするけど、天照大御神は弓の名手として知っての通り伊勢神宮で最高神として君臨されている。武御雷神と経津主神は武神や勝負事の神様として鹿島神宮と香取神宮で祀られていて、どちらかと言うと刀剣の神様の様相が強いのよね。月読尊は月を司る普段は静かな神様で、月は日々形が変化するでしょ。それで三ケ月の形が弓を連想させて弓の神様としてお祀りしている事もあるの。それでね、翔が神託でお預かりしたっていう鏃だけじゃどうするんだろうなって思っていた所に月読神社が出たんでピンと来たって訳。しゃもじもそう言ってるわ。あとね、今回は海に何かあるって聞いてるでしょ。月は潮の満ち引きとも深く関係している。伊耶那岐命の禊によって誕生した素戔嗚尊は海原を治めるように命ぜられるけど、母神の伊邪那美命恋しさに『根之堅州国に行きたい』と泣き喚いて、統治せず海は干上がり悪神が湧き出て来たという。呆れた伊耶那岐命は素戔嗚尊にこの国の統治を許さずに追放してしまう・・・じゃあその後の海は誰が統治する?ってなって、古事記にも日本書記にも特に明記されてはいないけど、『夜之食国』を治めていた月読尊に伊耶那岐命が『滄海原潮の八百重を治すべし』と御命令したと神代記には書かれている。海に関しても外して考えて良い神様では無いという事よ。忍ちゃんには神具の弓があるけど寛美が普通の弓じゃ恰好付かないしね。まあ違ったとしても何かさせられるよ。ハ~イ皆で操り人形決定。私の警告無視して付いて来た報いよ。」
雫の言葉に麗香が反論する。
「警告無視して来たんじゃなくて、何が起こるか楽しみにして来たんだから早速イベントが来たって事でしょ。楓さんが先導しているならきっと安全よ。まだ、決戦の場に行く前の準備段階なんだからさ、何が出るかなってワクワクするよね。寛美も弓に係わると思う?」
麗香から振られ寛美が応える。
「雫の考えている通りだと思うよ。流石に神様関係は造詣が深いね。でも、そんなに上手く神具を授かれるのかな。それに、月読尊は様々な文献で素戔嗚尊と重なるところも見られるでしょ。穏やかさと荒々しさを兼ね備えているし、必ずしも弓かどうかはまだ分からないよ。」
「うん。日本書記にある保食神との話は、古事記の大宜都比売神と素戔嗚尊の下りとそっくりだしね。太陽を司り高天原を統べる天照大御神と、月の満ち欠けにより暦を司るとされる月読尊。これから行く須佐ノ原海岸・・・素戔嗚尊は『須佐之男命』とも書かれる文献もある。素戔嗚尊も月読尊も海には関係がありそうだし、この二柱の神様には共通の神話が多くあるのよ。有名なのは素戔嗚尊の方のお話しだけどね。まあ、行ってみれば分かるんじゃないかな。美鈴ちゃんも由衣ちゃんもさあ、何となくただ事じゃない事だけは伝わったでしょ。小田厚降りたらさ、風丘さんに頼んで箱根湯本くらいで下ろして貰いなよ。観光して帰った方が良いよ。」
それまで静かにしていた神谷由衣が眼を輝かせて言う。
「雫さん、寛美さん。本当に伝説通りの才女なんですね。こんなにさらっと日本神話の話し伺えるなんて。行きます!私、皆さんに付いて行きます。翔君の出来事も詳しく教えて貰っていませんし。公の機関が動く大きな事件なんですよね。足手纏いになる時は教えて下さい。お邪魔にならない様控えます。神話とか宗教のお話し大好きです。私は大学進学する時、文化人類学部行きたいと思っていたんです。雫さん宜しくお願いします。」
美鈴も「行きますよ!」と続く。
雫は由衣と美鈴に微笑んで頷くと、寛美と麗香に目を配り、手を肘の高さにまで上げると両手で手招きをする。
三人で歩きながら場を離れると声を潜めて話し合う。
「あれれ、何か既知感がある。あの前のめりな感じ、誰かに似ていると思うのは私の気のせい?最近の若い子達って皆危機感無いの?」
雫の言葉に顔を近付けて麗香が続く。
「いたいた、背の高いポジティブ男子・・・それよりも、美鈴って忍ちゃん対策に由衣ちゃんを連れて来たと思っていたんだけどさ、人選ミスだよね。何かこう、別に楽しめそう。翔君って意外とモテるのね。」
「二人共。起こっている事の重大さは忘れないでよね。あと、関連性が分からないから言わなかったんだけど、あの地域、もう少し南の下田に海に纏わる『神』を祀っていた洞窟があるの。高三の時にお父さんに頼まれて死滅した古代文字の解析と解読を頼まれた事があって、深海からやって来る恐らく『邪神』を崇めていた祭壇があったわ。私はそれとの繋がりも調べたいのよね。」
寛美の告白に二人は脚を止める。
「ちょっと。先に言いなさいよね。それ大事な事でしょ。楓さんに伝えないといけないんじゃないの?」
麗香が声を落として言う。
「ああ、それなら大丈夫よ、お父さんと楓さんが楽しそうにしゃべっているの見ていたから。あれが楓さんを見た最初だった・・・かな。その時から時が止まったように綺麗な少女のままなのは羨ましいけどね。」
・・・・二人は固まる。
「楓さんが綺麗なままで羨ましいのは分かる。ただね、それをあんたの口から言われると普通の人達にどれだけ夢と希望を失わせるのかを気にしなさい。物凄い嫌味と捉える人も出て来るよ。無駄にダメージ与えて敵造らないようにね。」
麗香に窘められるが寛美はキョトンとしている。
「ダメだ麗香。寛美は自分自身の解析が出来ていない。これ終わったら検査受けさせよう。それはさて置き、私は夢の中の出来事だと思っていたんだけど、学校までの道のりで忍ちゃんと話して来た事があるの。今日の朝、早朝に多分メッセンジャーの神が翔に何かを伝えている・・・何を伝えたのかは私も忍ちゃんも分からなかったんだけど同じビジョンを見たんだ。何か、こう、白い塊の様な大きな神様・・・楓さんがその事を知らない訳ないから先手を・・・最初から分かっていたと思うんだけど、私達に何かをさせようとしているんだと思うのよ。もしかしたら楓さんとその白い神様、グルよ。」
雫が言うと三人で視線を合わし、笑いながら頷くと皆の下に戻る。
「それじゃあ行くよ。しゃもじ。美鈴と由衣ちゃんの事はお願いね。」
麗香が皆に号令を出す。
しゃもじは美鈴の頭に乗り『チ、チチチ』と鳴くと肩に降り、そのままサマージャケットのポケットに納まった。