対策会議
太陽が山に隠れ残光が空に浮かんだ雲を朱く染めている。海には深い藍色の空が被さり夜の始まりを告げていた。海からの風がそよぎ、さざ波の音がリズム良く響き続ける。
階段を上りバスロータリーに入ると、更に交通量が増した国道からアスファルトを噛むタイヤの音が海のリズムを掻き消す。バス停には数人の観光客が並びタクシーは1台も止まっていなかった。
国道まで進み左に目を向けると、さっきまで食事をとっていたスペイン料理店は階段の下まで入店待ちの行列になっている。自然に笑顔になる自分に納得しながら信号のある横断歩道まで進んで行き、国道の信号が変わると他の観光客と共に道を渡る。
目の前のサーフショップではアロハシャツの男性達がテラスのテーブルで談笑しながらカクテルを飲んでいた。
サーフショップ脇の角を折れ坂道を上り脇道に入る。
『リゾートヴィラ須佐之原海岸』のライトグリーンに白文字の看板を通り過ぎ、背丈よりも少し高いシマトネリコの並木がある石畳の道を歩く。
既に照明が燈され足元は明るく管理人の矢崎夫妻が整えていたナスタチュームが綺麗に咲いている。管理棟前の大きなカナリーヤシの木にはアッパーライトが当たり別荘地全体を仄かに照らす。管理棟の東側には実の付いたオレンジの木が並んでいるのを初めて知った。
改めて別荘地の敷地内を眺めながら歩いていた翔が管理棟の玄関が見える所まで歩いて来ると、奥の駐車場に外出時には停まっていなかった白いミニバンが見え、玄関前には数人の人影があった。
管理人の矢崎氏が翔を見付けて声を掛ける。
「あ、坊っちゃん。お帰りなさい。こちらの方がご挨拶にいらっしゃっています。」
矢崎氏に紹介されて前に出て来たのは法衣を着た男性僧侶だった。
「先程は警察関係の方もいらっしゃり、私共もいろいろと聴取を受けていましたので、ちゃんとした挨拶も出来ませんで、大変失礼いたしました。私、伊那美濱の済世寺で住職を務めさせて頂いております乾栄達と申します。それで、あの後いろいろと検査して頂いたのですが全く異常ありませんでした。見付けて頂いた娘の由良です。」
紹介された乾由良は深く頭を下げてから翔を見る。
「伊那美濱高二年の乾由良です。お世話になりました。正直、何であんな所にいたのか覚えていないものですから罪悪感が無いんですけど・・・助かりました。ありがとうございます。」
矢継ぎ早に感謝を告げられて翔はたじろいだ。
「いや・・・あの、自分達は偶然発見したに過ぎませんから・・・あ、彼がおぶって国道まで運んだので自分は通報しただけです。」
翔の後をゆっくりと歩いて来た聡史達に話を振る。
「ああ、昼間の和尚さんですか。娘さんはもう歩けるんですね。良かったです・・・わざわざご挨拶に来て頂いたんですか。あの時もお伝えしましたが急いでここに到着しなければならない事情が有って、たまたまあの自然公園が唯一歩ける道と伺って、歩いている途中に倒れていらっしゃったので通報したまでですよ。偶然です。お気になさらないでください。あ、自分達は横浜の青嵐学院大学附属高校の二年で、仲村聡史と神崎翔です。あ、こいつは真崎慎也といいます。」
聡史が説明して自己紹介をすると由良が聞き返す。
「え、青嵐学院高校・・・もしかして深山忍をご存じですか?」
「忍さんな・・・」
翔が反射的に応えようとするところを由良の表情に気付いた聡史と慎也が瞬時に視線を合わせて聡史が由良との間に入りスクリーンになると慎也が翔の口を塞ぎながら退場させる。
「あ、あ~聞いた事はあります。うちの学校で運動部の全国大会出場者は非常に稀なものですから・・・ハハハハ。」
聡史の発言に由良は訝しげに表情を覗き込んだがゆっくりと話を続ける。
「そうですか、私は弓道部でこの夏のインターハイ個人戦、二年生で優勝出来たんですけど、昨年の優勝者だった青嵐の深山さんが出場しなかったんで棚ぼた優勝って揶揄されて・・・あ、すみません。関係ない話でした。」
由良は退場させられて行く翔を目で追いながら聡史に言った。
「いえいえ、本当にわざわざご挨拶に来られて恐縮です。こちらこそありがとうございます。御身体に障るといけませんからここらへんでお引き取り下さい。」
聡史は話を切り上げて慎也が翔を格納した保養所に戻ろうとするところを和尚が声を掛ける。
「あの、警察の調書や病院の手続きでこんな物しかお持ち出来ませんが、良かったらこちらをお召し上がりください。」
言いながら差し出したものは風呂敷で包まれた桐の箱とアーケードで食べた串団子の大きなパックだった。
「ああ、そうかお寺の名前どこかで聞いた事あったなって思ったらアーケードの和菓子屋さんで売られていた串団子のお寺だったんですね。これ美味しかったです。ありがとうございます。」
聡史が受け取り頭を下げる。和尚も会釈をして車に戻ろうとしたところ由良が話しかけた。
「暫くこちらに滞在するんですよね。また明日来てもいいですか?」
聡史は目を輝かせて返事をする。
「はい、月曜日までお世話になる予定です・・・あ・・・まあ、予定は未定なものですから日中の行動や滞在日数は明日来る本隊のノリで変わりますけど・・・」
聞いた由良は笑顔になって返事をする。
「ありがとうございます。家から近いんで遊びに来ます。それでは神崎さんによろしくお伝えください。」
和尚が先に駐車場に停めてある白いワゴン車に歩いて行くのを見ると、聡史に手を振ってから走って追いかける由良を見送りながら聡史が呟く。
「・・・え~翔なのかよ。本当に来るのかな・・・やばい・・・会議だ。」
笑って聞いていた矢崎夫妻の目線を感じ聡史はお辞儀すると保養所の『水無月』へ急いだ。
「何だよ・・・何?」
『水無月』のドアまで来ると羽交い絞めにされていた翔は慎也に問いただす。
「大きな声出すなよ・・・あのな、本当にお前は他人の考えている事とかをもう少し察しろよ。まあ、ちょっとここではマズイから玄関開けろ。」
慎也に促され鍵を出して開錠するとそのまま開いたドアに翔は押し込まれる。
ドアを後ろ手に閉め慎也は翔に話し出す。
「翔。お前はさあ、例えばゲームの時なんかは信じられないくらい相手の動きや考えを見抜くのに、何で通常時は他人の考えというか心の動きって言うのかなあ・・・心理を読み取る能力が著しく劣るんだよ。興味が無いのか?さっきのあの娘の一瞬の目の動き見たろ?絶対に心に秘めた蟠りがあって、さっきから話題の忍さんに対する一物があるぞ。その相手が明日来るなんて言ったらあの娘も明日来るって言いかねないぞ。それからもう一つ・・・もういいや。」
玄関ドアが勢いよく開いた。
「おい!対策会議だ。ってお前等、玄関先で何やってんだよ。それと翔、何か皿あるかな。和尚さんから串団子貰ったんだけど、チュロスもあるし食べきれないから管理人さんにお裾分けしよう。明日から大人数になるけど決して俺達の食べ残しをお出しして良いお相手ではない。どうせなら新しい物をお出ししたいからな。」
聡史が持っている団子と木箱を見て翔はキッチンの食器棚に向う。
翔の姿が見えなくなるのを確認した慎也が口火を切る。
「聡史。対策会議ってなんだよ・・・まさか・・・」
「そのまさかよ。ま、取り敢えず管理人さんに『エルマールエルモーソ』を紹介してくれたお礼と店長さん達に親切にして貰った報告が先だ。」
翔が大皿を持って来たのでテーブルに移動して自分達の分を皿に移し、パックの団子を管理棟へ皆で届けに行く。
「管理人さんからの紹介って伝えたら、お店の店長さんご夫婦からとても良くして貰いました。ありがとうございます。これ、先程和尚さんから頂いたお礼なんですけど、自分達では食べきれませんから、良かったら受け取って頂けませんか。」
聡史が代表して管理人の矢崎夫妻に話して皆で頭を下げた。
矢崎氏は笑顔で受け取ると済世寺について話し出した。
「済世時さんは駅前のアーケードを過ぎて最初の道を右に折れた先にあります。鎌倉時代に創建された由緒あるお寺で厄除け団子は江戸の時代に当時の和尚さんが門前の檀家さんに配り始めたのが由来だそうです。創建当時からお寺には弓道場があって代々の住職が一般には出回らない矢を制作している『矢師』を兼業としています。それもあって娘さんが子供の頃からその道では神童と呼ばれていたみたいなんですよ。特に秘伝という訳では無い様で一昨年から若い僧侶の方が弟子入りしていると聞いています。本堂は県の有形文化財にも指定されていて伊那美濱の観光スポットとしても案内所で紹介していますよ。」
笑顔の矢崎夫妻に再びお礼を伝え、三人は保養所へ戻る。
「それで、会議がどうのこうのって言ってなかったか?」
キッチンから大きな盆に三人分の小皿と四個のマグカップにコーヒーメーカーを持って来た翔が席に着くと言い出した。
慎也が聡史に目線を移すと、聡史が話し出す。
「ああ、緊急事態だ。さっきの子、由良ちゃんなんだが、明日も来るって言っていた。それをな、翔!お前に伝えるよう申し付かったところだ。」
「・・・ん?それのどこが緊急事態なんだよ。同い年だし別にいいんじゃないの?」
翔の発言を聞いて二人はのけぞってから立ち上がり、身を乗り出して慎也が話し出す。
「あのな、お前は本当に天然だな。さっき言いかけた事が実際に発動してしまった事実に気付かないか?これで三つ巴かつ、別の因縁勃発の巻き込み事故が不可避になる事に何故に考えが及ばない?お前学年トップクラスの成績保有者なのに実生活破綻者なのか?」
慎也の発言を聞きながら、立ったまま腕組していた聡史が大きく頷きながら続く。
「まあ、正確には四つ巴になるけどな。肝心のお前が大ボケかましてると大事故になるぜ。そろそろ本命を決定して俺達を安心させろ。」
「・・・ん~お前等取り敢えず座れ。今コーヒー淹れてやるから。」
翔が応え、ドリッパーにフィルターを乗せ、常備してある粉を三人分入れると、キッチンから取って来た電気ポットのお湯をコーヒーメーカーへ注ぐ。
ドリップされた濃い琥珀色の液体がサーバーに落ち始めるとほろ苦い酸味の中にフルーティーな香りを秘めた空気が広い部屋を満たして行った。
「翔。コーヒー淹れるの上手いな。いい香りだ。」
いきり立っていた慎也が座り直して呟いた。
「豆が良いからな。叔母の拘りで何種類かの豆をブレンドしているらしい。これは秘伝で他の人は知らないんだ。湯江山のお店も基本は蕎麦屋なのにリピ客には好評でコーヒーだけ飲みに来る人もいるみたいだよ。キッチンに専用ケトルもあったけどお前等落ち着かなさそうだったから手っ取り早くな。ねーちゃんがいたら、折角の豆が勿体無いって叱られるところだけどさ、どうせお前等味の違いなんてそんなに分からないだろ?」
最初に入れたお湯が全て落ちると香りが深まりフィルターから芳しい湯気が立ち上がる。
翔はフィルターに盛り上がった粉の湯気が落ち着き始めるとポットのお湯をゆっくりと注いでいく。
黙って座っていた聡史が口を広く。
「俺も家で飲むのはインスタントだからな。味は兎に角、香りが良い事は分かるぜ。今度からうちもドリップタイプにしようかな・・・って、おい!落ち着いている場合じゃないって言っているんだよ。」
「それはさっき聞いたよ。具体的に何が問題なんだよ。冷静に考えろ。可愛い女の子が一人増えただけだろ。落ち着けって。」
翔は聡史に応えながらサーバーに三人分のコーヒーが入ったのを目で追い、ドリッパーを取り外し予備のカップに静かに置くとサーバーを右手で握り一振りしてからテーブルに置いたマグカップにそれぞれ注いで行った。
カップを差し出された慎也が持ち手を左手で掴み目の前まで持ち上げると翔に聞く。
「渋いマグカップだな。これ、お高い器系の御品物じゃないの?」
「それは叔父の拘りがある静岡の名品・・・でいいのかな?江戸時代に小堀遠州っていう茶人がチョイスした遠州七窯って呼ばれる窯の一つで、静岡県の島田市にある『志戸呂焼』の品物らしいよ。窯の歴史は室町時代からって言われているけど、マグカップは最近の物だろうから骨董価値はないけど多分お高い器だから粗末に扱うなよ。その皿もな。」
爽やかな笑顔で応える翔を横目に聡史が口を挟む。
「翔って俺達と同じ生活レベルと思っていたんだけど・・・いや、同じレベルなんだけど親戚の人達や御関係者のレベル高いよな。この前助けてくれた人達も会社経営者様だったしな・・・まあ、その件は置いておくとしてだな、今日の事態のお浚いとこれからの行動については今話し合っておく必要がある。」
「おお、それよ。それを待っていたんだよ。そもそも俺より早く出て来ている筈のお前達が何であんなに遅くなったんだよ・・・このコーヒー美味いな。お店レベルだぜ。確かに翔の叔母さん秘伝のブレンドって凄いな・・・それで、なんだっけ、ああ、ここに来るまでの経緯はさっきの由良ちゃんに係わるらしき事は推測出来るけどよ。詳細をまず教えてくれよ。」
慎也がコーヒーを飲みながら聞いて来たので翔が昼に伊那美濱に到着してからの事を話すが、『神託』については言わなかった。
「・・・ふ~ん。本当に旨そうなもの食って来たんだな。それじゃ、駅に着いてから二人が御馳走頂いている間に俺が先にバス乗って来たって事か。俺なんて浜に着いて管理人さんに挨拶しに行った途端嵐に遭ってずうっと知らない管理人さん達と翔の話ししてたんだぜ。それで、県警の人が明日来るって言うのはどういった関係があるんだよ。あの子は無事だし、元気そうだったじゃんか。お礼に来られるくらいだから当然お前等が疑われる余地無いし、被害届も出ていないんだろ?」
慎也の問いに翔と聡史は顔を見合わせる。
聡史が観念した表情で話し出した。
「隠す気は無かったんだけどさ、実際に体験しないと頭おかしいって思う話だからあえて話さなかった事だけど・・・どこから話せば理解しやすいかな・・・」
聡史は翔を見ながら思案して、十日前の槍穂岳登山の出来事、巳葺山の事件について語り出した。
「・・・な。理解出来ないだろ。こんな事があって、今日の事件に繋がるんだ。」
聡史の話を静かに聞いていた慎也が口を開く。
「確かに信じられない話ではあるけどさ。翔は別として、聡史が客観的に見て来た事だよな・・・なんか所々、女の子の話しばっかり強調していたのは何時もの事としてだ。俺も大学の記者会見は見たんだぜ。あれにお前らが関わっていたというか当事者だったとはな。じゃああの公式発表は捏造されていたんだな。俺にそこまで話しても良いのかよ。まあ、絶対に他言しないけどさ。それに俺は翔よりも先に小等部に正式入学したネイティブ青嵐ボーイなんだぜ。翔の編入の経緯や聡史の中等部入学前の事も実は知っているんだ。俺の家は平凡って言っても親はY.PAC務めだからちょっとだけハイソなお坊ちゃまになるけど、うちの学校って歴史あるから昔からその手の逸話があるんで免疫があるんだよな。大学の考古学資料館の都市伝説とかも聞いた事あるし、うちの校風って常識以外の事も全て受け入れた上で最善の策を講じるところあるじゃんか。だからか分からないけど聡史は、その信じがたい光景を目の当たりにしても受け入れられたんだろ。根本的には同じだよ。俺にとっての具体例は聡史の怪我だけど、あれだって普通死んでる事故だろ。助けた女の子庇って二人共生きている事自体奇跡だし、あの後遺症が完全に消えているのは今日一日、聡史の動き見れば分かるんだよ。実は新学期から入部して貰った時、それが原因で歩けなくなるようなら俺が止めようとも思っていたくらいなんだ・・・正直に話してくれて嬉しいよ。」
真顔で話を受け止めた慎也を見て一度だけ目を伏せた聡史が話を続ける。
「お前よ。自分でお坊ちゃまとか、ハイソとかさあ・・・青嵐ぼーいって、今時言うか?まあ、話しが通じたなら、今日の話を付け加えるけどさ・・・」
聡史は再び今日の出来事を詳細に話す。
「成程。さっきの話しからも忍さんは三年の先輩で、美人で優秀なんだな。それじゃ~美鈴が神谷の援護頼みたくなるのは分かる。んで、何故かさっきの由良ちゃんとも因縁がある。そうすると忍さんと由良ちゃんの因縁って中学時代から続いているんじゃないの?忍さんってさ、中学時代に二連覇してるんだろ。忍さんがどう思っているかは別として、由良ちゃん側からは根深い物を感じたもんな・・・でさ、明日来るって言う人、警察の裏組織みたいなやつなの?その特殊事例なんちゃらって言うのは?あと翔の親戚筋の人達に陰陽師、神様って・・・それに中心人物の秋月楓先生って何者なの?その人いたら怪我とか怖くないもんな。なんかドラマみたいだな。」
慎也の発言を聞き、翔と聡史は無言で目を合わせてから言う。
「お前は深山先輩と呼べ!」
「ええ~そこかよ。まあ承知した。これで俺の心が太平洋の様に広大であり、マリアナ海溝のごとく深い思慮を兼ね備え、とあるシンガポール製掃除機の様な吸収力がある事はお前等にも浸透しただろ。これからは何でも相談しろよ。来月から部員になるんだからな。この俺、部長様がなんでも聞き入れてやるからよ。」
余裕の表情をしている慎也に聡史が言う。
「おお、だけどよ、部活の部長とチームのキャプテンは別だよな。翔が本来のポジションに復帰したら慎也はベンチだぜ。昔みたいにへなちょこパワーフォワードやるか?そもそも掃除機は吸収力じゃなくって吸引力だろうが。」
「ああ、俺はチームが強くなって選手層が厚くなってくれればいいぜ。だけどさ、中坊の時と違ってどの学校も皆組織立っているから翔にはこの前の球技大会みたいにポイントガードでゲームメイクして貰った方が良いんじゃないの?俺も聡史も人を活かすより活かされる方のタイプだろ。二人でやんちゃしても翔が後ろにいてくれれば安心だしな。翔の場合スリーポイントや意外とフィジカル強いからインプレーも出来るしディフェンスも上手い。あと、一年生でシューティングガード出来る奴がいるんだよ。高校入学組なんだけど中学時代に結構活躍していたらしいぜ。まあ、翔の方がスリーポイントの精度高いけどさ。それに中学の時の後輩で戸田、覚えているか?あいつ高校進学してから筋トレしてパワーフォワード候補なんだぜ。聡史程じゃないけど身長も高いからゴール下に二人でいれば中々威圧感ある。んでおれがスモフォワっぽい事すればまあまあ恰好付くだろ。スタメン全員180超えって県内でも割りと少ない大型チームになるしな。」
「なんだそれ、結局翔頼みのチームになるじゃないか。また翔にマーク付けられて身動き取れなくなるんじゃないの?」
「だからスタープレーヤーの俺様がスモールフォワードでかき回すって言ってるんだよ。聡史よりも俺の方がすばしっこいだろ。」
「それにしてもさ。同じ二年の佐藤や木下は臍曲げないのか?高校進学以来努力して三年の先輩が引退したんでこれからって時だろ。あいつら蹴落としてまでレギュラーにこだわらないぜ。皆で楽しくやれればいいんだよ。なあ。」
活き活きと会話する二人を眺めていた翔が加わる。
「俺も聡史の考えに同意する。俺達は横入りになるからな。今の部員を大切にして、俺達が手助けに成れればいよ。それに理想の話しは楽しいけどさ、対戦相手の学校は青春を掛けてバスケやって来た人達だから思うようにいかないのは当然だろ。俺達は俺達で楽しめればいいんだよ。ところで二人共いいかな。聡史が言っていたこれからの行動っていうのは部活の事か?明日からの事を話しておきたいんだろ?」
何時の間にか団子もチュロスも皿からは消えていた。
「ああそうだった・・・取り敢えず片付けて風呂にしない?まだ寝るには時間あるし、慎也も話に加われそうだから落ち着いて話そう。あとさ、明日は早く起きて朝陽拝もうぜ。それから女神様御一行をお迎えする準備だ。」
聡史が言うと、皆で立ち上がりテーブルの皿を片付け、風呂の準備を始める。