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08話 ドラゴンの住む山








イザベルは、アステフィリアと一緒にウンディーネを探す約束をした。

家出してきた子どもを保護したのに、親を探さず子どもの頼みをきくなんて、非常識だと分かっている。

それでも、アステフィリアの想いには胸を打たれたし、自分の望みを叶えるための可能性だって感じた。

クラレンスを巻きこみ、勢いで決めてしまったが、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。


「リアの、あたらしいパパとママ!」


一瞬、耳を疑った。

「ま、ママ?」

「僕はパパじゃない」

クラレンスがすかさず訂正するが、アステフィリアは聞いていなかった。

「ママは、リアのママなの!」

「あのね、アステフィリアちゃん……」

「ちゃん、いらないの」

「え?」

「ママは、リアを、なまえでよぶの!」

「そ、そうなの?」

「パパも、リアのこと、リアってよぶの」

ニコニコと笑顔のアステフィリアに、イザベルは何と答えるべきか悩んだ。

両親の元を飛びだして、一人で異国の地にやってきたアステフィリアが、親代わりを求めるのは分からなくもない。

だけど、イザベルはまだ十七歳で、結婚もしていないのだ。

子どもから『ママ』と呼ばれるのは、なんだか恥ずかしい。

「パパ、すわる~」

「なんだ?」

返答に迷っていると、アステフィリアはウサギのぬいぐるみを左腕に抱いて、右手をクラレンスの方へ伸ばした。

「すわる。だっこ」

「何を言ってるんだ?」

クラレンスがイザベルに尋ねる。

「たぶん、クラレンスと一緒に座りたいんだと思うわ」

「一緒に?」

クラレンスは、意味が分かっていないようだ。

そんなクラレンスにじれたのか、アステフィリアが怒ったように言う。

「パパ、だっこ!」

「うるさいな」

クラレンスが苛立ったように言うと、アステフィリアの顔がくしゃりとゆがむ。

「ちょっと、そんな言い方ないでしょ!」

イザベルが非難しても、クラレンスは謝らない。

「ほら、膝の上に乗せてあげて」

イザベルはアステフィリアを背中から抱き上げると、むりやりクラレンスの脚の上に座らせた。

「イザベル!」

「パパだって言ってるんだから、ちゃんと面倒見て」

「僕はパパじゃない」

「リアのパパなの!」

クラレンスの言葉を無視して、アステフィリアは満足げな顔をしている。

大きめの椅子なので、小さい子どもが増えたところで、狭いということもないはずだ。

「邪魔だ」

「体が小さいんだから、そんなことないでしょ」

「リア、ちっちゃい」

「落ちないように、ちゃんとみててね」

「はぁ……」

クラレンスは深いため息をついたが、諦めたようだ。

「で、どうやって精霊を探すんだ?」

「そうね……」

アステフィリアが精霊から聞いた話だと、ウンディーネはイザベルたちの住む東大陸にいるらしい。

ルークステラ王国内なら、探しに行ける。

だけど、国境の山を越えた先の他国になると、探すのは無理だ。

「せめて、どの辺りにいるとか、居場所を知っている人がいればねぇ」

イザベルも椅子に座って、クラレンスとアステフィリアを見ながら答える。

「ウンディーネの居場所について、精霊はなんて言ってるの?」

イザベルの問いかけに、アステフィリアは首をかしげる。

「せーれい、しらない。でも、どらごん、つれてくの、みたって」

「えっ?」

「ドラゴン?」

イザベルとクラレンスが顔を見合わせる。

ドラゴンがウンディーネを連れ去ったということだろうか。

「うんでぃーねのばしょ、どらごんしってる!」

アステフィリアは期待に目を輝かせている。

イザベルは小声でクラレンスにささやいた。

「それって、ドラゴンに攫われたってこと?」

「そう決めつけるのは早計だぞ」

アステフィリアの言葉だけでは、どういう事態なのかよく分からない。

だが、ドラゴンなんて危険な魔物が出てくるからには、あまりいい方向に考えるべきではないだろう。

「どらごん、ひをふく、おっきいの。パパしってる?」

「パパじゃないって言ってる。……炎竜なら、目撃されてる場所はいくつかあるが」

「んーと、ひのやまに、すんでる!」

「火の山って、火山のことかしら?」

「それならケトナ火山だろ。あそこは百年前から目撃されてるしな」

「でもドラゴンに会うなんて、無理じゃないかしら」

ドラゴンの住処は、燃えるような熱気を放つダンジョンの奥だと言われている。

そこまで足を踏み入れることができるのは、一流の冒険者くらいだ。

「マグマの近くに住んでるって聞くし」

「どらごん、あえない?」

アステフィリアが泣きそうな顔になる。

あわててイザベルは笑みを浮かべた。

「うん、ちょっと難しいかもしれないけど……」

ちらっとクラレンスを見る。

「何とかなる?」

「実際に行ってみないと、何とも言えないな」

「そうよね」

クラレンスの言うことはもっともだ。

「お前は、ドラゴンと話せるのか?」

「んー、んー?」

アステフィリアは首をひねっていたが、

「わかんない!」

と笑顔で答えた。

「精霊とは、話せるのよね?」

イザベルが確認すると、大きくうなずいた。

「せーれい、おしゃべりする!」

「精霊とドラゴンは言葉が違うだろう」

「でもドラゴンは古代語なら通じるって噂もあるし」

「イザベルは古代言語学はとってないだろ」

「クラレンスがしゃべれるでしょ?」

元から当てにするつもりで、クラレンスを見る。

クラレンスは何か言いたそうにしたが、黙ってうなずいた。

ドラゴンに会えるかどうかはさておき、ひとまず目的地が決まった。

「ケトナ火山に行くのはいいけど、ここからだと馬車で一カ月以上はかかるわ」

そんな遠い所へ出かけるのは、さすがにためらった。

「馬で行けば十日くらいだろ」

「アステフィリアちゃんを連れて、馬で走りっぱなしなんてむりよ」

「ママ、ちゃん、いらないの」

すかさずアステフィリアから指摘がはいる。

どうやら、こだわりの強い性格のようだ。

「そ、そうだったわね……アステフィリア」

イザベルが答えると、満足げに笑う。

アステフィリアは可愛らしく、見ているだけで癒された。

できれば『お姉ちゃん』と呼んでほしいところだが、頑固そうな性格を考えると難しいかもしれない。

「それで、いつ出発するんだ?」

「そうね。準備をしないといけないから」

ケトナ火山へ向かうなら、旅の支度が必要だ。

馬で行ったとしても、ケトナ火山までは往復で二十日かかる距離だ。

ダンジョンに入って、肝心のドラゴンのところへ行って帰るまでの時間もみておく必要がある。

そうなると、学校側には一か月ほど外泊の申請をしておいた方がいいだろう。

着替えも必要だし、お金もいる。

「あなたの服もいるわね」

イザベルはアステフィリアを見た。

魔の森を歩き回ったせいか、服はぼろぼろで、かなり汚れている。

もう日が傾いてきているので、本格的な準備は明日になりそうだ。

「明日か、明後日には出発できると思うわ」

答えてから、ちょっとドキドキした。

自分からウンディーネ探しを手伝うといったものの、イザベルは旅の経験がほとんどなかった。

領地に住む祖父母をたずねて王都から旅したことはあるが、家族が一緒だったし、もちろん使用人たちも大勢いた。

学校の課外実習でも、近くの町まで行って外泊したことはあるが、引率の教師がいたし、それなりに良い宿だったので危険はなかった。

それを考えると、まだ学生の身で、幼い子どもを連れて旅するというのは、なかなかの冒険だ。

けれど、クラレンスと一緒に見知らぬ土地へ旅に出る。

想像するだけで、ワクワクした。

宮廷魔導士も、国中をあちこちめぐって、仕事をするのだ。

卒業して魔導士になったら、イザベルも王国中を旅してみたいと思っていた。

それが思いがけず叶うのだから、胸が躍る。

「クラレンス。荷物が多くなりそうだから、マジックバッグ貸してくれる?」

「分かった」

イザベルは立ちあがると、さっそく寮に戻ることにした。

「ママ! どこいくの?」

「ああ。いちど寮に戻るわ。いろいろ準備をしなくちゃいけないから」

クラレンスの膝から降りたアステフィリアが、イザベルにかけよって、スカートのすそをつかんだ。

「リアもいく!」

「え? だめよ。他の人もいるから」

「いくー! リア、いく!」

スカートを引っぱるので、イザベルは何と言って説得しようか考える。

「先生たちに見つかったら、ウンディーネを探しにいけなくなるわよ?」

「やだ! うんでぃーね、さがす!」

アステフィリアがひとみを潤ませ、イザベルを見あげた。

イザベルはしゃがむと、アステフィリアの髪をなでながら言い聞かせる。

「ちゃんと戻ってくるから、しばらくお留守番してくれる?」

「おるすばん?」

「そう。アステフィリアがお留守番してくれたら、私も安心だわ」

「ほんと?」

「ええ。クラレンスもいるから。ね?」

クラレンスがいたところで、子守なんて期待できないが、そう言っておく。

アステフィリアは一人きりじゃないと分かり、安心したようだ。

「……リア、おるすばんするっ」

不安そうな顔をしているものの、つかんでいたイザベルのスカートを放す。

意外とすんなり聞いてくれて、イザベルはほっとした。

「クラレンス。アステフィリアが怪我したりしないように、ちゃんと見ててね?」

「……」

うなずくだけで返事はない。

イザベルは一抹の不安を感じたが、アステフィリアを連れていくわけにはいかず、後はクラレンスに任せるしかなかった。

「じゃあ、行ってくるわね」

「ママ……」

まだ不安そうなアステフィリアを、ぎゅっと抱きしめる。

「すぐに戻ってくるわ。待っててね?」

イザベルの言葉にようやく安心したのか、アステフィリアはうなずいた。








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