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05話 精霊王ウンディーネ








イザベルは驚いて、アステフィリアに駆けよった。

「どういうことなの?」

アステフィリアと視線が合うように、しゃがみこむ。

「お母様は重い病気なの?」

イザベルが尋ねると、アステフィリアは緑色のひとみをうるませてうなずいた。

「もうずっと、あえないの。……おへや、はいったら、だめってゆーの」

おそらく、お見舞いも許されない状態なのだろう。

ベッドから起き上がることもできないほどに、弱っているのかもしれない。

「とーさま、かーさまはなおるっていうけど……うそなの」

アステフィリアは体をふるわせて、泣くのをこらえていた。

「みんな、リアにうそつきなの。かーさまはだいじょうぶって!」

「アステフィリアちゃん……」

どんなに小さくても、大人のつく嘘は分かる。

重い病気ならなおさら、子どもは敏感に感じ取るものだ。

「でも、うんでぃーねいれば、たすかるのっ」

アステフィリアは、すがるようにクラレンスを見あげた。

「しんでんのいずみがもどったら、なおるって!」

「神殿の泉?」

「どういうことかしら?」

アステフィリアの言うことは、よく分からない。

「泉には、病を治す力があるの?」

イザベルが尋ねると、アステフィリアが大きくうなずいた。

「でも、ずっとまえに……かれちゃったの」

「ああ、そうなのね」

なんとなく、話が見えてきた。

泉が復活したら、というのは、再び水が湧き出るようになったらということだろう。

だから、水の精霊王ウンディーネを探そうとしている。

「泉が元に戻ったところで、治るとは限らないだろ」

「クラレンスっ!」

疑問は分かるが、ここで真偽を問うなんて残酷だ。

いさめるように名前を呼んだが、クラレンスは平然としている。

「治るなんて、誰が言ったんだ?」

「せーれいにきーたの!」

アステフィリアは、ゆるぎない目でクラレンスを見つめた。

「うんでぃーね、もどってきたら、いずみもどるって」

「精霊?」

クラレンスが、ぽつりとつぶやく。

アステフィリアは嬉しそうにうなずいて答えた。

「せーれい! いずみもどったら、かーさまも、なおるってゆった!」

小さな手は、しっかりとクラレンスのシャツを握っている。

そして、もう一度、同じ言葉をくりかえした。


「リアと、うんでぃーね、さがして?」


クラレンスは面倒くさそうな顔で尋ねる。

「それで、ウンディーネの場所は分かってるのか?」

「……わかんない。せーれいも、しらないって」

またアステフィリアが泣きそうな顔をする。

「じゃあなんでここに来たんだ?」

「りぜるとに、いないって。ひがしのたいりくにいるって」

「え! あなたリゼルト王国から来たの?」

イザベルはびっくりして声をあげた。

エルフが住んでいるのは、海を越えた先にある、西の大陸だ。

国交はあるものの、エルフが東の大陸にやってくることは少ない。

イザベルは物語や学校で習う歴史でしか、その存在を知らなかった。

「海があるのに、どうやって?」

「転移魔法でも使ったんだろう」

「転移って……王族や上位貴族しか使えない魔法じゃないの?」

かなり高度な魔法のはずだ。

それに転移魔法は、あらかじめ決められた魔法陣と魔法陣の間を移動するもので、緻密な魔術と膨大な魔力が必要だと習った。

「エルフならそれくらい使えるだろう」

「リア、できるよ! リトスが一緒だもん」

クラレンスの言葉に、アステフィリアも得意そうに答える。

人間よりも魔法の扱いに長けていると聞いていたが、こんな小さな子どもでも使えるなんて驚きだ。

「すごいのねぇ」

「そのウサギが魔道具みたいだな」

「え? この子?」

イザベルはアステフィリアが抱いているウサギのぬいぐるみを見た。

少し変わった模様が入っているが、ただのぬいぐるみだ。

「その模様は西大陸の古文書で見たことがある。一種の魔法陣だ」

「そうなの? こんな魔道具もあるのね」

「リトス、かーさまからもらった!」

アステフィリアが嬉しそうにリトスを見せてくる。

イザベルは微笑んでアステフィリアの頭をなでた。

「大事なものなのね」

「うん!」

イザベルは微笑ましい気持ちでアステフィリアを見る。

「だが、大陸を結ぶ転移魔法は、聞いたことがない」

クラレンスは怪訝な顔でアステフィリアを見た。

「魔道具があったとしても、使う時はかならず術者が出口を決める。ここに繋がる魔法陣があるのか?」

「……リア、しらない」

アステフィリアが、困ったように首をふる。

「なら、行先はどうやって決めた?」

「……せーれいに、おねがいしたの。いちばん、つよいひとのとこにって」

「よくそんな曖昧な呪文でこれたな」

クラレンスは呆れていたが、イザベルは何となく分かる。

「ねえ、その強い人って、宮廷の魔導師長さまのことよね?」

当代一の魔法使いと言われている方だ。

王都に住んでいるが、アステフィリアはその手前に出てしまったのだろう。

出口を決めるからこそ、安全に移動できるのに、なんて無茶をするのだろうか。

「それで、魔の森で倒れてたのね。出口を決めずに転移するなんて危ないわ」

「……」

「お父様は何もおっしゃらなかったの?」

イザベルの言葉に、アステフィリアがビクッと肩をふるわせた。

とっさに下を向いて、椅子に座っているクラレンスの腰にぎゅっとだきつく。

それをみて、イザベルは嫌な予感がした。

いや、うすうすは分かっていた。

魔の森に一人でいたアステフィリア。

目覚めてからも、親をさがして泣くようなこともなかった。

事情を聞けば、母親の病気を治すために、精霊王を探して転移魔法を使ってやってきたと言う。

だが、まだ幼い女の子を、一人で行動させる親などいるはずがない。

「ねえ、アステフィリアちゃん」

「……」

「あなたがここにいること、お父様は、ちゃんと知ってるのよね?」

「……」

優しく問いかけるが、アステフィリアは答えない。

クラレンスの腰に顔を押しつけたままだ。


「家出してきたんだろ」


クラレンスがあっさり指摘する。

アステフィリアは黙ったまま、顔をあげなかった。








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