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21話 サラファストに到着!

 









 クレバンからサラファストまで、象主に乗って移動すれば、最短で四日で到着する。

 しかし、イザベルたちは途中の平原で降りたり、街で寄り道したりしながら進んだので、サラファストに到着したのは、クレバンを出発してから六日後だった。

 サラファストの厩舎も、街の外れにあったが、ルラキは少し手前の平地に降りて、広場へ歩いて行った。

 イザベルたちがコーチから降りると、作業服を着た男たちがぞろぞろと姿を現す。

 男たちはルラキの側に近づき、大柄な年配の男性に指示を仰いだ。

「親方ー! 中に連れてってもいいっすかー?」

「バカ野郎! 先にメシだろうが!」

「親方、水浴びを先にしたほうがいいんじゃねーですか?」

「そんなに汗をかいてねぇ。なあ、メシがいいだろ?」

「ブォォ~ン」

「おら! さっさとホシツユ草を用意しろ!」

「はいさー!」

「グズグズしてる奴ぁ、メシ抜きだぞ!」

 親方の怒声に部下たちが慌てるのが見える。

「厩舎は、どこも同じような雰囲気ね」

 今まで寄ってきた厩舎も、屈強な親方を筆頭に、体格のいい男たちが働いていた。

 その様子を眺めながら、イザベルはアステフィリアの手をしっかりと握る。

 アステフィリアは好奇心が強くて、興味の惹かれるものがあると、すぐに飛び出していくからだ。

「ねーママ、パパは?」

「観察しに行ったんでしょ。放っておいて大丈夫よ」

 クラレンスはルラキから降りるなり、すぐに広場の端に移動して、雑草や畑の様子を観察していた。

 今まで通ってきた街とは違い、サラファストはケトナ火山の麓の街まで、馬車で一時間の距離にある。

 ルラキに乗ってサラファストに降りる手前からも、遠くにケトナ火山が見えていたが、地上に降り立つと山の高さがよく分かった。

 円錐状に横になだらかに広がり、美しい形をしているので、観光名所としても有名だ。

 山頂には雲がかかり、冬には雪が積もるが、かなりの頻度で噴火するという。

 他の地域と違い、土壌や生息する植物や動物、出没する魔獣や魔物も、特徴があるらしい。

 そうなると、クラレンスの興味が向くのは自然の流れだ。

「ママ、どらごん、いるの?」

「ここにはいないわ。あの山の中ね」

「リア、いくー!」

「まって、アステフィリア。まずは馬車に乗ってケトナの街まで行かないと」

「はやくいこ! ママ、はやく!」

「まずはお昼ご飯を食べてからね」

 急かすアステフィリアに、イザベルはニッコリ笑って止める。

 もう何度も同じことを聞いているので、イザベルもなだめるというよりは、しっかり言い聞かせるように言葉を変えた。

「お腹空いたでしょ?」

 イザベルがたずねると、ぐぅ、と小さい音がなる。

 アステフィリアはお腹に手をおいて、笑顔で答える。

「すいた!」

「じゃあ、ここが終わったら、ご飯を食べに行きましょう」

「はーい」

 アステフィリアが手を挙げて、元気よく返事をする。

 その姿を見て、やっぱり可愛いと思いながら、イザベルは頭をなでた。

「よう、待たせたな」

 親方と呼ばれた年配の男性が、イザベルに声をかける。

「あんたらが、クレバンの親方が言ってた、親子連れの客だな!」

「はい。……やっぱり、連絡がきてるんですね」

 どういう繋がりなのか、どの街でも、厩舎に降りると同じことを言われた。

 飛行動物フライングアニマルは国の許可がないと飼育ができないので、王国にある飛行動物の厩舎は連絡網があるのかもしれない。

「おう! ルラキでうちまで来るって言うから、楽しみにしてたぜ!」

「楽しみに、ですか?」

 イザベルが首をかしげると、サラファストの親方がニカッと笑う。

「ルラキは、体もでかいし、頭もいいし、美人だろう?」

 屈強な親方が誉め言葉を口にすると、失礼だが、少し変な感じがする。

 だが、その顔は楽しそうに輝いていた。

「オレも長いこと象主を見てるけどな。あんなに品の良い象主はなかなかいねぇ。国王の象主にだって負けねぇぜ」

「ルラキ、きれーだもん!」

 アステフィリアが嬉しそうに答える。

「お、嬢ちゃん分かってるな!」

「おじちゃん、ルラキすき?」

「おうよ。あんたらがここまで乗ってきてくれて嬉しいぜ」

 親方は上機嫌にしゃべりながら、ルラキを眺めている。

 愛情に満ちた眼差しをみれば、本当に象主を大切にしているのが分かった。

 どこの厩舎でも大事に扱ってくれていて、イザベルやアステフィリアも、安心して旅を続けられたのだ。

 厩舎の人達には感謝しかない。

「ところで、この後はどうするんだ?」

「この後?」

「あんたら、旅行じゃないのか? またクレバンまで戻るんなら、ルラキはうちの厩舎で預かっとくぜ」

「え! いいんですか?」

 思いがけない提案に、イザベルは目を輝かせた。

 できれば帰りもルラキに乗りたいと思っていたのだ。

「預かり料はもらうけどな。このまますぐにクレバンに戻すのはもったいねぇ」

「私たち、これからケトナに行くんです。数日……いえ、一週間くらいは滞在するかもしれないんですけど」

「数週間くらいどうってことねぇさ。その間は、きっちり面倒みるぜ」

「じゃあ、お願いします」

 イザベルは頭を下げて礼を言った。

 これでルラキのことは一安心だ。

「ママ、ルラキいっしょ?」

「ええ。ここからケトナまでは馬車で行くけど、その間はおじさんたちが預かってくれるわ」

「ルラキ、おじさんといっしょ?」

「ええ。ルラキにごはんを食べさせてくれるの」

 イザベルが説明すると、親方が胸を叩く。

「任しときな、嬢ちゃん!」

「ルラキ、また会える?」

「もちろんよ。用事を済ませたらここに寄って、ルラキに乗って帰るのよ」

 イザベルの言葉に、アステフィリアがぱあっと目を輝かせる。

「やったー! ルラキ、いっしょ!」

「ふふ。仲良しだものね」

「えへへ~!」

 ニコニコと嬉しそうに笑うアステフィリアを見ると、イザベルも笑顔になる。

「かわいい嬢ちゃんだな!」

「はい」

「あっちの受付で手続きしてくれや」

「ありがとうございます」

 イザベルは礼を言って、アステフィリアと共に受付の建物へ向かった。







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