表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/37

14話 何の騒ぎだ!

 








「止めてッ!」

 イザベルはとっさにアステフィリアを庇おうとした。

 だが、それより早く、クラレンスが呪文を唱える。

(シールド)

 キィンっと音が鳴りひびいて、伯爵のステッキが弾き飛ばされる。

「なっ!?」

 驚く伯爵に構わず、クラレンスは続ける。

緑の拘束(バインドプランツ)

「うわぁっ! なんだこれは!?」

 地面から、植物のつるが飛び出すように生えたかと思うと、瞬く間に伯爵の体に巻きついた。

 身動きができなくなった伯爵は、憤怒に顔を赤くして大声で怒鳴る。

「貴様ッ! 離さんか!」

消音(サイレント)

 三つ目の魔法で、伯爵の声が遮断される。

 怒り狂って怒鳴っている様子は分かるが、声が聞こえないので、口をパクパク動かしているように見える。

「旦那様っ!」

 伯爵の後ろに控えていた従者三人が、なんとか伯爵からつるを外そうと奮闘しているが、そんな簡単に外れるわけがない。

「お、お前っ! 旦那様を離さないか!」

「くそっ、なんで消えないんだッ!」

「こんなことをして、ただではすまないぞ!」

 クラレンスに向かって偉そうに言うものの、威勢が弱い。

 従者の一人が杖を片手に呪文を唱えているが、魔法を解除できないようだ。

 伯爵の顔はどす黒く怒りに歪み、クラレンスや従者に向かって叫びながら暴れている。

 しかし、声が聞こえないので、はたから見るとかなり滑稽だった。

 近くにいた街の子どもたちが、その様子を見てが笑い始める。

「やーい、デブ貴族!」

「みろよ、あの口。金魚みてぇ」

「偉そうにしてたけど、ただのブタじゃん」

「ツルに絡まれたくらいで動けなくなるとか、なさけねーヤツ」

 子どもたちのヤジが聞こえたのか、伯爵はカンカンになって暴れている。

「だ、旦那様。あまり動かれては……」

「無理です! 魔法を解除できませんっ」

 ローブを着た従者が、泣きそうな顔で伯爵に答える。

 それからクラレンスを忌々しそうに睨みつけた。

「貴様! どこの家の者だ!」

 家名を問うてくるが、クラレンスは当然のように無視だ。

 象主に乗るはずだった他の乗客たちは、伯爵とイザベルたちを遠巻きにして、何事かささやいている。

「もう……」

 出発前から騒ぎになってしまい、頭が痛かった。

 魔法学校の生徒だと気づかれたら厄介だ。

 だが、どう収拾すればいいのか分からない。

 クラレンスに声を掛けようとしたところで、


「何の騒ぎだッ!!」


 凄みの利いたおそろしい声が、一帯に響きわたる。

 思わず震えるほどの大声だ。

 厩舎の方から、屈強な大男が現れた。

 作業服を着ているが、熊のような図体と口元を覆う髭、強面な風貌は、ならず者の親玉のようだった。

「お、親方っ!」

 係員が青ざめた顔で震えている。

「新入り、何があった?」

「いえ、あの、それが……っ」

 動揺して話せない係員の後ろから、伯爵の従者が口々に文句を言う。

「あの無礼者が、旦那様に攻撃したのだ!」

「警備隊を呼んでくれ!」

「伯爵様に向かって魔法を使ったんだぞ!」

 先に手を出したのは伯爵の方なのに、身勝手な言い分を並べ立てる。


 よくも勝手なことを言うわね!


 イザベルは腹が立って、従者を睨みつけた。

 クラレンスは何を言われても気にしないが、好き放題言わせておくと、こっちが悪者になってしまう。

「最初にこの子を叩こうとしたのは、そっちでしょ!?」

 イザベルの言葉に、周りで見ていた子どもたちも口々に言う。

「そーだよ、おっちゃん!」

「あのデブ、女の子をステッキで殴ろうとした!」

「クソ貴族だ!」

 子どもたちの言葉に、親方の顔が歪む。

 しかし、伯爵の従者たちは憎々しげに子どもたちに怒鳴りつける。

「黙れ! 薄汚いガキども!」

「伯爵様にはむかうのか!」

 伯爵が最低なら、その従者も最低だった。

 従者たちは、つぎにイザベルを指さして、大声で怒鳴る。

「伯爵様に生意気なことを言うからだ!」

「ろくに躾もできないお前らの代わりに、旦那様が躾けて下さろうとしたのだ!」

「その慈悲も分からぬ愚か者が!」

 あまりにも無茶苦茶な言い分に、イザベルはあっけにとられた。

 子どもをステッキで叩くことを、躾と言い張る。


 どれだけ恥知らずなの!


 イザベルは怒りで一気に頭に血が上った。

「あなたたち……!」

 イザベルが言い返そうとすると、親方がサッと片手で制した。

 そして、係員にむかって尋ねる。

「新入り、どうなんだ?」

「えっ、いえ、そこの女の子が、あちらの象主に乗ると言い出して……」

「ああん?」

 熊のごとき親方が、アステフィリアの方を見た。

 ふつうの子どもなら、恐怖で泣き叫んでもおかしくない顔だ。

 その辺のごろつきより凶悪な顔に、イザベルも怖気づく。

「っ……リア、やくそくしたもん!」

 アステフィリアは果敢にも、親方に言いかえした。

 泣きそうに顔を歪めているが、クラレンスの首に抱きつきながら、訴える。

「ルラキ、リアをのせてくれるって、ゆった!」

「ほう?」

「おじちゃん、いけないの! ぞーさんたち、おこらせたの!」

「象主を? 何で怒らせたって?」

「ルラキがえらぶの! おじちゃん、わがままなの!」

「はん、なるほどな」

 親方が面白そうな顔で相槌を打つ。

 イザベルは口をはさむタイミングが分からず、ハラハラしながら見守った。





お読みいただき、ありがとうございます!


少しでも面白い!と感じていただけましたら、

評価・ブックマーク・レビューを、よろしくお願いいたします(*^^*)


お話を書くモチベーションが爆上がりしますヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪


評価は、このページの下側にある【★★★★★】から、えらべます!!

ブックマークは、下側の【ブックマークに追加】より、追加することができます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ