14話 何の騒ぎだ!
「止めてッ!」
イザベルはとっさにアステフィリアを庇おうとした。
だが、それより早く、クラレンスが呪文を唱える。
「盾」
キィンっと音が鳴りひびいて、伯爵のステッキが弾き飛ばされる。
「なっ!?」
驚く伯爵に構わず、クラレンスは続ける。
「緑の拘束」
「うわぁっ! なんだこれは!?」
地面から、植物のつるが飛び出すように生えたかと思うと、瞬く間に伯爵の体に巻きついた。
身動きができなくなった伯爵は、憤怒に顔を赤くして大声で怒鳴る。
「貴様ッ! 離さんか!」
「消音」
三つ目の魔法で、伯爵の声が遮断される。
怒り狂って怒鳴っている様子は分かるが、声が聞こえないので、口をパクパク動かしているように見える。
「旦那様っ!」
伯爵の後ろに控えていた従者三人が、なんとか伯爵からつるを外そうと奮闘しているが、そんな簡単に外れるわけがない。
「お、お前っ! 旦那様を離さないか!」
「くそっ、なんで消えないんだッ!」
「こんなことをして、ただではすまないぞ!」
クラレンスに向かって偉そうに言うものの、威勢が弱い。
従者の一人が杖を片手に呪文を唱えているが、魔法を解除できないようだ。
伯爵の顔はどす黒く怒りに歪み、クラレンスや従者に向かって叫びながら暴れている。
しかし、声が聞こえないので、はたから見るとかなり滑稽だった。
近くにいた街の子どもたちが、その様子を見てが笑い始める。
「やーい、デブ貴族!」
「みろよ、あの口。金魚みてぇ」
「偉そうにしてたけど、ただのブタじゃん」
「ツルに絡まれたくらいで動けなくなるとか、なさけねーヤツ」
子どもたちのヤジが聞こえたのか、伯爵はカンカンになって暴れている。
「だ、旦那様。あまり動かれては……」
「無理です! 魔法を解除できませんっ」
ローブを着た従者が、泣きそうな顔で伯爵に答える。
それからクラレンスを忌々しそうに睨みつけた。
「貴様! どこの家の者だ!」
家名を問うてくるが、クラレンスは当然のように無視だ。
象主に乗るはずだった他の乗客たちは、伯爵とイザベルたちを遠巻きにして、何事かささやいている。
「もう……」
出発前から騒ぎになってしまい、頭が痛かった。
魔法学校の生徒だと気づかれたら厄介だ。
だが、どう収拾すればいいのか分からない。
クラレンスに声を掛けようとしたところで、
「何の騒ぎだッ!!」
凄みの利いたおそろしい声が、一帯に響きわたる。
思わず震えるほどの大声だ。
厩舎の方から、屈強な大男が現れた。
作業服を着ているが、熊のような図体と口元を覆う髭、強面な風貌は、ならず者の親玉のようだった。
「お、親方っ!」
係員が青ざめた顔で震えている。
「新入り、何があった?」
「いえ、あの、それが……っ」
動揺して話せない係員の後ろから、伯爵の従者が口々に文句を言う。
「あの無礼者が、旦那様に攻撃したのだ!」
「警備隊を呼んでくれ!」
「伯爵様に向かって魔法を使ったんだぞ!」
先に手を出したのは伯爵の方なのに、身勝手な言い分を並べ立てる。
よくも勝手なことを言うわね!
イザベルは腹が立って、従者を睨みつけた。
クラレンスは何を言われても気にしないが、好き放題言わせておくと、こっちが悪者になってしまう。
「最初にこの子を叩こうとしたのは、そっちでしょ!?」
イザベルの言葉に、周りで見ていた子どもたちも口々に言う。
「そーだよ、おっちゃん!」
「あのデブ、女の子をステッキで殴ろうとした!」
「クソ貴族だ!」
子どもたちの言葉に、親方の顔が歪む。
しかし、伯爵の従者たちは憎々しげに子どもたちに怒鳴りつける。
「黙れ! 薄汚いガキども!」
「伯爵様にはむかうのか!」
伯爵が最低なら、その従者も最低だった。
従者たちは、つぎにイザベルを指さして、大声で怒鳴る。
「伯爵様に生意気なことを言うからだ!」
「ろくに躾もできないお前らの代わりに、旦那様が躾けて下さろうとしたのだ!」
「その慈悲も分からぬ愚か者が!」
あまりにも無茶苦茶な言い分に、イザベルはあっけにとられた。
子どもをステッキで叩くことを、躾と言い張る。
どれだけ恥知らずなの!
イザベルは怒りで一気に頭に血が上った。
「あなたたち……!」
イザベルが言い返そうとすると、親方がサッと片手で制した。
そして、係員にむかって尋ねる。
「新入り、どうなんだ?」
「えっ、いえ、そこの女の子が、あちらの象主に乗ると言い出して……」
「ああん?」
熊のごとき親方が、アステフィリアの方を見た。
ふつうの子どもなら、恐怖で泣き叫んでもおかしくない顔だ。
その辺のごろつきより凶悪な顔に、イザベルも怖気づく。
「っ……リア、やくそくしたもん!」
アステフィリアは果敢にも、親方に言いかえした。
泣きそうに顔を歪めているが、クラレンスの首に抱きつきながら、訴える。
「ルラキ、リアをのせてくれるって、ゆった!」
「ほう?」
「おじちゃん、いけないの! ぞーさんたち、おこらせたの!」
「象主を? 何で怒らせたって?」
「ルラキがえらぶの! おじちゃん、わがままなの!」
「はん、なるほどな」
親方が面白そうな顔で相槌を打つ。
イザベルは口をはさむタイミングが分からず、ハラハラしながら見守った。
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