12話 象主、登場!
受付のある小さい建物まで来ると、ようやく一息つく。
「はぁ、はぁ」
子どもを抱えて走るなんて初めてで、息が切れてしまった。
もっと体力つけないとだめね。
これくらいで息を切らしていたら、いざという時にアステフィリアを守れない。
「本当に、危なかったわ」
下手をすれば、怪我をするだけでなく、象主に危害を加えようとしたなどと非難される可能性もあったのだ。
子どもの面倒を見るのは初めてだが、注意するべき点はたくさんある。
保護者としての自覚が足りなかったことを反省しながら、アステフィリアを地面に下ろした。
「ママ、だいじょーぶ?」
「大丈夫よ」
「リアのせい?」
「え?」
「ごめんなさい、ママ」
アステフィリアがしおらしく謝ってくる。
少し泣きそうな顔をしているのは、怒られると思っているからだろうか。
イザベルはしゃがむと、アステフィリアを優しく抱きしめた。
「心配したのよ。あなたに何かあったらどうしようって」
「ママ……」
「もう、勝手に離れたりしないでね?」
「うんっ」
反省しているようなので、叱るのはやめておいた。
イザベルにも反省すべき点はあるのだから、今回はお互い様だ。
息を整えていると、辺りがざわざわと騒がしくなってきた。
飛行動物への乗降は広場で行う。
騎乗する人が、係員に案内されているのが見えた。
ペガサスには騎士が、スカイバードには冒険者が次々に騎乗していく。
「すごいわねぇ」
イザベルは初めて見る飛行動物の姿に見惚れた。
馬と違って、空を駆ける魔動物はどれも体が大きい。
魔法を使うので、騎乗する人間も、多少は魔法を使えなくてはいけない。
空の魔物に襲われた時に戦わなくてはいけないし、落ちた時に自分の身を守るためにも、魔法が必要なのだ。
また、騎乗する人間が気に入らないと、空から落とされるという噂もある。
イザベルはそれを聞いた時、魔法が使えないと安心して乗れないなんて、かなり危険な乗り物だと思った。
それでも、見た目が格好いいのと、ペガサスなんかは気品があるので、騎乗して自由に空を飛びたいと憧れる人は多い。
イザベルも、乗ってみたいとは思うが、乗馬もあまり得意ではないので憧れるだけだ。
「あ、パパだ!」
アステフィリアが指さした先に、クラレンスがいた。
魔導士見習いのローブに、鞄を背負ってこちらに歩いてくる。
身長が高いので、すぐに分かるのだ。
「パパ~」
手を振るアステフィリアを見て、小さくうなずく。
イザベルを見ると、
「出発は?」
と聞いてきた。
「私たちはまだみたい。たぶんあの人たちが全員行ってからだと思うわ」
広場にはまだスカイバードが残っている。
象主はとにかく大きいので、一番最後になるはずだ。
集まっていた人たちも、騎乗する人と、見送りの人たちが別れを告げる。
見物人は街の住人だけでなく観光客もいて、それぞれ広場の飛行動物を見て歓声をあげている。
その中でも、子どもたちは、
「まだ?」
「次だろ?」
とワクワクした顔で厩舎の方を見ていた。
まだ厩舎の中にいる魔動物が、お目当てのようだ。
クラレンスは再びその場を離れようとしたが、イザベルは引き止める。
「どこに行くのよ」
「まだ時間があるだろ」
「順番がくるかもしれないんだから、ここにいて」
「すぐに戻る」
「もう十分に採集してきたでしょ?」
「いや、まだ……」
そのまま行こうとするクラレンスに、イザベルはアステフィリアに笑顔で話しかけた。
「アステフィリア。クラレンスが抱っこしてくれるって」
「わ~い! パパ、だっこ~!」
「っ、イザベル!」
「パパ~」
アステフィリアはニコニコと両手をクラレンスに伸ばす。
それを見たクラレンスはたじろいだ。
「よかったわね、アステフィリア」
「イザベル……」
クラレンスが恨めし気な顔で見てきたが、無視する。
「パパぁ」
焦れたアステフィリアがクラレンスの裾をぐいぐい引っ張るので、諦めたようだ。
無言のまま、アステフィリアを抱き上げる。
「パパ、すき~」
ニコニコと笑顔のアステフィリアがクラレンスにぎゅっと抱きつく。
クラレンスはにこりともせず、辺りを見渡しているが、本気で嫌なら抱っこしないはずだ。
内心では、どう扱っていいか困っているのだろう。
何でもそつなくこなすクラレンスが、アステフィリアの前でだけは、戸惑いや困惑を見せる。
その姿が新鮮で、新しくクラレンスの表情を見るたびに、嬉しい気持ちになった。
しばらくクラレンスとアステフィリアの様子を眺めていると、ドスンという鈍い音が響いた。
ドスン、ドスン。
音が大きくなるにつれ、地面が揺れ、近くの子どもたちが歓声をあげた。
「きたぞ!」
「象主だ!」
「かっこいー!」
「あんなに大きいのか」
「すばらしい!」
子どもたちのはしゃぎ声の中に、大人の声も混じる。
身長が四メートル、体長が六メートルほどの巨大な象が広場にやってきた。
ただでさえ体が大きいのに、背中には箱のようなものを乗せている。
よく見ると、馬車で言うコーチの部分で、その中に乗りこめるようになっている。
象の背中に、コーチが乗っかっているような状態だ。
「え、あれに乗るの……?」
落ちたらどうするんだろう。
しかも、象主は空を飛ぶのだ。
万が一の不具合があれば、空中に放り出される羽目になる。
そこまで想像して、身震いした。
だ、大丈夫よね……昔は王族だって乗ってたんだし!
王侯貴族専用の乗り物だったのだ。
ちゃんとしてるに決まってる。
自分を納得させているうちに、イザベルたちの近くまで五頭が連れ立ってやってきた。
どの象主も青色だが、個体によって濃さが違う。
「ルラキだ!」
アステフィリアが指さした先には、さっき見た象主がいる。
どれも似ているが、海のような深い青色はルラキに間違いなかった。
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