04話 移動は空を飛んで
アステフィリアは上機嫌で、皿を空っぽにした。
それどころか、パンも二つ食べて、ミルクもおかわりしたので、よほどお腹が空いていたのだろう。
イザベルもクラレンスも、残さず食べ終えて、ソーレイ茶で一息ついた。
「けっこう食べたわね」
「おいしかったー!」
アステフィリアは満足そうだ。
イザベルも、アステフィリアのおかげで恥ずかしい思いをしたが、どれも美味しかった。
先ほどのことは忘れようと努めて、これからの予定を話し合う。
「この後の予定だけど」
イザベルは腰に提げた鞄から地図をだしてテーブルに広げた。
「馬車じゃなくて、飛行動物で移動するつもりなの」
「ふらーんぐあにる~?」
「フライングアニマルよ」
アステフィリアは不思議そうな顔だ。
イザベルは簡単に説明した。
魔力を持つ動物のことを、魔動物と言う。
そして、魔法を使って空を飛ぶ魔動物や魔物のことを、総じてフライングアニマルと呼ぶ。
その中には、人を乗せて飛ぶことができる種類もいる。
大型の魔鳥はもちろん、ワイバーンやヒポグリフのような魔物もいて、空を飛んで移動する手段の一つになっていた。
「馬では行かないのか?」
「アステフィリアを乗せて、何時間も走るのは無理よ」
「リア、のれるよ?」
「一人ではまだ無理でしょ?」
「じゃあ、パパとのる!」
「嫌だ」
速攻で断るクラレンスに、アステフィリアがムッと唇をとがらせる。
「パパとのるもん!」
「絶対に、嫌だ」
クラレンスはおぞましいものでも見るような顔で拒否した。
そんなに強く言わなくてもいいのに。
そう思うが、クラレンスの反応は想定内だ。
「だから、馬じゃなくて、象主に乗ろうと思ってるの」
「有翼の象か」
『象主』は一般的な呼び名で、正式には『有翼の象』と呼ばれる魔動物だ。
その名の通り、ふつうの象に大きな翼が生えたような姿で、人を乗せて飛ぶことができる。
「あれは、貴族専用じゃないのか?」
「前はそうだったんだけど、今はお金を出せば乗せてくれるらしいわ」
象主は、地上の象と同じように、背中に輿を乗せることもできる。
御者がいれば、自分で操る必要もない。
見た目の大きさと知性のあるひとみ、気品すら感じられる佇まいは、威光を示すのにうってつけだったのだろう。
ひと昔前までは、王族や上位貴族しか使えない移動手段だった。
もともと数が少なかったのだが、近年になって繁殖に成功したらしく、今では少しずつ増えているらしい。
「魔法で速度や揺れも安定してるっていうし、馬より速く到着できると思うわ」
地上を走るより、空を飛んだ方が早く着くのは道理である。
「決まったルートしか飛ばないんだけど、クレバンからケトナ火山まで、象主で行った方が早いの」
地図を示しながら、クラレンスに説明する。
「それでいいんじゃないか」
「うん。でも次のグラスネスの街までがけっこう遠くて。今から出たら、日が沈んでから宿を探すことになりそうなのよね」
街の中とはいえ、日が暮れてから子連れで歩くのは危険だ。
夜になれば酒場がにぎわって、ごろつきや酒癖の悪い冒険者などが暴れることも日常茶飯事である。
もちろん街の警備隊が見回りをしているが、女性や子どもは日が暮れてから外を歩くことはめったにない。
「明日の出発でいいだろ」
「そうよね」
「ママ、いかないの?」
アステフィリアがイザベルを見あげる。
「今から出ると夜になっちゃうから、今日はここで泊まるのよ」
「えー! どらごんのいえ、いくー!」
アステフィリアがイザベルの袖を引っぱった。
急ぐ気持ちは分かるが、イザベルとしてはアステフィリアの安全が第一だ。
頬をふくらませて「いまからいくー!」と言うアステフィリアに、頭をなでてあやす。
「明日の朝いちばんに出発するから。ね?」
「でも、どらごんのいえ、いきたいー!」
「ドラゴンは逃げないわよ。大丈夫」
そもそも、本当にドラゴンに会えるのかも分からないが、イザベルはそう言ってなぐさめる。
「明日はね、象主に乗るのよ。空を飛ぶの」
「そら、とぶ~?」
「そうよ。それに乗ると、はやくドラゴンに会えるんだけど、今日はもう乗れないの」
「む~」
「だから、明日まで待とうね」
頭をなでながら説得すると、アステフィリアも分かったのか、ぶすっとしたままうなずく。
駄々をこねられると思ったので、意外とすぐに納得してくれて安堵した。
今日はクレバンに泊まるので、今から宿探しだ。
どの街にも観光案内所があるのでそこで聞くのもいいが、イザベルは店の店員にたずねてみることにした。
この食堂は子供連れでも安心して食事ができたので、同じような宿も知っているはずだ。
イザベルの予想通り、店員はいくつか宿を紹介してくれた。
それから、先ほどの会話が聞こえていたのか、象主についても情報をくれた。
「象主を利用されるのでしたら、予約された方が良いですよ」
「え、そうなんですか?」
「ええ。馬と違って数が少ないので、予約で埋まっていると、すぐには利用できないんです」
「明日の分の予約は、今からでも間に合いますか?」
「どうでしょう。乗れない可能性もありますから、早めに行ってみてください」
そう言って、飛行動物の乗合所も教えてくれる。
礼を言って支払いを済ませると、食堂を後にした。
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