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02話 告白してしまいましょう!













イザベルは自室に戻ると、制服姿のままでトランクに荷物をつめた。

「お嬢様? もうあちらの寮へお帰りになるのですか?」

様子を見にきた侍女のレナが、驚いた顔で駆けよってきた。

「わたくしが荷造り致しますから」

寮から帰省したばかりなのに、すぐに出ていこうとするイザベルを、理由も聞かずに手伝ってくれる。

子どもの頃から一番身近で仕えてくれるレナは、イザベルにとって姉のような存在だ。

「奥様にも、お会いにならないのですか?」

「ええ。きっとお母様は、お父様の味方をするもの」

「旦那様と何かあったのですか?」

優しく問いかけられ、イザベルは暗い気持ちのまま答える。

「お父様に……卒業したら結婚するように言われたの」

「まあ!」

レナは驚き、そして怒りをあらわにする。

「お嬢様の意思を無視してそんなことを! いくら旦那様でも許せませんわっ」

「レナ……」

雇い主は父なのに、イザベルのために怒ってくれるレナに、涙がこみあげてくる。

「お嬢様」

レナは力強い声で、イザベルに助言した。

「わたくしは何もお手伝いできませんが……どうぞ、クラレンス様にご相談なさいませ」

「えっ?」

「クラレンス様は、かならずお嬢様の力になってくださいます」

「く、クラレンスに言うの!?」

思わず声が裏返る。

クラレンスは幼なじみで、同じプルス魔法学校の学生だ。

魔法の才能が飛びぬけた天才だが、一つのことにしか興味を示さない変人である。

今でも仲はよく、イザベルが頼めば何でも相談に乗ってくれる。

だけど、そのクラレンスこそが、イザベルの想い人だ。

片想いの相手に、政略結婚の相談をしていいものか悩む。

しかしレナは、声をひそめながらも目を輝かせて、イザベルに力強く言った。

「はい! 良い機会ですから、告白してしまいましょう!」

「レナ!?」

「クラレンス様はかなり鈍い方ですから、待っていては恋仲になれませんよ!」

「ちょ、ちょっと待って! こ、ここ告白っ!?」

「お二人が結ばれたら、政略結婚など、どうとでもなります!」

「どうとでもって……お父様相手に、そんな簡単にはいかないわ」

「大丈夫です! クラレンス様は天才ですから!」

ずいっと身を乗り出してくるレナに、あたふたする。

「そ、そのまえに、クラレンスが私のことをどう思ってるかなんて、分からないし」

「そんなの一目瞭然じゃないですか!」

「えっ?」

そう言われても、イザベルにはよく分からない。

首をかしげていると、レナはがしっと肩を掴んできた。

「とにかく、お嬢様。卒業までに、クラレンス様に告白してきてくださいね!」

「えぇっ!?」

「お嬢様に相応しいのは、クラレンス様だと信じておりますから」

にっこりと笑うレナの威圧におされて、イザベルは首を縦に振った。

「が、がんばってみるわ……」





+ + +





そして、いま、クラレンスの家の前に立っている。

実家から、トランクを片手に直接やってきたところだ。

魔法学校の裏に広がる魔の森に、クラレンスは魔法で勝手に家を造った。

二階建ての石造りの家と、すぐ隣に小さな小屋がある。

貴族の館よりは小さいが、家の壁には蔦がみっしりと這い、小屋の煙突からはたえず煙が上がる。

おとぎ話に出てくる人食い魔女の家のようだ。

「もう少し、ましな見た目にできなかったのかしら」

とても人の住む家には見えない。

そもそも、一学生が勝手に家を造るなんて許されるはずないのだが、学校側から黙認されているのは、クラレンスの才能ゆえだろう。

まあ、特例っていうより、被害が拡大しないようにってところね。

イザベルは学校側の対応について、ひいきではなく隔離に近いと思っている。

クラレンスは魔力が強いうえに、教師の言うこともろくに聞かないので、腫れ物扱いされてるのだ。

イザベルは、入口の扉をノックしてから中に入った。

大きなテーブルには透明の小瓶やドライハーブ、羽根ペンとインク壺、書きかけの紙が散乱している。

「クラレンス、いるの?」

奥に向かって声をかけるが返事はない。

「いないみたいね」

イザベルはテーブルの空いた場所にトランクをおいて、息をついた。

屋敷を出る前に、レナに言われたことを思い出すと、落ちつかない気分になる。


クラレンスに告白するって言っても……。


いつ、どこで?

どうやって?

考え出すと、どんどん顔が熱くなってくる。

告白するということは、クラレンスに『好き』と伝えることだ。


子どもの頃からの付き合いなのに、いまさらどんな顔して言うの!?


クラレンスは、天才だけど、かなり変わっている。

一度見聞きしたことは忘れないので学科の成績も良いし、実技もつねにA評価だ。

だけど、協調性がなく、マイペース。

危険な魔物や魔獣が生息する魔の森に好んで住み、授業もあまり出てこない。

生徒だけでなく教師からも敬遠される問題児なのに、どうして彼が好きなのか。

あらためて考えると、自分でも不思議だ。

「で、でも。顔は、かっこいいし」

身なりにまったく気を遣わないが、すらりとした長身で、よくみれば美形である。

銀髪に翠色のひとみは、この国ではめずらしいけど、とてもきれいだ。

いつも冷めたような表情をしているが、植物が関わると生き生きして、楽しそうに語る姿はかわいい。

新しい魔法薬を作るのもすごいし、試験の前にはイザベルの特訓にも付き合ってくれる。

「元が変わってるから、よく見えるのかしら……」

「変わってるって、なにが?」

「ひゃっ!?」

急に声がして飛び上がる。

振り向くと、クラレンスが立っていた。

「く、クラレンスッ!」

いつ入ってきたのか、まったく気づかなかった。

クラレンスの髪はぼさぼさで、着ている白いシャツはすっかり汚れている。

麻のズボンには土がこびりついていた。

庭師みたいな恰好をしているのに、立っているだけで目を惹きつけられる。

翆色のひとみが、不思議そうにイザベルを見下ろした。

「何の話?」







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