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02話 お昼ごはん

 








 馬車が向かった先は、プルス領から馬車で約二時間の、クレバンという街だ。

 王都に比べれば小さい街だが、近くにダンジョンがあるので、冒険者の姿があちこちで見られる。

 イザベルたちは馬車を降りると、まずは昼食を取ることにした。

 馬車乗り場で案内をしていた男性に、子供連れで入れる店を紹介してもらう。

 魔導士見習いのローブを着た若い男と、その家族という構図はやはり珍しいようで、いろいろ詮索されたが、適当にごまかしておいた。

 クラレンスがローブの上から鞄を背負い、イザベルはアステフィリアの手を引いて歩く。

 貴族街に近い場所に、教えてもらった食堂があった。

 中に入ってみると、昼時を過ぎているからか、中には二組ほどいるだけで空いていた。

 店の造りはよくある食堂と同じだが、テーブルクロスや内装は落ちついた色合いで統一されている。

 壁際に飾られている花も可愛らしかった。

 席に案内してくれた女性の店員も、イザベルが頼む前に、子供用の椅子を持ってきてくれた。

 置いてある献立表を見ると、品数は多くないが、どれも美味しそうだ。

「ご注文はお決まりでしょうか」

 注文を取りにきた店員に、イザベルは適当に選んで答えた。

「白蜂キノコのソテーと、オオショウ鶏のグリル、赤野菜のスープと、パンをください」

「はい。お子様用の献立もございますが、いかがでしょうか」

「え? そんなのあるんですか?」

 献立表を見るが、それらしい品書きは載っていない。

 店員が笑顔で答える。

「お子様連れの方にのみ、ご案内と提供をさせていただいております」

「そうなのね」

 子供用の献立があるのは助かる。

 数種類のおかずを一つの皿にまとめた献立らしい。

「じゃあ、子供用のを一つ追加でお願いします」

「はい。お飲み物はいかがされますか?」

「じゃあ、ソーレイ茶と、この子にはミルクを」

「かしこまりました」

 店員は愛想よくうなずき、献立表を下げて厨房へ戻っていく。

 飲み物はただの水でもよかったが、ソーレイ茶は滋養にいいとされる一般的なお茶だ。

 力仕事の人や旅人が、よく好んで飲むという。

「雰囲気のいいお店ね」

「ママ~おなかすいた!」

「ちょっと待っててね。もうすぐだから」

「ごはん~!」

 アステフィリアはリトスの耳をかじりながら、うらめしげにイザベルを見ている。

 クレバンに着く少し前から、馬車の中で、

「おなかすいたの!」

 と訴えていたが、イザベルはおやつを与えずに我慢させていた。

 大暴れしたら、さすがにおやつを出したが、食事前におやつを食べさせるのはあまりよろしくない。

 イザベルも子どものころは、どんなにレナに頼んでも、食事の直前におやつはもらえなかったからだ。

「アステフィリア。リトスの耳をかんだらだめでしょ」

「う~!」

 ぬいぐるみの耳にかじりつくことで、空腹を我慢してるようだ。

 そこへ、店員がソーレイ茶とミルク、それに丸いパンが五つ入った籠を運んでくる。

「お待たせいたしました」

「ありがとうございます」

 アステフィリアの様子を見て、先にパンを出してくれたようだった。

「じゃあ、食べましょう」

「わーい!」

 目の前にパンがきたので、アステフィリアはやっとリトスの耳から口を離した。

 そのままパンを取るかと思いきや、アステフィリアは小さな手を合わせる。

「いたーきます!」

「ふふ。頂きます」

 イザベルも同じようにして、パンをアステフィリアに手渡した。

「あーん!」

 思いきりかぶりついて、もぐもぐと食べ始める。

 小さな口にいっぱいにほおばり、幸せそうな顔だ。

「おいしー!」

「思ってたより、柔らかくて美味しいわ」

 イザベルはパンを少しずつちぎって食べる。

 テーブルの向かい側に座っているクラレンスは無言だ。

 馬車を降りてからほとんど口を開いていないが、無口なのはいつものことなので気にしない。

 献立表を見せた時も何も言わなかったので、これもまたいつも通りに、イザベルが決めたのだ。

「お待たせしました」

 パンを食べ終える頃に、残りの注文の品が運ばれてきた。

「わあぁ!」

「おいしそうね」

 どれも出来立てで、食欲をそそる匂いだ。

 白蜂キノコのソテーは、甘みのあるキノコを厚く切って、ピリッとしたソースが絡んで、甘辛い仕上がりになっている。

 オオショウ鶏は少し硬かったが、歯ごたえがあって、塩加減も絶妙だ。

 赤野菜のスープは、野菜を小さく刻んであり、見た目はあっさりしてそうなのに、濃厚な味わいだった。

「どれもおいしいわ!」

「ママ、リアもそれたべたい!」

 アステフィリアが身を乗り出して、白蜜キノコを指さす。

「え? これ?」

「うん!」

「ソースがちょっと辛いけど、大丈夫かしら?」

「リア、へーき」

 白蜜キノコのソテーをジーっと見つめながら、アステフィリはよだれを垂らす。

 イザベルが食べるのを見て、おいしそうだと思ったのだろう。

 ナイフで切り分けると、フォークに差してアステフィリアの皿に移そうとしたが、

「あーん」

 アステフィリアが口を開けて待っているので、そのまま直接口元にもっていくと、パクっと一口で食べた。

「おいしー!」

「良かったわ」

 もぐもぐと口を動かしながら答えるアステフィリアに、イザベルもにっこり笑った。





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