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08話 イザベルの仕事

 









 今日は朝から青空が広がって、いい天気だった。

 魔の森は陰気で薄暗いが、クラレンスの庭だけは拓けているので、青空が良く見える。

 ここはいつでも、太陽の光と清々しい空気で満たされていた。

 クラレンスの庭は広く、家からまっすぐ続く小道に沿って歩いていくと、薔薇などの花が出迎えてくれる。

 その奥が薬草園で、庭の大部分を占める。

 薬や魔法薬の材料になる薬草園は、クラレンスの大切な場所だ。

 クラレンスの邪魔にならないように、イザベルはなるべく薬草園には近づかないようにしていた。

 その代わり、花の様子はよく見に来ている。

 ここに来ると、季節ごとにいろんな花や植物がみられるのだ。

 花にはそれほど詳しくないけど、今はダリアやマリーゴールド、ペチュニア、マーガレットなど、いろんな花があちこちで咲いている。

 そして、もっとも目を惹くのは、薔薇だ。

 貴族の庭園にあるような美しく綺麗な薔薇もあれば、野ばらのような小さいものもある。

 一年中いろんな花を咲かせ、甘い香りに包まれてるこの庭が好きだった。

「わあー! おはな、たくさん~!」

 アステフィリアが目を大きくして、イザベルを見あげる。

「ママ、おはな!」

「いっぱいあるでしょ? このあたりのは、ぜんぶ薔薇よ」

「ばら?」

「あの大きいのも、こっちも薔薇なの。とげがあるから気をつけて」

「ふあぁぁ! きれ~!」

 アステフィリアは感嘆の声を上げて、薔薇の園を駆けまわる。

「ばら! これも?」

「そうよ。他の花も、ぜんぶクラレンスが育ててるのよ」

「パパ?」

「そう。すごいでしょ?」

「すごーい!」

 アステフィリアが目を輝かせた。

「パパー!」

 遠くにクラレンスの姿を見つけたのか、アステフィリアが駆けだした。

 イザベルも後に続いて、芝生で作業していたクラレンスに声をかける。

「クラレンス、ここにいたのね」

「……」

 クラレンスは不機嫌な顔で、足元のアステフィリアを見おろした。

 目障りなのが来たと言わんばかりの表情だ。

「クラレンス? なんて顔してるのよ」

「なんで連れてきた」

「一人にしておくわけにはいかないじゃない」

「イザベルだけでよかったのに」

 クラレンスはため息をつく。

 アステフィリアはクラレンスにひるむことなく、目をキラキラさせている。

「ねぇパパ! おはな、パパがつくったの?」

「ああ」

「パパすごーい!!」

 アステフィリアが、クラレンスのシャツをつかんで飛びはねる。

「放せ」

「クラレンス。そんな邪険にしないで」

「僕はパパじゃないと言ってる。面倒を見る義理もない」

「これから一緒に旅するんだから、そんなふうに言わないで仲良くして」

 イザベルが言うと、ムッとした顔で黙る。

 クラレンスの機嫌がこれ以上悪くなる前に、イザベルは目的を告げた。

「クラレンス。今から水やりするんでしょ?」

「ああ。頼む」

 そのひと言で、クラレンスの機嫌が直った。

 いつも冷めた顔をしているので分かりにくいが、声が嬉しそうだ。

「みずやり~?」

「そう。今から水やりするから、アステフィリアは、クラレンスと一緒にいてね」

「ママがするの?」

「ええ。これだけは、私の仕事なの」

 イザベルは得意げに笑顔を見せる。

 クラレンスの庭に水を撒くのは、イザベルの役目だ。

 この庭ができる前から、クラレンスとお隣さんだった頃から、彼が育てる植物の水やりは、イザベルの当番だった。

 他でもないクラレンスが、それを望んだから。

「行くわよ」

 クラレンスに合図して、イザベルは深呼吸する。

 魔法を使う時は杖を使うが、慣れ親しんだ魔法なら、杖はいらない。

 両の手のひらを上に向けて、胸の位置で止めると、呪文を唱える。


恵みの雨(ブレスドレイン)


 呪文と同時に、丸い球体が出現する。

 光を反射するそれは、水だ。

 イザベルの魔力によって生成された水は、軽く放り投げるだけで上空へ浮かぶ。

 一メートルくらいの大きさだったのが、上空で縦横に広がり一帯をつつむ。

 水の膜に覆われても、光は通すので、地面が輝いたようになる。

「うわ~! きれー!」

 アステフィリアが地面と空を見上げて、歓声を上げた。

 そして、パラパラと雨が降ってくる。

 小雨ていどの、やさしい雨だ。

「ママ! ママの、あめ!」

 ゆっくり降りそそぐ小雨に、服が少しずつ濡れていく。

 これもしばらくすれば日差しで乾く程度だ。

 アステフィリアは小雨に打たれながら、はしゃいだ様子でイザベルに抱きついた。

「すごいすごい! ママきれー!」

「ありがと、アステフィリア」

「ママの、あったかいの!」

「あったかい?」

 雨はひんやりするくらいの冷たさで、温かくはない。

 首をかしげると、クラレンスが口を開いた。

「イザベルの魔力を感じてるんだろ」

「えっ?」

「あいつらも、イザベルの水じゃないと文句を言う」

 クラレンスの視線の先には、花と植物しか見えない。

 子どもの頃から植物にのめりこんだ結果、クラレンスは、植物と意思疎通ができるようになったらしい。

 本当なのか、ただの思い込みなのか、イザベルには分からないが、クラレンスならそれくらいできてもおかしくない。

「ママの、すきーって、ゆってる!」

 アステフィリアの言葉に驚いた。

「あなたにも聞こえるの?」

「うん! せーれいも、うれしーって!」

 ニコニコしながら答えるアステフィリアに、イザベルは胸が熱くなった。

 クラレンスの言うことを疑っていたわけではないが、ここの植物は本当に喜んでくれているらしい。

 それが分かっただけで嬉しかった。

「ママ、すごい!」

「ふふ。これくらいしかできないけどね」

 自慢できる魔法は、本当にこれくらいだ。

 けど、アステフィリアは首をふって、イザベルに言った。

「ママすごいの! リアのママ、みんな、すき!」

 満面の笑顔で言うので、イザベルは照れくさい気持ちで微笑んだ。




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