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04話 初めてのお泊り

 








 食事を終えてからベッドの支度をして、アステフィリアを寝巻に着替えさせる。

 子どもの体に合う服はないので、衣装箪笥からシャツを取りだしてアステフィリアに着せた。

 袖を折りこんで、前のボタンを留めると、膝まで隠れる。

 着心地はあまりよくないだろうが、しかたない。

「今日はこれで我慢してね?」

「リアのふく?」

「今夜だけよ」

 アステフィリアは不思議そうに自分が着てるシャツを眺めた。

 袖を鼻にあてて、くんくんと匂いをかぐ。

「パパのにおいがする~」

「えっ? そう?」

「うん!」

「まあ、クラレンスのシャツだからね」

 でもここの服は、ちゃんと洗濯されているはずだ。

 クラレンスの洗浄魔法は完璧で、汚れも匂いもきれいに落ちる。

 匂いが残っているはずはないのだが、

「ママ、ほら~」

 アステフィリアが、袖口をつかんでイザベルの顔に近づけた。

 石鹸のさわやかな香りがする。

「そうね。石鹸の香りかしら?」

「えー? パパのにおい、するよー?」

「そう?」

「ママ、わかんない?」

 アステフィリアが眉尻をさげて、悲しそうな顔になる。

「えっと、ちょっとまって」

 イザベルは焦った。

 アステフィリアの腕をつかんで、シャツの匂いをかいでみる。

 だけど、どうがんばっても、石鹸の香りしかしない。

「うーん……クラレンスの匂いって、どんな匂いなの?」

「ん~?」

 アステフィリアは考えこむ。

 今のうちにと、アステフィリアをベッドに寝かせて、布団を上からかけた。

 すぐ隣にはリトスも一緒に寝かせている。

 横になれば、そのうち眠るだろう。

 イザベルはベッドに腰かけて、アステフィリアの頭をなでた。

「今日は疲れたでしょ?」

「リア、へーきだよ?」

「それならよかった。明日には出発できると思うから、今日は早く寝ましょう」

「あした、どらごんあえる?」

「すぐには会えないの。ドラゴンは、ここからずっと遠いところに住んでるのよ」

「じゃあ、いつあえるの~?」

「ドラゴンはケトナ火山にいるはずだから……そうね。十日はかかるわ」

「え~!」

 アステフィリアが不満の声をあげる。

「リア、はやくあいたい!」

「焦る気持ちは分かるけど、遠く離れた場所にいるのよ」

「まほーで、いけないの?」

「転移魔法は、かんたんに使えないのよ」

 難易度の高い魔法ということもあるが、魔法陣でつなぐ出口がなければ使用できない決まりになっている。

 出口を決めずに発動させると、予想外の場所にでたり、出口が見つからず空間内から出られなくなったり、体に思わぬ障害をきたすこともある。

 安全性を重視したルークステラ王国では上級魔導士しか使用が許可されていない。

 下手に使用して見つかったら、処罰されてしまうのだ。

「なるべく早く到着できるように準備してるから、がまんしてね?」

「う~」

 口をへの字に曲げて、訴えるような目を向ける。

 そんな顔すら可愛くて、イザベルはアステフィリアの頭をよしよしとなでた。

「ドラゴンは逃げたりしないから大丈夫よ」

「どらごん……」

「目をとじて、ドラゴンにお願いするのよ。早く会えますようにって」

 イザベルがそう言うと、アステフィリアは目をとじる。

 やさしく頭をなでていると、そのうち寝息がきこえてきた。

 寝つきはいいみたいね。

 ぐずったらどうしようかと思ったが、すぐに寝てくれて良かった。

 しばらく寝顔を眺めながら、今日の出来事を振り返る。


 怒涛の一日だったわ……。


 しかし、まだクラレンスとの話が残っている。

 イザベルはそっとベッドから立ち上がり、アステフィリアを見た。

 起きる様子がないことを確認してから、枕元でそっとささやく。

「おやすみなさい、アステフィリア」






 + + +







 イザベルは、この家に週に二回は訪れている。

 もはや勝手知ったる家という感じだが、さすがに泊まったことは一度もなかった。

 イザベルはいちおう貴族令嬢だし、家族以外の男性とひとつ屋根の下で夜を過ごすのは外聞が悪く、非常識なことだからだ。

 アステフィリアを一人にするわけにはいかないので、こうして泊まることになったが、父にばれたら、絶対に退学させられる。

 だけど、好きな人の家に、初めてのお泊りだ。

 ドキドキしないわけがない。


 まあ、泊まったところで、何にもないでしょうけどね!


 だって、相手はクラレンスだ。

 普段の様子を見ていれば、恋愛沙汰に興味ないのは分かりきっている。

 この家にいる時のクラレンスは、大半を一階の作業場で過ごし、寝る時は寝室に行くこともなく、そのまま休む。

 ソファーで寝ていればまだいい方で、椅子に座った状態でテーブルに突っ伏して寝ていることも多い。

 イザベルが口を酸っぱくして言わなければ、食事だってろくにとらない。

 それほどまでに、研究と実験に没頭するのだ。

 放っておいたら、食事も睡眠も忘れて作業場にこもり、まったく出てこなくなる。

 授業どころか、試験さえもすっぽかすことがあるので、イザベルやミックが教師に頼まれて迎えに行くことも日常茶飯事だった。

 そんなクラレンスではあるが、初めてのお泊りとなれば、ちょっぴり期待もしてしまう。


 いえ、何もないのは分かってるけど!


 もう少し、子どもの頃みたいに近づけたら、とは思う。

 七歳くらいまでは、手を握ったり抱きしめたり、同じベッドで昼寝をしたり、姉弟みたいに仲良くしていた。

 クラレンスはされるがままだったけど、いつだってイザベルに付き合ってくれた。

 年齢が上がるにつれて、そういうことも減ってしまったけど。


 好きだから、恥ずかしくなってきちゃったのよねぇ。


 それが恋心だと気づいたのはいつだろう。

 触れたいのに、ドキドキしてしまって。

 告白しようと思ったけど、やっぱり恥ずかしくて。

 でも一緒にいたいから、同じ学校に通えることが嬉しかった。

 しかも今回は、イザベルのワガママに付き合って旅にも同行してくれる。

 二人きりではないけど……二人だったら、さすがに恥ずかしすぎて無理だったけど、アステフィリアがいてくれるおかげで、一緒にいる理由ができた。

 もちろん、宮廷魔導士を目指して、政略結婚を回避することは重要な目的だ。

 だけどそれ以上に、クラレンスに告白する絶好の機会でもある。

「できるかしら……」

 いざ告白となると、緊張で声も出ない気がするけど。

 今から一緒に旅に出るのだから、どこかで伝えられるように頑張るしかない。

 できなかったら、一生後悔するだろう。

「よし!」

 旅が終わるまでには、必ず告白しよう。

 そう決心して、イザベルは両手をかたく握りしめた。




お読みいただき、ありがとうございます!


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