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03話 お守りのペンダント

 










 イザベルは町に着くと、配達屋へ速達で手紙を頼み、道具屋で魔導士見習い用のローブを購入し、雑貨屋と町の食堂によってから、再びクラレンスの家へ向かった。

 魔物除けを兼ねたクラレンスのお守りの魔法石は、ペンダントになっていて、いつも身につけている。

 魔の森に足を踏みいれても、小道を通れば安全にクラレンスの家にたどり着いた。

「ママ!」

 小屋の前にいたアステフィリアが、イザベルに気づいて駆けよってくる。

「ママ! ママっ!」

「アステフィリア?」

 泣きそうな顔で、ぎゅっと腰に抱きついてくる。

 イザベルは、やさしく髪をなでた。

「ごめんね。待たせて」

「ママ~」

 涙目のアステフィリアに、おいて行ったことを少し後悔した。

「クラレンスは?」

「パパ、いない!」

「え?」

「にわ、いくって! リアおいてった!」

 ウサギのぬいぐるみをブンッと振り回して怒る。

 知らない家に一人で残されて、心細い思いをしたはずだ。

「ごめんね、アステフィリア」

 もう一度謝って、頭をよしよしとなでる。

 それにしても、問題なのはクラレンスだ。

「ちゃんと見ててって言ったのに」

 やっぱり、クラレンスに子守を任せるなんて無謀だったかもしれない。

 イザベルはため息をついて、自分の考えが甘かったことを反省した。

 とりあえず家の中に入ろうと思いアステフィリアを見下ろすと、見慣れないペンダントをしているのに気づく。

「あら、それどうしたの?」

「これ? パパがくれた!」

 怒っていたはずのアステフィリアが、パッと笑顔になる。

「きれーなの!」

 気に入っているらしく、ペンダントの先をにぎってニコニコしている。

 クラレンスが人にものをあげるなんて、どういう風の吹き回しだろうか。

「どんなのをもらったの?」

「これ!」

 アステフィリアは、首からさげている楕円形のペンダントトップを、手のひらにのせてイザベルに見せる。

「触ってもいい?」

「ママなら、いいよ!」

「ありがとう」

 真珠に似た白い石に見えるが、イザベルが指先で触れてみると、ほんのり魔力を感じた。

「これ、魔法石だわ」

「まほーせき? めじるしってゆったよ?」

「目印?」

「うん。まもってくれるって」

「それならきっと、(シールド)の魔法ね」

 裏返してみると、そこには魔法陣が描かれている。

 呪文術学で習った守りの魔法陣に似ていた。

 ここの敷地内は、魔物や魔獣が襲ってこないように、結界が張られている。

 だから外に出ない限り危険はないが、それに加えて、お守りを持たせたのだろう。

 いちおう、イザベルの言うことは聞いていたわけだ。

 危険はないからといって、子どもを一人きりにするのはよくないが、クラレンスにしてはまともな対応である。

「いいものをもらったわね」

「へへ~!」

 おいてけぼりにされたことは、もう忘れているらしい。

 イザベルは笑顔でアステフィリアの頭をなでた。

「お腹空いたでしょ? ご飯にするわよ」

「わーい! ごはん~」

「食堂でいろいろ買ってきたの。食べられるといいんだけど」

「リア、たべれる!」

「ふふ。じゃあ、すぐに準備するわね」

「うん!」

 イザベルは扉を開けると、アステフィリアと一緒に中へ入った。






 + + +






 さっそく、町で買ってきたシチューを暖炉で温めた。

 テーブルの上を片づけて、イザベルのすぐ隣に、椅子を持ってくる。

 買ってきたものをテーブルに並べてみせたが、アステフィリアはどれも食べられるようだ。

「ママ、おいしー!」

「よかったわ」

 エルフも、肉を食べるのね。

 シチューに入った鶏肉も気にせず食べている。

 肉は食べないと本に書いてあったが、間違った伝聞のようだ。

 アステフィリアはまだ小さいので、椅子にクッションを重ねた上に座って食べている。

 食べこぼしはあるが、スプーンはしっかりにぎって使えるし、テーブルに乗ったりということもなく、躾けはきちんとできてるようだ。

 やっぱり、貴族か、良いところのお嬢様みたいね。

 イザベルも子どもの頃からマナーは厳しく躾けられたので、すぐに分かる。

 貴族流の食事はかたくるしくて苦手なので、実家にいるときくらいしか実践しないが、最低限のマナーは守っている。

 テーブルに広げた夕食は、パンとミルク、サラダ、ハム、シチューだ。

 あちこち見てまわる時間がなかったので、品数も少ないが、量としてはちょうどよかった。

 シチューは暖炉で温め直したので、とてもおいしい。

 アステフィリアも残すことなく、しっかり全部食べていた。

「まあ、残さず食べるなんてえらいわ」

「おいしかった~!」

 アステフィリアが満足げな顔で笑う。

「じゃあ、今夜は二階で寝るから、ここを片づけたらベッドの支度を手伝ってくれる?」

「する! リア、おてつだい!」

「ふふ。ありがとう。後で頼むわね」

「うん!」

 笑顔でうなずくアステフィリアに、イザベルも笑顔になる。

 こんなに可愛い女の子と一緒に過ごせると思うと、嬉しくなった。

「まだ夜は寒いから、毛布がいるわね」

 春になったとはいえ、朝晩はかなり冷える。

 もしクラレンスがアステフィリアを見つけていなかったら、寒さで凍えていたかもしれない。

 無事でよかったと、心から思う。

「アステフィリア」

「ママ?」

 思わず、アステフィリアを抱きしめる。

 この小さな女の子は、危険を顧みず、一人で異国の地にやってきた。

 イザベルはその必死な思いに打たれて、一緒に精霊王を探すことを約束した。

 だからこそ、絶対に、アステフィリアを守らないといけない。

 無事に親元へ返すのが、イザベルの義務だ。

 心のうちで決心をかためていると、

「ママ、すき!」

 アステフィリアが、ぎゅうっと抱きついてくる。

「ママも、リア、すき~?」

 甘えるような、可愛い声が、無邪気に問いかけた。

 イザベルはアステフィリアの顔をしっかり見つめて、微笑む。

「もちろん、大好きよ」

 イザベルが答えると、アステフィリアは嬉しそうに笑った。










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