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魔王様は今日もご機嫌ナナメ  作者: 鬼桜 寛
Episode2 愛のこもった手料理で胃袋鷲掴み大作戦!
23/32

2-4 思い出の料理で

 リザミィは魔王城へ向かって走りながら、胸騒ぎがしていた。

 まだボンボたちの抜け駆け焼肉の怒りは治まっていない。なんで二人だけで美味しいもの食べてるのよ。こっちは真面目に掃除してたっていうのに!

 リザミィは気晴らしに、この後三人で美味しい夕食を食べたいなと思っていた。もちろんライジャーのおごりで。

 しかし、夕食どころではない事態が発生している可能性がある。


 さっきのはかなり大きな地震だった。ダークマナの減少によって起きた地震に違いない。ということは……。

 リザミィがKEMO本部の扉を荒々しく開けると、室内にベイディオロが待ち構えていた。ベイディオロは緊迫した表情でリザミィたちを睨んだ。


「どこに行っていたんだ!? こんな時に!」

「ちょっとした散歩よ。……何かあったの?」


 リザミィが息を整えながら答えると、ベイディオは大きなため息をついた。彼がここにいるということは恐らくリザミィの予想は的中している。

 ベイディオロは目を閉じてからゆっくり口を開いた。


「魔王様が、ご機嫌斜めだ」


 やっぱり。

 リザミィは乱れた前髪を指先で避けた。

 机の上の魔界終末時計ドゥームズデイ・クロックを見ると、時刻は11時50分を指していた。

 最後に見た時から35分も進んでいる。ここまで一気に針が進むということは、魔王は相当ご機嫌斜めに違いない。よほどのことがあったのだろう。

 一体どこのどいつが私の愛する魔王様の機嫌を損ねたのか。胸の奥で怒りが募る。


「原因は?」


 リザミィが強い口調で尋ねると、ベイディオロは何かを悔いるように俯いた。


「今日の夕食だ」

「……夕食?」


 小さく聞き返したのはボンボだった。ベイディオロは悲痛な顔をしながら続ける。


「十日ほど前に、魔王様の料理を担当する料理人が変わったんだ。そいつが今日の夕食で新しいメニューを出したそうだ。上層部への連絡無しで、勝手にな。ワシも確認しなかったのが悪かった。それを食べた魔王様が、お怒りになってしまったのだ……」


 魔王の食事管理は徹底されていると聞いたことがある。栄養管理などもきちっとされていて「魔王の料理番」と呼ばれる、選ばれた者だけが食事を作ることを特別に許されているとか。


「よっぽど不味かったのね」


 リザミィは腕を組みながら眉をひそめた。不味い料理を食べさせられた魔王様。なんてかわいそうに。そんな無礼なやつは即刻死刑にすればいい。

 ところがベイディオロは首を横に振った。


「いや、ワシもそう思って残っていた食事を食べたんだが、普通に美味かった。メインのハンバーグはさることながら、つけ添えのニンジンのグラッセも絶品だったな。ハンバーグはじゅわっと肉汁ジューシーで食べ応えも抜群だった」

「うわぁ、美味しそうだね……」


 ボンボが恍惚な表情をしながら涎を垂らしている。食欲が刺激されてしまったようだ。

 ライジャーは首を傾げた。


「だったら、なんで魔王は不機嫌になったんだ?」

「そこがわからんのだ。だが、夕食が原因であることは明らかだ。問題の料理人は即刻解雇処分にした」


 当然の措置だ。なんなら調理師免許剥奪でもいいのではないかとも思う。


「お前たちには早急に、魔王様のご機嫌が良くなるよう対応を取ってもらいたい」


 待ちに待った仕事の時間だ。

 ここにいるリザミィ以外にとって、魔王の機嫌を取ることは魔界デスガルドを救うための手段でしかない。だがリザミィにとっては、魔王との距離を縮めることが出来る最大のチャンスなのだ。


 魔王様のご機嫌が良くなるようなこと。そんなのこれしかないでしょ。

 案はすぐに思い付いた。近い未来、魔王様の妻となる予定のリザミィには容易いことだ。

 リザミィは大きく胸を張り、声高らかに言った。


「任せて! 私にいい作戦があるわ!」


 ベイディオロは少し表情を曇らせた。ライジャーに至っては見るからに嫌そうな顔をしている。ボンボは心配そうに口を閉じていた。

 

「絶対ろくでもないぞ……」


 ライジャーの呟きは無視する。どうせ彼は何を言っても否定しかしないのだから。リザミィは続ける。

 

「料理で不機嫌になったんなら、料理でご機嫌にしないといけないと思うの」

「どうするの?」


 ボンボがリザミィを不安そうに見つめている。そんな顔しなくたっていいのに。安心して聞いて欲しい。

 リザミィはニヤリ、と笑った。


「名付けて、「愛のこもった手料理で胃袋鷲掴み大作戦」よ!」

「──いやいやいやッ! それは絶対駄目だろッ!? 却下だ却下ッ!」


 ライジャーは反抗期なのだろうか。無視したかったが、仕事の同僚として却下の理由は聞いておくべきだ。


「どうして?」


 苛立ったリザミィの問いかけに、ライジャーが即答する。


「んなもん考えたらわかるだろ!? プロが作った飯の方が絶対美味いに決まってんだろうがッ!? 素人のクソマズい飯なんか食ったら一瞬で魔界デスガルドが終わっちまうぞッ!?」 


 リザミィは人差し指を立ててチッチッチ、と左右に振った。そしてライジャーに嘲笑を向ける。


「甘い。甘いわねぇ。これだからトカゲ風情は」

「ライジャーくん一旦座ろう? ね?」


 ボンボが先回りをして、リザミィに飛び掛からんとするライジャーをパイプ椅子に座らせた。いつの間にかボンボはライジャーの扱いに慣れてきているような気がする。

 暴れるライジャーの肩を抑え込むボンボが言った。


「だ、だけど、ライジャーくんの意見にはボクも賛成かな……」

「ワシもだ。魔王様の料理をいっぱしの部下が作るなんて、前例がない」


 ボンボもベイディオロもリザミィの意見に反対している。だが、リザミィは一切落ち込むことなく腕を組んだ。


「前例がないなら作ればいいだけじゃない」

「オマエ、簡単に言うけどな……」


 気持ちが落ち着いたらしいライジャーが、呆れたようにため息をついた。

 リザミィだって、単なる思い付きで案を言っているわけではない。きちんとした理由と自信がある。

 リザミィはライジャーを指さした。


「あんた、たまにめちゃくちゃ食べたいなって思う実家の料理とかない?」

「…………あー」


 ライジャーは右上の方を見ながら気の抜けた声を出した。思い付くものがあったのだろう。

 リザミィは続けて、ボンボとベイディオロにも指をさす。


「どれだけ美味しいレストランの料理を食べたことがあっても、ふと恋しくなる料理ってない? ちっちゃい時に食べたオムライスとか、素朴な味だけど食べたらほっこり嬉しくなる料理はない?」

「あるね」

「……ないことはない」


 ほらね。


「それよ!」


 リザミィはにっこりと笑った。そして拳を握る。


「誰しも、そういう料理の一つや二つあるものなのよ。プロの味じゃなくたっていい。温かみのある思い出の料理で魔王様を喜ばせるの。そして未来の魔王様の妻として、胃袋をガッツリ掴むのよッ!」


 完璧な作戦だ。魔王の機嫌も直るし、リザミィへの好感度も爆あがりだ。見える。見えるわ。将来魔王様へ手料理を運ぶ私の姿が!

 リザミィ以外の三人はそれぞれ顔を見合わせている。

 反対意見が出ないところを見ると、納得してくれたようだ。


「他に案があればもちろん聞くわ。なければ私はこの作戦で行きたいけど」


 ボンボが控えめに手を上げた。


「でもその、魔王様が喜ぶ思い出の料理……ってなんだろう」


 肝心なそこはリザミィもわからない。魔王のインタビューが書かれた雑誌にも載っていなかったはずだ。情報収集をするしかないのだろうが……。

 しかしそれについては、ベイディオロが良い情報をくれた。


「前に魔王の料理番を勤めていた者は、現在アボロスの北側にあるレストランで働いているらしい。魔王様の料理を長年作っていたし、そいつだったら何か知っているかもしれん」


 流石はベイディオロ。いざという時頼りになる組織隊長だ。


「じゃあやることは決まりね!」


 リザミィは拳を上げた。

 そんなリザミィを見て、ベイディオロは深いため息をついた。まだ不安は拭えていないのかもしれない。


「魔王様には、近々特別メニューを用意すると伝えておこう。前回の花の件でお前たちのことを気に入り始めていたから、恐らくすぐに了承が出ることだろう」

「わ、私が、魔王様のお気に入りに……!」


 そういうことはもっと早く言って欲しい。

 魔王様のお気に入り。言葉の響きだけでたまらない。リザミィの心臓がどきどきと脈打つ。


「別に、オマエだけが特別じゃねぇだろ」


 ライジャーの冷ややかな一言は無視する。どうしてこいつは余計なことを言うのか。

 ベイディオロはリザミィたちに鋭い視線を送った。


「わかっているだろうが、魔王様を怒らせることだけは止めてくれ。魔界デスガルドが終わるからな」


 大好きな魔王様を怒らせるなんて、一番あってはならないことだ。そんなことになれば魔界デスガルドが終わる前にリザミィは自ら首を吊ってしまうだろう。

 ライジャーはパイプ椅子からだるそうに立ち上がった。


「そうと決まればさっさと行こうぜ。仕事は早く終わらせるに越したことはねぇだろ。その旧料理番がいる店の名前はなんて言うんだ?」

「高級レストラン「ケットリーア」だ」


 なんだか、どこかで見た記憶がある名前だ。リザミィは考え込む。雑誌で見たのか、それとも……。

 するとボンボが目を見開きながら食い気味で叫んだ。


「昨日魔王様から頂いたディナーチケットのところだっ! 予約がないと入れない超有名店だよ!」


 思い出した。

 昨日魔王からの褒美で、三人は金貨50ゴルとアボロスで超有名な高級レストランのディナーチケット、マーボードーフの素を貰った。

 マーボードーフのことは記憶から抹消していたはずだったのに一緒に思い出してしまった。最悪だ。早く消し去ろう。


 ディナーチケットには確か「ケットリーア」と店名が書かれていた。

 チケットは昨日の今日なのでまだ使っていない。今のところ使う予定もない。リザミィがもし使うとすれば、魔王とのデートくらいだ。だがそれは残念なことにまだ先になりそうなので、今回チケットを使ってしまってもなんの問題はない。


「丁度いいわ。魔王様に頂いたチケット、魔王様のために使いましょ」

「そうだな」


 ライジャーが素直に頷いたので、リザミィは彼の顔をじっと覗き込んだ。


「あら? てっきり彼女にでもプレゼントするのかと思ったけど」


 ライジャーは鬱陶しそうにリザミィを睨んだ。


「うるせぇな。今オレはフリーだっつーの。別に使う予定もねぇしな」


 フリーかどうかまでは聞いていないですけど。リザミィは真顔でライジャーから顔を逸らした。

 ベイディオロはこほんと咳払いをすると、三人に視線を送った。


「魔王様が用意したチケットであるから、恐らくVIPルームへと案内してくれることだろう。魔王様が恥をかかぬよう、魔王軍の一員としてきちんとした装いで向かうように」

「任せて頂戴!」


 リザミィは大きく胸を叩いて見せた。

 愛する魔王のために仕事が出来ると思うと、わくわくした気持ちが止まらない。

 リザミィたちは一度解散し、各々準備をしてからアボロスの北側アーケードで待ち合わせをすることになった。

 

 リザミィは魔王城の廊下を歩きながらそっとほくそ笑んだ。

 ふふふ。ついに、あの服を着る時が訪れてしまったのね。

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