エピローグ
エピローグ
「母上!ジョシュアがカトリーナを泣かせました」
「あらまたなの?」
ファビアは重いお腹を抱えてよいしょと立ち上がった。
お腹の中には5人目の子どもがいる。
結婚してから立て続けに妊娠し、30歳になる今年、ついに5人目の子を授かった。
ディエゴは1年前にミルアー帝国皇帝となり、ファビアは皇后となった。
ゲイリー粛清後に徐々にディエゴに国政を任せていった前皇帝は今では隠居し、離宮で皇后と過ごしている。皇帝は今でも側妃たちのことは大事にしており、それなりにちゃんといろんなところに通ってはいるようで皇后は相変わらず上辺だけは仲良くしているらしい。
アーグフルトは医療管理庁の大臣となり、5年前の疫病発生時には大活躍し、帝国民には英雄として今ではヒーロー扱いだ。
その後、医療管理庁で一緒に疫病に立ち向かった平民の女性と結婚し、子どもにも恵まれ、幸せに暮らしている。
「ナディアも来ていたでしょう?彼女はどこに行ったの?」
「ナディアなんて知りません!僕のことをバカ呼ばわりするのです」
ナディアは、ジャックとモニカの長女でディエゴとファビアの長男、すなわち皇太子であるロイドと同い年で、いわゆる幼馴染であり、いつも一枚上手のナディアにロイドはやられてしまう。
「ダメよ。ナディアは女の子なのよ。1人にしちゃ。探しましょう」
「はい」
拗ねたように口を尖らすロイドの手を取り、庭を歩き始めると、お腹にビリリと激痛が走った。
「うっ!」
「母上?」
いきなりうずくまった母がどうなったのかとロイドが焦り始めたところで、ディエゴがナディアを抱っこして現れた。
「ロイド。ナディアが謝りたいと…」
「父上!母上が!」
ロイドが駆けてくる。
「ファビア!」
慌ててディエゴがファビアのところまで来てナディアを下ろし、ファビアを抱き抱えた。
「ロイド。ナディアときちんと話しなさい。お母様を医師のところへ連れていくから」
「はい」
ロイドとファビアをその場に残し、ディエゴは皇医のところへ急いだ。
「ディエゴ様。産まれるみたい」
「やはりそうか。そういえば、レイナルド王にも後継が生まれたらしいぞ」
「まあ。ほんと?よかった」
レイナルドは驚くことに、マチルダを妃に迎えた。いつの間に?と驚いたが、マチルダが薬のことに詳しく、王宮に上がることも増え、その中で愛を育んだらしい。
子どもが女の子ばかりでハラハラしていたがようやく男の子が産まれたならよかった。
エリナやマリアも家業を継いで結婚し、働く女性として幸せに過ごしている。
ドローディアはカンディアナに嫁いだようで、カンディアナも今のところは滅びずに済んでいる。
なんとかもっているようだ。
アランはガーディアンの社交界にデビューし、浮き名を流しているようだ。
父に似ているのかもしれない。
「何度やっても慣れないな。お産というのは」
「そうね。わたしもよ」
ファビアはつわりがひどいタイプで、全て吐いてしまうため、いつも妊娠するたびにもう最後にしようと思うのだが、ファビアがもっと欲しいと言うのでどうしてもその言葉に負けて、子作りに励んでしまう。
ディエゴは助産師にファビアを託し、気を紛らすために政務をひたすらこなしていた。
「兄上。今日はもういいのではないですか?」
宰相としてディエゴを助けるジャックと共に今では大公殿下となったイアンは、長年の思いを実らせ、ダイアナと結婚し、子どもは1人、女の子に恵まれている。
ファビアは皇后になってから忙しくなり、大教会の管理まで手が届かないので、ダイアナが今はまた全面的に管理をしている。今回は女の子だけでなく男の子の支援も騎士を派遣して手厚くするようになった。
実際大教会の孤児の中で帝国の騎士団でいい仕事をする者も出てきているのだ。
「ああ。だが、落ち着かないのだ。何度やってもダメだな。お産は」
「ですが…」
その時、執務室をノックする音がして、お産が無事終了した旨が伝えられた。
「皇后陛下がお待ちです」
そう言われて慌てて、ファビアの元へ向かう。
ファビアの横ですやすやとプラチナブロンドの髪の色白の赤子が眠っていた。
「ファビア。ありがとう」
お産のたびにディエゴはファビアにはいつもありがとうと声をかける。
「ええ。女の子だったわ。瞳は碧よ」
「そうか。では皇女だな」
「ええ。知っていた?わたしたち、ついに前世を超えたって」
「え?」
すっかり失念していたが、そういえばそうだ。
この年の春ファビアは毒殺され、ディエゴは秋に毒殺された。
今はもう冬。
「そうか。ついに…超えたか」
「ええ。今からは未知の時代よ。この子は未知の時代を担う子ね」
「そうだな。だけど…何もかわらないさ。俺は…いつまでもお前を愛してる」
「ディエゴ様。わたしもずっと愛してるわ。ずっと…一緒にいてね」
ファビアの瞳を一筋の涙が伝い、ディエゴがそっとそれを拭った。
「当たり前だ。泣くな。美人が台無しだぞ」
「バカね。自分こそ未だにいろんな令嬢に言い寄られているくせに」
ディエゴの周りにはいつも側妃を狙う者たちがウヨウヨと寄ってきたけれど、絶対にディエゴは誰にもなびかなかった。
「俺はお前がいればいいんだ」
ディエゴがファビアにキスを落とした。
「「愛してる」」
2人でシンクロしたその言葉が天の女神ルーの元に届いた。
『もう心配ないわね』
そっと呟き、ようやく肩の荷が降りたとばかりに女神は肩をこりっと鳴らした。
『さあて。わたくしも恋愛しなきゃ。あの2人に負けてられないわ』
大陸はこれから長い間、ミルアー帝国に支えられて、平和な一時代を築いていくのだ。
歴史に名を刻んだ皇帝ディエゴと皇后ファビア。
これは必死に生きる2人の物語なのである。
〜Fin〜
どうにか完結することができました。
今まで読んでいただいた皆さま。
長い間お付き合いくださりありがとうございます。
いいね、★いただいた方、
誤字のご指摘いただきいた方、
ありがとうございました。




