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全ての黒幕は…


それから3日後のことだ。

今から修道院へ野菜の納品に行くらしい老夫婦の後ろから気配を消し、ディエゴとファビアはついていった。

その野菜とともに採れたてジュースを配ってそこに睡眠薬を含ませて飲ませる手筈らしい。


ゲイリーはこの3日間の間に一度だけ老夫婦と接触を図っており、その場にディエゴとファビアが潜み内容をすべて聞いた。

ゲイリーも修道院に向かっているはずだ。

老夫婦が入り、皆にジュースを振る舞い、眠った時点でゲイリーが押し入り、フロレンティーナを奪う手筈だ。


ディエゴはなる様に任せると言っており、修道院の周りにはディエゴの配下の者が10名ほど張り込んでいる。

ゲイリーの手下もいるだろうからそのさらに後ろ側にいるらしい。


こういうのは戦術が得意な俺に任せておけとディエゴは余裕の表情だった。

ゲイリーなどに俺の動きが分かるわけがないだろうと。


修道院に着くと、老夫婦が入ると同時に2人も門の中に入った。


そのままささっと建物の中に入り、フロレンティーナを探す。

悪意の言葉をつぶやいているフロレンティーナはたやすく見つけられた。


さすがに部屋を開けると気づかれるので部屋の外で待つ。


何時間も経ったのではないかと思った時だ。

階下でどたばたと足音がしたかと思うと、ゲイリーが駆け足で上がってきた。


ディエゴとファビアは見えないよう廊下に置かれていた大理石の置物の後ろに隠れたところでゲイリーが扉の前に到着し、声を出した。


「ティー。開けてくれ。俺だ」


「ゲイリー?」


キイッと音がして扉が開き、中からフロレンティーナが現れたのを見て思わずファビアは声を出しそうになって口を押さえた。


ディエゴはキュッとファビアの手を握るその手に力を込める。


あまりに、変わってしまっている。

ガリガリと言ってもいいほどにやつれた姿。

化粧気のない青白い顔。


きっと彼女も苦労したのだろう。

けれど、彼女の母がやろうとしたこと。そして彼女がこれからやろうとしていることは、決して許されることではない。

惑わされてはいけないわ。


ファビアはぐっとディエゴの手を握り返し、コクリとうなずいた。


「あー。ティー。こんなにやつれてしまって…」


「だって…お母様は処刑されてしまうし、お父様は私をこんなところに閉じ込めるし…それにあの…汚れた血のレイナルドと…ロンズディールのあの女が…」


その口調に悪意を感じ、ファビアは改めて許せない思いを強く抱いた。


「ああ。あの女狐は汚れた血の戦争狂と今頃結婚式のことで浮かれているはずさ。戦争ばかりしていればいいものを何を血迷ったかあんな女を連れてきて…」


「許せない!」


「ああ。いずれは亡き者にしてやるつもりだったんだ。これからジュリアードに行ってアイツらの息の根を止めるんだ」


「そうね。アイツらの次はガーディアンに行ってレイナルドをやらないと気が済まない」


「ああ。そうしよう。両国とも無茶苦茶になればいい。僕たちは2人で静かに暮らそう」


「ええ」


目の前で無茶苦茶な会話が繰り広げられている。

ファビアがディエゴを見ると険しい表情でファビアを見て、行くぞと合図した。


コクリ、ファビアがうなずき、ディエゴが気配を復活させると、2人同時に立ち上がる。


「たいそうな計画だな。ゲイリー」


ハッとゲイリーとフロレンティーナが振り向いた。


目を見開き、信じられないと言う表情だ。


「あ、兄上。どうしてだ」


ゲイリーは慌てふためいていて、頭が追いつかず理解できないと言う顔をしている。


「ゲイリー?」


不安そうなフロレンティーナの声にゲイリーはハッとフロレンティーナを見た。


そして意を決したようにディエゴを見据えると、懐から短刀を取り出し、ディエゴに向かって真正面から、「ヤーーッ」と声を上げながら短刀を手に持ち、突っ込んできたが、ディエゴはゲイリーの手首をヒョイと取るとクイっと捻じ曲げ、床に体ごと落として上から押さえつけた。

小さい頃から体が弱く、学問しかしていなかったゲイリーがそもそもディエゴに勝てるわけはない。


「ゲイリー。お前を拘束する」


ディエゴが言うとそれが合図とばかりに物陰からゾロゾロとディエゴの部下が現れ、ゲイリーの手を後ろで縛りあげる。


「ゲイリー!いやーーっ!」


フロレンティーナの声がこだました。


「助けてくれるって言ったくせにっ!嘘ばっかり!わたしはどうなるのよっ!」


自分を助けにきた男が拘束されていても自分の心配しかできない、そんな女のためにゲイリーは…。


「フロレンティーナ殿。そなたをわたしは裁くことはできない」


部下に拘束されているゲイリーを眉を顰めながら見ていたディエゴがフロレンティーナの方を見ながら言うと、フロレンティーナがきらりと目を光らせた。


「まあ。ならわたくしは助けてくださるの?」


どこまでも自分のことだけしか考えられない女だ。

この女が妃だったと言う前世のアーグフルトが思いやられるとファビアは眉を顰めた。


「そうだな。あなたを裁ける権利をお持ちの方をお呼びしているから安心するが良い」


ディエゴが呆れたように言うと、階下からコツコツと靴の音が規則正しく響き、そこに銀色の美しい髪の美丈夫か現れた。


「お、お兄様!」


フロレンティーナの顔が恐怖に歪む。


「彼女はこちらで譲り受ける。連絡をいただき感謝する。ディエゴ殿下」


「ええ」


それでも暴れるフロレンティーナをレイナルドの部下が拘束したが、ギャーギャーと泣き喚くので、そのまま階下へ連れて行った。


残されたゲイリーは唇を噛みその目はうっすらと涙に濡れているようにファビアには見えた。


「ゲイリー。いつから…この計画を立てていたんだ」


ディエゴか眉を顰めたまま聞くと、ゲイリーはククククッと気が触れたような笑い声をあげたあと、キッと睨みつけた。


「お前などにわかってたまるものか!僕の気持ちなど!全てにおいて恵まれていたお前にな。お前に初めて会ってからこれまでお前を恨まなかったことなどない」


「ではずっと俺を恨んでいたのか」


「お前が嫌いだった。ダイアナを捨てて連れてきた女がこの女狐だったとわかったときにこの計画を立て始めた。許せなかった。唯一俺を必要としてくれたティーを破滅に追いやった女と幸せそうに笑ってるお前がな。今ここで目で殺せるなら殺してる」


「そんなことしてもお前がフロレンティーナと幸せに暮らせる場所などないことはわかっているだろう?」


ゲイリーは頭が悪い男ではない。ガーディアンの罪人である元王女を連れ出し、ミルアーの皇太子を毒殺してのうのうと暮らせるほど世の中甘くはないことくらい察しているはずだ。

それでも行動を起こすなど…。


「ティーと一緒に行く最後の場所はちゃんと用意していたさ。お前には想像もつかないくらい美しい場所をな」


きっと…

ゲイリーはフロレンティーナと最後には心中を図るつもりだったのではないかと…ファビアは思った。


永遠に2人でいられる場所へ旅立とうと…


けれど、フロレンティーナは…ゲイリーと一緒に死ぬようなそんな綺麗な女ではない。

残念だけれどゲイリーが愛した女は自分のことしか考えられない女よ。


ファビアはやるせなさを覚え、ディエゴに命じられて連行される項垂れたゲイリーを見ていた。


「あの2人は.他に方法はなかったのかしらね…」


ファビアがぼそっとつぶやくとディエゴはファビアの隣にやってきてそっと肩を抱いた。


「無理だな。あの2人が幸せになる道などない」


今後ゲイリーをどうするのか…ディエゴは…そして皇帝陛下は決断しなければならない。

自分の息子を裁くのはどう言う心境だろう。


ガーディアンの国王のことも考え、やはりやるせなくなる。


「お前は優しいな。ファビア」


ディエゴがファビアを優しい目で見た。


「気持ちはわかるが、ゲイリーは俺とお前を殺そうとした。家族だとは言えど、俺たちは帝国を背負っている。帝国を束ねる者は時には非情にならないといけないんだ」


そうなのだ。それはわかっている。

それでも…実はとても心が優しいことを知っているファビアにはディエゴの辛さがわかっていた。


「ええ。わかってますわ。けれど、ディエゴ様。わたしの前では、辛ければ辛いと言ってくれていいのよ。わたしはそのためにあなたと一緒にいるんだから」


ファビアは言うと、ディエゴは一瞬でも目を見開き、そしてファビアをそのまま抱きしめた。


「お前ってやつは…。それはまた後で2人の時に聞いてもらうとする」


「ええ。いつでも」


キュッと抱きしめ返したファビアをディエゴはもう一度抱きしめた。


前世で出会わなかった女性が本当は運命の女性だった。

コイツに会えてなかったら。俺はまた同じことを繰り返していたかもしれないな…。


「帰ろうか。俺たちの結婚式を挙げるために」


「ええ。ディエゴ様」


事件の後始末でバタバタと動く部下たちを尻目に2人は改めて絆を確認しあった。


やれやれとその2人をレイナルドが側で見ていたことはとっくに忘れて…


さて、僕は帰るとするか。

結婚式にも参列せねばならないしな。


レイナルドはそのままその場所を後にした。


フロレンティーナはもう処刑を免れないだろう。

これですべて粛清できる。


ガーディアンの再興も目前だな。


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